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プロローグ 後編

プロローグが前後編ってなんだよ!

って思ったそこのあなた!

私もです(白目)

「おいおい、あんなの見たことないぞ!」


「へぇ、レアメタルも秋冬の新作発表があるんかね!」


 今まで狩っていた金属生命体も凶暴ではあったが、どんなに大きくてもあれの半分を遥かに下回る、動きものそのそ、ジタバタとしたものばかりであった。


 それがどうだ、悠々と装甲車に追いつき、頭から噛りつこうとしているではないか。あれほどの機動力と戦闘力を備え、洗練されたフォルムの金属生命体を目にしたのは、この仕事を三十年やって初めてであった。


「くぉら、こっち向けやバケモノがぁ!」


 二ラティの銃座が真っ先に火を吹いた。狙いはバケモノの眼窩である。両者疾走するこの状況でドンピシャで目玉を射抜くのは不可能だろうが、気を引くのは成功したようである。


 横合いからの攻撃に怒りが湧いたか、バケモノはこちらにぐるりと向き直り、下顎を地面に擦るような低い姿勢で吠えた。勢いで飲み込まれてはお終いだ。こちらも腹の底から吼えた。


「ケーフはこの前婚約したばっかで、ルペシは病気の妹がいるんだ、バケモノのオヤツにゃもたったいねえんだよ!」


 銃身が赤くなるほど弾丸をばら撒き、なんとかこちらにバケモノを引き付けるうちに、勢子たちが追いついた。ニラティのものほどではないが、それぞれ武器を構え、取り囲むように距離を取って銃弾を雨あられと浴びせる。


「マム、危険です!引っ込んで……せめてヘルメットをしてください!」


「そんな暇無いよ!あいつは今カンカンでこっちに食いついてんだ、アタシが引きつけて袋叩きが一番手っ取り早い!無線貸しな、全員につなげ」


 引っ手繰った無線機に怒鳴りつけた。


「総員一斉攻撃!あんなデカブツ相手なんざ、どう撃っても当たる!徹甲弾でぶっちぎってやんな!」


 機関銃の一発一発は大したことなくとも、数がまとまれば流石の化け物も脚が止まった。そこを狙った戦車砲の徹甲弾は尻尾を捉え、盛大にぶち抜いた。一撃では千切れこそしなかったが、その威力は凄まじく、千切れかけた尻尾の先端がプラプラしているのが見えた。前後の重量バランスが狂ったのだろう、目に見えて動きが鈍っているのが見てとれた。


「いよぉし、効いてる!このまま畳みかけて削ってやんなァ!」


 勝利を確信した瞬間、化け物がグリンと身を捩った。脚を中心にぐるりと水平に半回転、強烈な遠心力で引きちぎれた破片が巨大な散弾のように襲い掛かる。車内にいたタルカは反射的に身を守れたが、銃座にいたニラティはよけようがなかった。なすすべなく直撃を受け、銃座は根元からへし折られたように転がり落ちた。


「ッ――油断した、飛び道具だとぉ?」


 痺れる体に鞭を打って、ニラティはひしゃげて崩れた銃座から這い出した。何とか身を起こそう……としたのだが、体がうまくいう事を聞かない。視界も大きく欠けているではないか。


「マム!大丈夫で――うっ、やべぇ……」


 遠くから絶句するタルカの声が聞こえる。どうやら相当ひどいらしい。自分と地面の間に、何やら生暖かい水たまりが広がって行くのが判る。その上、巨大な足音がこちらに近づいてくるではないか。


 何のつもりか知らないが、こいつら金属生命体も餌を食う。それもどういうわけか動物の頭を狙って喰う習性がある。おそらく今は、ニラティが最も喰いやすい餌だろう。


「この……鉄クズの化け物が……」


 唯一の幸運は、無事な腕が機関銃を抱えて離さなかったことだ。化け物がこちらを頭から丸かじりにしようと開いた口に、死力を振り絞って機関銃を突っ込んだ。


「鉛でも……喰ってろッ!」


 引き金を引いてありったけの銃弾を口内に叩きこむ。金属生命体に内臓があるのかは疑わしいのだが、至近距離からの一斉射撃の勢いは凄まじく、吹き荒れる炎と火花の後、化け物の頭は一部が抉れて吹っ飛び、大きくのけ反った。


 瞬間、タルカが装甲車のエンジンを吹かして飛び込んできた。スピードを落とさず操縦席から腕を伸ばして、倒れたままのニラティを掻っ攫うように拾い上げた。


 既に自分がどうなっているのか、ニラティにはそれも判らない。だが、血を吐くようなニラティの絶叫は、その場の全員に届いた。


「撃て!撃てぇぇええええっ!」


 直後、化け物に向けて集中放火が降り注ぐ。大気を揺るがすような轟音が過ぎ去ると、そこには膨大な砂の山しか残されていなかった。




「マム……!返事してください!マム!生きてますか?」


 どうやら自分は寝かされているらしい。戸惑い震えるタルカの声が、悪い予感を加速させる。辛うじて動く右手でこわごわ頭を触ってみると……思っていたより遥かに酷い。頭の右四分の一が吹き飛び、右眼窩には巨大なレアメタルの塊が突き刺さっている。右手にべったりと付着した白い液体は脳漿だろうか。


(脳をやられたか。ああ、こりゃ本格的にダメだ)


 自分がしぶとい自覚はあったが、さすがに観念した。まだ息があるのが奇跡だ。


「タルカ……オフィスのデスク……椅子の裏に封筒が貼ってある……みんなで読むんだ。もう一通は……」


「マム?!」


 それはもちろん遺書のありかである。一味を切り盛りし、結婚もしなかった彼女にはそれなりの貯えがあった。自分がいつ死んでも、それが争いの火種にならぬよう、密かに用意しておいたのだ。


「マム!しっかりして下さい!マム!」


 それきり、ニラティの意識は闇へ沈んだ。脳をひどく損傷していたせいか、痛みがなかったのだけは救いであった。



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この作品はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係ありません。

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