復活、ごみ捨て場より 後編
しかし二ラティはメソメソと助けを求めるような女ではなかった。迷い、間違うことはあっても、足を止めない。そのスタンスが彼女をこの街で成り上がらせたのだから。
ヴィヤーサンが手配したスープを平らげ、自分の服に着替えると、ヴィヤーサンが席を外した隙に市街地へ繰り出した。
この惑星唯一の都市サンジーヴァナ。無計画野放図に広がったこの都市は、どこを見ても密集したビルディングと、ビカビカと輝く広告に埋め尽くされている。血管のように張り巡らされた無数の幹線道路には、薄汚い車が昼夜問わず走り回る。
その外郭にはスラム街が広がり、その路地裏では野良犬とホームレスとギャングが無限の縄張り争いを繰り広げる、イカれた町だ。
カネも、権力も、人権も、快楽も、酒も、生存も、居場所も、自らの力で勝ち取らねば誰かに奪われる。暴力と権力と財力がモノを言う、最悪で最低で最高の街だ。
そんな街の片隅で、二ラティは深呼吸した。空気清浄機を通した素敵な空気ではなく、煤煙と機械油と何かの腐臭の入り混じったこのイヤな空気を吸って初めて、サンジーヴァナに戻ったと実感できた。
「よっし、こうでなくちゃ」
幸い財布はあるし、クレジットも生きている。買い物には困らない。
まずはこの革パンが死ぬ程似合わない今の自分を、いつもの姿に近づけねばならない。
ボサボサに伸びていた髪はバリカンで左サイドを大胆に刈り上げ、銀色へなった右目が目立たないよう、そっちサイドへ重めに流すことにした。
明るめのファンデーション、濃いブラウンで仕上げた太めの眉。アイシャドウはいつもならどぎつい赤にするのだが……銀色固定の頭四分の一との相性を考えて明るめのパープルを濃くし、目尻も長く伸ばした。リップはアイシャドウと揃え、オレンジのチークを高めに入れる。
仕上げとばかりに右目にはパープルのカラーコンタクトレンズを仕込んだ。銀色の顔なんてどう隠しても目立つのだ、それならいっそファッションだ、メイクだと開き直るべきだと考えたのだった。
「っし、気合入ってきたな」
自分の頬をペチペチ叩く。さっきまでの自分は、少々清楚すぎた。郊外の農村ならそれでも良いかもしれないが、この町であの様子ではナメられる、あるいはマニア向けの街娼に見られることだろう。いつもの革パンとジャケットが似合うようになった今の自分なら、そんなことはありえない。
このパンクな格好はもちろん趣味でもあるが、三割程度は無駄なトラブルを避けるための、自衛手段でもあるのだ。
「さて、帰るか」
行き先は決まっている、自宅へ帰るのだ。サンジーヴァナ郊外には、ハンターとしての拠点兼自宅、言うなればアジトがある。スラムが近いので少々素敵な治安ではあるのだが、まあどうにかなるだろう。そうだ、別段ヴィヤーサンに匿ってもらう必要なんかないではないか。
ちらりと目に入ったのは、この都市の中央に鎮座する巨大な建造物、ヴァルセトラの塔である。
直径数百メートル、高さ数キロ近いと言われるこの流線型の白いデカブツには、この世界の支配者であるとされる「ヴァルセトラ」とその主「セラヴィン」が住んでいるとされ、崇め奉られている。だが、五十年生きてても、そんな連中はあったことはおろか、見たことすらない。
ただ、レアメタル買取の最大手の連中であるため、全くの虚像というわけではないようだ。二ラティ達にとっての『日銭を稼ぐ生業』は、宗教家にとっては『ヴァルセトラに対する供物とその対価の授与』なのだ。
あの塔の内部でレアメタルが何に使われているのかは知らないが……まあ、無限の買取先があるというのはありがたい。崇拝はともかく、感謝はしてやっていいだろう。
生まれる前からあった当たり前のことが、今日はなんだか妙に気になる。まるで誰かが、もっと教えろとせがんでくるようだ。
「面白くないね」
別段誰が何を信じようと、ニラティにとってはどうでも良い。だが、二ラティは何となくヴァルセトラ共がいけ好かない。
彼らの定義では、人類は4つ存在する。それによると二ラティ達「シュランダ」は、ヴァルセトラの為に文明を発展させる手足、労働力として作られた最下層の存在だというのだから気分が悪い。
それがただの迷信なら鼻で笑ったのだが……何しろ実際にもう一種の人類が、実際に目の上のたんこぶとして存在するのがその証明だ。なんとも腹立たしいーーと、二ラティの物思いは、いきなり目の前で急停車した車に遮られた。
波打つ甲虫のような姿をしたキラキラしたこの車はセガルツォ、馬鹿みたいな高級車である事以外、車に興味のないニラティは知らない。普段なら無言でバンパーに足跡をくっきり付けてやるところなのだが……それをギリギリで思いとどまったのは、その車がヴィヤーサンのものだったからだ。
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