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脳を蝕む鋼の芽  作者: そのえもん


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縁起物のニラティ

 暫くそんな狩猟生活を続けたのだが……やはり≠の探知能力は、計り知れないアドバンテージだった。

「いやぁ……この目、バケモンだね」

『でしょう?むしろ、探知能力なしに狩りをしている他の皆さんが信じられません』

 金属生命体の目は、普通は見落としてしまう些細な反応から地平線の向こうの大捕物まで、視界で易々と拾える。二ラティの視界には、一人では狩りきれない程の獲物が常に映っているのだ。

 腕の良いレアメタルハンターでも、そこそこの獲物を捕らえるのは週に一〜二度である。それが毎日のように獲物にありつけるのは、控えめに言っても異常だ。

 マイペースに狩るだけでもあっという間に借金を返し、気付けばニラティはサンジーヴァナの郊外に小さな拠点を構えることが出来た。

「本当に三年で……以前のアタシの三十年に追いつきそうだね」

『ええ。あの頃のワタシに、ウソやお世辞を言うほどの柔軟性はありませんでしたからね』

「なんの自慢なんだか……」

 その日も大物狩りに加勢した二ラティであったが、いつもと違ったのは、声を掛ける前に二ラティだと気付かれたことだ。

「なあ、あんたもしかして”じゃない方の二ラティ”だろ?」

「え?……何処かで会った?」

「ここらへんじゃ少し有名だよ。ヤバいの相手にしてると救援に来てくれる凄腕、ってね」

「やだなぁ……なんかアタシがけしかけてるみたいじゃないか」

 そう言うとハンターは笑った。

「いやいや、むしろ縁起物だよ。じゃない方の二ラティを見かけると、近くに大物がいるって」

「なんだそりゃ……」

 十年も前のレアメタルハンターは一匹狼ばかりだったのだが、金属生命体の洗練、大型化が進んだことで、徒党を組み情報共有するハンターが一般的になりつつあるようだった。その中でも一人を貫き、そのくせ常に獲物を捕らえてくる今の二ラティは、やや異質な存在であるらしかった。


「ふぅん、そんなもんかねぇ……」

 なんて言っている間に、二ラティの立ち位置が少しずつ変わっていった。最初こそは「辺境で見かけたら縁起物」くらいの感じであったのだが、気付かぬうちに次の段階へと進んでいた。

 ある日、よく使う野営地へ足を運んだところ、わざわざそこに来客があった。相手は十人ほどの徒党を組んだレアメタルハンターである。

「ああ、やっぱりここにいたか。このあたりで”じゃない方の二ラティ”のキャンプ地があると聞いてたんだ。同行させてくれ……獲物は山分けでどうだい?」

 どうやら彼らは、最初から二ラティを追って動いていたらしい。

『……どうします?』

 ≠も困惑している様子だ。目の前で独り言を言うのも憚れる、ニラティは頭の中で返事をする。

(まあ……一回くらい試してみるか。応援で駆けつけるよりは、山分けを約束した同行者の方が実入りがいい)

「いいけど……アタシの言う事に逆らうなら、すぐに解散するからね?」

「オーケー、決まりだ」

 目で周囲の獲物を捉える二ラティに、完全な空振りというものはほぼない。毎回大型とはいかなくても、その半分程度の大きさで群れを作る中型、最低でもこの前一人で狙撃していた小型は見つけられる。

 この程度の成果であっても、完全な空振りがないというのは、向こうのメタルハンターにとっては十分嬉しいことだろう。

 二ラティにもメリットがある。今までの二ラティは前衛がおらず、狙撃しかできなかった。何しろ一度殺されかけているのだから、真っ向から対面するのはまだ抵抗があったのだ。

