流星の君を求めて⑤
金属生命体の群れに囲まれるニラティの巨大な像。果たしてこれはなんなのか?
ヴィヤーサン達はどうするつもりなのか?
都築をご覧ください。
避難民キャンプから少し離れたところに、大きなテントが建った。
避難民やサンジーヴァナ住民の更なる避難計画、支援物資や炊き出しの計画、あるいは報告。そして金属生命体の迎撃計画を練り、指揮するための作戦本部といったところだ。
ずらりと並んだ机には、サンジーヴァナのフィクサー達、有力なレアメタルハンターをはじめとした、この事態に協力する意思のある者たちが集まった。末席にはイェンラやホボウリンの姿もある。
その一番奥、集った協力者全員から見える一段高いところに、ヴィヤーサンの姿があった。
「……えー、どうも。ノンアルコール水商売おじさんこと、ヴィヤーサンです。
皆さん聞こえてますかね?聞こえてない方は聞こえないよーって仰って下さいね、そしたら僕が”おいおいスティーブ、この声が聞こえてるじゃないかハッハッハ”ってお約束のヤツやりますんでね……と言ってる間にマイクOKかな?よォし」
マイクの音量調整終わりまで小噺で繋いでから、切り出す。
「今回は僭越ながら、僕が指揮を取らせて頂くこととしました。承認を得ている暇はないので、報告だけです。ご了承ください」
少なくとも見えるところに文句を言う者はいなかった。私財を投入した迅速な避難民保護、サンジーヴァナ住民にもハンターにもつながる顔の広さ、指揮能力、そしてシンプルな私兵という手数の多さを考えれば、ヴィヤーサン以上にここを取り仕切れる者はいないだろう。
「現在避難民とサンジーヴァナ市民のうち、戦闘や支援の出来ない者、そんな彼らの護衛部隊は、包囲の薄い西側の避難所へ誘導しています。
いよいよここが落ちたら、西の湖まで逃げる計画も進めています。ウチの水源の一つで、今のところ金属生命体の出現は確認されていません。そっちの設営も進んでいますが、その辺の詳しい報告はあとに、ウチの者からさせますので、お待ち下さい。
それでは私からは本編を。お手元の資料ご覧ください。時間がないんで大したモンはないんですがね。照明よろしく」
その一言でヴィヤーサンの背後の照明が落ち、壁にはスライドが大映しになった。
一つは周辺の簡易見取り図である。
「ご存知の通りサンジーヴァナは要塞としては0点です。有史以来戦う相手がいませんでしたからね。
こんなことになると判ってりゃ、堀でも作っとくべきでしたが、今更だ。
てなわけで、昨晩完徹で防御線を作りました。皆様にはご協力感謝です。ラージャクラのパワーを考えると気休めですが、ないよりはマシでしょう。現状は交代でここに高圧電流流せるワイヤーを張る工事を進めています。
邪魔が入らなければ……二日くらいで終わる予定です」
金属生命体は強い磁場を嫌う。義肢工房で働いていた二ラティがぶっ倒れたことから、ヴィヤーサンはそう推測していた。
「ああ、ついでに一言付け加えておきますが、トラカンやヴァルセトラ、セラヴィンは、現状何の動きも見せていません。支援など期待するだけ無駄でしょう。彼らが動くのはきっと、我々が全滅した後だ」
いつの間にかヴィヤーサンはジャケットを脱いでいた。黒のクルーシャツの胸元には古びた小さな懐中時計が揺れていた。
「さて、次をご覧ください。僕の趣味じゃないですよ」
切り替わったスライドは、二ラティの巨像とその周辺を映したものだった。
「ドローンで撮影しました。サンジーヴァナ東に現れた……便宜的に一夜像とでも呼びましょうか。
下の土台が直径千五百メートルで高さ百メートル、そこから生える像の部分がおよそ全高五十メートル。
周りには不気味な詩を繰り返す奇岩と、金属生命体が取り囲んでいます。要塞ってほど厳つくはないのですが……演題、舞台にしちゃあ、やることが物騒すぎますよね」
数枚のスライドが次々と切り替わる。銀色の光沢に満たされたそこは、人食いの化け物の縄張りにしては幻想的で美し過ぎた。
「何のためにこんなことをするのか……人間には永久にわからんでしょうね」
さらりと言ってのけるヴィヤーサンに、その場が一瞬静まりかえる。
「しかし、野営地が食い潰されている現状、彼らの詩のようにちょっとアクの強いオトモダチでは済みません。並べば食い殺されるのは、歴史が証明しています」
いつものヴィヤーサンと違った、淡々とした物言いが、むしろ目を逸らしようのないリアルを突きつける。
「一刻も早くこいつらを排除しなければ、いずれ我々は食い殺される。それだけです」
「小僧、その次はないのか?」
その一言が会場のどよめきを吸い取り、体感気温を二度下げた。声の主は片隅の席についていた老人であった。白髪のオールバック、詰襟シャツに鱗模様のベストという洒落者の出で立ちであるが、しゃんとした背筋と、深い皺の刻まれた顔に輝くあまりに深く鋭い目つきに、ヴィヤーサンすらたじろいだ。
「タウラカ会長……いらしてたのですね」
思わぬ人物に、ヴィヤーサンは背中に流れる冷や汗を感じた。
「少し見ない間に偉くなったな、小僧」
「……滅相もありません」
サンジーヴァナのシュランダで、この男を超える権力者は恐らく存在しないだろう。何しろ彼は、人類のレアメタル利用を切り開いた人物の一人なのだ。歴史を変え、文明を押し上げた偉人である。
フィクサーという言葉では表しきれない。そんな男からすれば、ヴィヤーサンも洟垂れ小僧同然だろう。
「現状共有大いに結構。だが共感も感謝も後で良い、勝ち筋を出せ。お前は水売りだろう?油を売るなよ小僧」
タウラカの声は決して大きくない。だが重く、腹の底から響くような迫力がある。気圧されそうなヴィヤーサンの胸元で、懐中時計が揺れた。
「……有志によるレアメタルハンターの連携作戦を進めています。メレルツァにリーシャル、リシマー、ガナート、ツムム、ソルムッカなどの有力ハンターが残存戦力をかき集めています」
「打撃作戦か……」
「いえ――救出作戦です」
硬く冷たい決意を秘めたヴィヤーサンの声は、もはや気圧されていなかった。タウラカは首を傾げた。
「救出……誰をだ?まさか今から野営地で生存者を探すつもりか?」
「残念ながらその余裕はありません。
ついでに言えば、打撃作戦を敢行する戦力もないのです」
切り替わったスライドは、一夜像を中心にサンジーヴァナを包囲する金属生命体の全体像に切り替わった。複数の映像を繋げたものであるが、金属生命体が履いて捨てるほどいるのが判る。
「ラージャクラだけでおよそ百五十、中型のサンガストラが七百以上、小型のチャペラに至っては……守っているうちに数え切れないでしょう。更にはいままで確認出来なかった短距離の滑空をするものや、背中や頭に未知の器官を生成した……変種のようなものも確認されています。
この後、一夜像近辺ではドローンの制御が効かなくなりました。恐らくこの中には妨害電波を飛ばす機能を持ったものもいるようです。どうやら彼らは今この瞬間も進化しているようだ。
この数相手で打撃作戦では返り討ちです。なので我らは戦力を集中して突っ込むしかないのです」
「答えろ、誰の救出だ?」
「ご覧になっているはずですよ、スライドのど真ん中におります」
「……あの小娘か?」
信じられないという顔のタウラカに、ヴィヤーサンが大きく頷いた。
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