流星の君を求めて④
夜が明ける。
そこでイェンラが見たものは、一番見たくない姿をしていた。
イェンラは夜明けが好きだった。夜中より静かで、夜中より暗く寒い時間からの解放は、人も街も荒野も森も、空さえも眠りから目覚めるように見えた。だから、雨でも晴れでも夜明けを見るのが好きだった。
そんな彼女の中で、今日の夜明けは最悪だった。東の空が明るくなると同時に、サンジーヴァナの人間全員がそれを目撃した。
小山のように積み上げられたレアメタルの山から、人間の上半身を象った像が生えていた。光沢を帯びた銀色の金属で作られたそれは、ラージャクラの数倍もある巨体である。たった一晩でこんなものが現れたというだけでも衝撃だと言うのに……それだけではない。
まず不気味なのはその像が微笑みを浮かべ、腕を広げ……まるで抱擁を求めているかのようであることだ。
友愛を装い襲うつもりなのだろうか。ファーストコンタクトならともかく、捕食者と判っている相手からの友愛なぞ、誰が受け入れるのか。バカにしている。
それもそれで腹立たしいのだが、図抜けて不愉快なのは、その像がどう見ても二ラティの姿を象っていることだった。
「私は認めない。そんなわけあってたまるか」
口先でどう意地を張ってもイェンラにはそうとしか見えない。そうだ、背後のおじさんたちはきっと違う。違うと言ってくれるだろう。
どだいオッサンという生き物は、女とはまったく感性が異なる生物なのだ。だからアレを見ても、ニラティだと判断する可能性は……極めて低い。そうだ、そうに違いない、そうあってくれ。
「残念ながら……ありゃ二ラティだな」
「いやぁ凄いねぇ。銀一色、しかも見たこともないくらい穏やかな笑顔なのに……ラティにしか見えない。
よく出来てるよ。手のひらサイズにしてくれたらデスクに置きたいもんだね。
こりゃあ……一体何が起きてるんだろうね?」
あっさり認めるホボウリン、表情まで読み取るヴィヤーサンの二人に、イェンラの希望は容易く打ち砕かれた。
防御線に立てられた物見櫓に登って見通す。抱擁を求める巨大な二ラティ像の周りには、獰猛な金属生命体が大小さまざまでうじゃうじゃしている。どういうわけか、時たま像に体を擦り付けているものまでいるではないか。
「意味わかんない……」
「困ったねぇ。ラティは元々人に好かれるタイプなんだと思ってたけど……まさか金属生命体にも好かれるとはね。あれじゃ親玉だよ」
「冗談じゃないぞクレンズ!言っていいことと悪い事があるだろ!」
反射的に噛み付くイェンラであるが、ヴィヤーサンはケロリとした顔で、少し伸びた口元の髭を弄った。
「怒るなよ。僕に噛みついたって変わらないだろ?認めたくないのは判るけど、思考放棄は悪手だよ。
一目瞭然、明らかに懐いてる……それだけじゃないんじゃないか?いや、僕よりも……一味だった君らの方が判るんじゃないか?」
「っ……!」
「僕は聞いた話からの判断だけど、君は見たはずだ。
一番やられたくないタイミングで隠し玉を仕掛ける、直感に優れた獣のようなやり口。数で有利なことを判っているから、変なことはせずにじっくりと押し込む冷静さ。熟した果実が手の内に転がり込むのを待って、自分の消耗を抑えるのは合理性と性格の悪さがにじみ出ている。
僕はこの狩のやりかたを知ってるぞ。きっと、君が憧れた姿に似ているはずだ。それがラティだろう?」
「くっ……!」
その言葉にイェンラは、急所でも刺されたかのように顔を歪ませた。自身も薄々気づいていた。周到な陽動の配置に、執拗なくらいの主力。
それらを同時多面的に展開、連携させていく鮮やかな手腕には見覚えがあった。ヴィヤーサンの言う通り、二ラティの巻狩りによく似ている。
「そんなはず無い……マムが人間を、いいや、私達を攻撃するだなんて、絶対にあり得ない。
やらなきゃ殺すと脅されたってマムはやらない。そういう人だ……!だから、だから……だから、そんなマムが大好きだったんだ……!」
血を吐くような反論であるが、残念ながら最初から感情論。これではろくな意味をなしていない。だからこそ、ヴィヤーサンは小さく頷く。
「そうか……安心したよ。
ラティの意外な情の深さが……僕が知る頃と変わってなくて」
涙ぐむイェンラにハンカチを貸して、ヴィヤーサンは二ラティの姿をした異形を眺めた。
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