 そのため、一人では仕留めきれないあの化け物は、自分から手出しができなかった。前衛や大火力での砲撃をしてくれる同行者の存在はありがたいのだ。

 なにしろ見つけるだけなら、指一本すら動かす必要がない。手早く駆けつけ、速やかに取り囲んで仕掛けるだけだ。


 その目論見は当たった。彼らはあの化け物を午前中に一頭仕留め、そのまま更にもう一頭の追跡に入った。

『噛み合うもんですね、連携』

 レアメタルハンターが大物を狩るときに使う手法は、それほど複雑なものではない。誘い出して十字砲火を叩き込む――言わゆる巻狩りに近い。

「まあ、イニシアチブはこっちにあるからね。前の一味ほどじゃないけど、あの化け物を自分から狩ろうなんて奴らだ、腕に覚えがあるんだろうさ。アタシほどじゃないけど」

 なんて話をしながら、二ラティの放った弾丸は、遠く離れた金属生命体のくそでかい額をぶち抜いた。

 自分からあの化け物を追って、狩る日がこんなに早く来るとは思ってなかった。もはやあの化け物は二ラティにとって仇ではなかった。

「流石だ、二ラティ。まさか一日でラージャクラを二頭仕留めるだなんて……予想以上だ」

「ラージャクラ?へぇ……このでっかいの、名前がついたんだ」

 それは、意味としては王者とか、それに匹敵する言葉だ。大仰な名前であるが、”正体不明の化け物”に比べれば、なんてことない。

 レアメタルハンター全体が、金属生命体の進化に対応してきたのだろう。整えた戦力と作戦があれば、この化け物すらどうにか狩れると暴いてしまったのだ。

「ああ、いつまでも化け物じゃ判りにくいからな。デカくて、速くて、タフで……危険だが実入りもデカい。ピッタリだろう?」

「ああ。ついでにそいつを狩るのは気分がいいね」

 ラージャクラ、そう名付けられた瞬間から、こいつは”狩猟対象”に成り下がったのだ。……無論、油断できない相手ではあるが。


「なあ、ノット……もしかしてアタシ、自分で戦わなくても生きていける……ってこと?ワンチャンあるよな?」

『いや、ワンチャンどころじゃないですよ』

 ぼんやりとそんなことに気づいたのはその数日後。サンジーヴァナで一人遅い昼食をもそもそとっていたある日であった。

 その日は、食料や弾薬を含む備品の買い出しに、かつてないハイペースで使い倒していたライフルのメンテナンスのためにと、一日サンジーヴァナにいるつもりだったのだが……予想外の日になった。

「何人来たっけ?」

『朝起きた時点で三組、顔洗ってたらもう一組、朝食後に二組……。買い出し行って帰ってきたら三組待ってて、その対応してる間に一組と……そしたらヴィヤーサンの方に行ってたのが五組ですね』

「そんなに来たのか……」

 この来客は刺客や配達ではない。二ラティに金属生命体の場所を聞きに来たレアメタルハンターの数だ。

 今日はメンテ日、狩には行かない、帰れ。取り付く島もなくそう断ったのだが、まさかの全員が「金は払うから場所だけ教えて欲しい」と食い下がってきたのだった。

「じゃあ……売り上げの一割もらえるなら教えてやる。それだって確実じゃないよ」と冗談交じりに応えたところ、どいつもこいつもそれに頷いたのだった。

 仕方がないからペラ紙に、今見えてる金属生命体の位置と、進路予測をざっくり書き込んで渡してやった。なんの苦労もない落書きであるのだが、それだけで存外感謝されるものだから、まあまあ気分が良い。

『うまく行きますかねぇ』

「さあ、あいつら次第だね。でも、いたのは確かだからね、痕跡くらいはあるだろうさ」

 リアルタイムで見えた情報なので、タイムラグを考えれば確実に見つかるとは言い難い。だが、ドンピシャでなくとも、そこから痕跡を見つける確率は高い。コレだけでも、今までの運と技術で探っていたハンターにとっては、驚くべき高精度だ。

「あれ?……もしかしてこれ、儲かるんじゃね?」

 二ラティにとっては、チラシの裏に書いた適当な地図なのだが、これが数日後にはまあまあの金額になって帰ってくるのだ。

「十五組か。連中の成功率が半分だとしても、一人で狩ったときの七割が転がり込んでくる計算だね」

『ああ、意外と大した額じゃないですね』

 肩透かしを食らったような口調の≠に、二ラティは大慌てて手をパタパタさせた。

「いやいやいや、今まで自分で車を転がして、ライフルをすり減らして弾ばら撒いて、遠巻きとは言え命がけで狩っていたんだよ?ガラの悪いハンターだっていたし。

 それに対してどうよ、使うのは紙切れ一枚とボールペン。しかも自宅でお茶しながらだよ?  なんかめっちゃ楽なんだけど。

 しかも、一日でだ。

 依頼の数にもよるけど、もしかしてさぁ」

『あら……こりゃえらいことになりそうですね』

 こうして”じゃない方の二ラティ”は金属生命体の居場所を当てる”預言者”としての一歩を踏み出した。


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