流星の君を求めて③
金属生命体の襲撃を受けるサンジーヴァナ。
追い込まれる住人達。
果たしてなにが起きているのか?
ぜひご覧ください。
「生存者の確認が取れてるのは……もうサンジーヴァナしかない。起きてるんだよ……既にね。
だから僕は、サンジーヴァナの有力者に声をかけて、難民キャンプの設置と、防御線を大至急設営してる。
この前ウチがトラカンからひどい目に遭わされたからね、みんな準備はしてたらしい……防壁は考えてなかったけどね。
見えるかな?ほら、あれだ」
キャンプの中央、大きなたき火の反対側のずっと先では、急ピッチで防御線の設営工事が進んでいた。
備えがあったとは言え、鉄パイプと鋼板を組み合わせた物や、楔形の巨大なコンクリートブロックを並べたもの、鉄条網など内容はバラバラであったが、無いよりは遥かにマシであった。
「僕が思うに、多分これは……戦争なんだ」
ヴィヤーサンが苦々しく呟いた。
「僕だってイェンラが傷ついてるのは判るさ、心を休めて、カウンセリングを受けて……忘れるなり飲み込むなりできる日までそっとしてやりたいさ。おじさんは傷ついてきた生き物だからね。
でも、残念ながらそれは今じゃない。事態が済んでからだ。イェンラ、君はまだ立てるだろう?もう永遠に立てないヤツは山ほどいる……済まないが、踏ん張ってくれ。残酷なのは判ってるさ、だが必要なんだ。
僕らが生きるためだけじゃない。誰かの家族や、誰かの愛する人が生きる為に、今は立ち上がらなくちゃならないんだ」
ヴィヤーサンの言葉は静かだが、果てしなく重く残酷で、だが紛れもない事実であった。
「見えたんだ……」
「何が?」
「あいつらの真ん中に……大きな人影が見えた」
「……どういう意味だい?」
「判るわけないだろ。私だって信じられないんだ……暗い中、積み上げられたレアメタルが、巨大な人型になってた……ように見えた」
「……意味が判らないな。百歩譲って連中に文明が芽生えて、像を作る趣味が生えてきたとしよう。それが人型なのはおかしい。せめてラージャクラの形じゃないか?」
ヴィヤーサンの質問はもっともであったが、イェンラだってその答えを知っているわけではない。声を張り上げるのが関の山だ。
「そんなの私が訊きたい!……だから話したくなかったんだ、こんなの……頭がどうかしたんじゃないかって、自分でも思ってるんだ」
頭を抱えて項垂れるイェンラである。無理もない、
「おっと、済まない。疑ったわけじゃないんだ、話してくれて嬉しい。少し予想外だっただけだ……他には?」
「気の所為だと思うけど……」
「なんだい?教えてくれ」
「そいつ、似てる気がした」
「誰に?」
「……マム」
「ラティに?」
流石のヴィヤーサンも反応に困った。別々の心配事を一つにまとめられると、相乗効果でより厄介に感じる。
「それと……聞こえないか?」
「なにが?」
「声だよ……あれか、防御線の工事でオッサンどもには聞こえてないのか」
「……?ちょっと、止めてみようか」
ヴィヤーサンの号令で、周辺の防御線の工事が一旦止められた。
サンジーヴァナ東側、その深い闇の向こうから聞こえてきたのは……果たして声であった。風に鳴く奇岩のそれに似た、虚ろで不気味な音であるが、耳は確かにそれを声、しかも女の声だと判断した。
「流れ星 我が星よ
瞬きの世に 差す光よ
遥けき刻を 夢に抱き
この胸 今も 貴方を裂き
動けぬ我は 鈍く重し
ばらまく欠片 種の命
だが貴方は 二つ授けた
知恵ある子と 翼の戦士
その子らあれば 届くのだ
貴方の元へ 翔けるのだ
触れられずとも 祈り馳せ
必ず貴方に 会えるのだ
その日を前に 友らと溶け
幾たび愛を 重ねて溶け
幸せなりと 私の芯が
告げるよ 流星の君が
会えたらもっと 幸せなり
命のすべて 捧げて足りぬ
見ていてほしい 我がこの詩を
貴方に捧ぐ 愛の結び」
夜風に乗って流れてきたディルガナの詩である。これが何度も何度も繰り返し流れてくるのだ。そんなもの事情を知らないサンジーヴァナの者たちにしてみれば、不気味で仕方ない。
「なんだこれ……」
「不気味で……怖いんだ」
ざわざわと首をひねる者たちの間で、イェンラだけはもう一段だけこの詩を読み解いていた。何度も何度も聞き返し、メモにおこして咀嚼する。
「なんなの……こいつは」
本能が深い理解を拒む、それが最大限の理解であった。この詩は恐らく、陶酔と賛美に彩られた深い愛の詩だ。しかしその愛を彩るのは、執念と狂気である。
「なんて言ってる?」
「……詩としての完成度はそこまで高くない。
多分陶酔した愛、侵略するような支配欲、歪んだエロス、異常なまでの無条件の受容。
意味わかんないよ、まともな人間の頭じゃない」
これらの全てを同時にぶち込んだ詩を、イェンラは知らなかった。どれ一つとっても常人とはかけ離れている。一体どんな精神構造なら、こんなものが湧いてくるというのだろうか。
「これは多分……人間じゃない。バケモノだ、闇の向こうに得体のしれないバケモノがいる。
詩を理解する知能と、常人からかけ離れた価値観……こんなのおかしい!人間じゃない!」
植物が花を咲かせるように、小鳥が飾り羽や歌声で求愛するように、詩でアピールするバケモノだと割り切った方がまだマシだった。
「おいおい、怖いこというなよ。なんでバケモノが人の言葉を喋るのさ」
「判らない。深く考えると頭がどうにかなりそうだ……」
頭を抱え震え上がるイェンラの呟きに、ヴィヤーサンは引き攣った笑いしか出なかった。防壁設置作業に向き直り、何とか取り繕う。
「はは……なんなんだろうね、これ。
ご協力ありがとう、現場の皆さん。再開してくれ、後で差し入れを用意する……お願いします」
そして言いようのない不気味さに蓋をするため、迫りくる恐怖から一刻も早く自分達を切り離すために、再開した防御線の工事は狂ったように加速していくのだった。
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ヴィヤーサン達はこの事態を切り抜けられるでしょうか?皆さまならどうしたと思いますか?
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