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ゴキブリホイホイ

3人は声のするほうにさらに山を登っていく。

体感温度が変わり、一段と気温が下がったようだ。

音のほうへ行くにはちゃんとした登山道ではなく、冷たい沢を登り、苔の生えた崖を登るのが近道だ。

そう言いだしたのはローズだった。

進化して運動神経も体力も向上したとはいえ、歩きにくいし服も汚れるし。

少々の不満を男性陣は抱えながら黙々と歩を進めた。

「ここ、胎のはらのもり言われとる」泰也が言った。

「村の年寄にはあそこは絶対行ったらあかん っていつも言われとった、だけど行くな言われたら行きたくなるやろ?」

「おれは行かないけど・・・」と久志は言う。

「真面目か!おっちゃん」

「で 小学生の時、行ったわけさ。」

「何があったの?」とローズが反応する。

「何もなかった。というか辿り着かんかった。なぜかまた村に戻ってきてしまったんや。何度やっても一緒やった。あとで聞いた話やと、その先には洞窟があるらしい。でもそこへ至る道は呼ばれる者でないと道は開かれないらしい。」

・・・・ロールプレイングゲームでもあるよなー 何回も行ったけど先に進めなくて で、ちょっと飽きかけて惰性で遊んでたらイベントが起こって道を発見する みたいな。 ああ! ここかー! って。・・・・

と久志は心の中で思った。

それと同時に

「ゲームでもこいうのってあるよねー」とローズが言う

「そうそう これがふとした時にわかりにくい場所に道とか見つかったりするんよねー ここにあったんやーって」と泰也が返した。

キャッキャと言って話をしてる同世代の二人をしり目に「口に出さなくてよかった・・・」

と久志は小さい声でつぶやいた。


蜘蛛の機械を倒してからかれこれ1時間が経過したとき

目の前に古びた鳥居が現れた。木の地肌がそのままむき出しになっていて朽ち果てる寸前といった感じだ。

若い二人はすたすたと奥へ進んでいく。

久志は鳥居の前で一礼し、鳥居をくぐった。

耳鳴りは大きくなっている。明らかにこの先に発生源があるのだろう。

ちょっと進むと崖の下に建てられていた屋根が崩れ落ちたお堂があり、お堂の先に洞窟らしい漆黒の

穴が開いているのが見えた。本来であればお堂に入らなければ洞窟の入り口は見えないようになっていたのだろう。

「間違いなくここだな」

お堂の廃材をどかし洞窟へ入る。

廃材の板に「蛭・・・」という文字がいくつも散見された。

久志は懐中電灯を取り出し。奥を照らした。

「それ いる?」と懐中電灯を見て泰也が言った。

進化してから闇夜でも見えるようになる人が多いと聞くが。

「俺はいるんだよ」と少し腹立たしい気持ちで言った。


洞窟を進むにつれて、耳鳴りはさらに大きくなった。それは、まるで古い無線の混信音のように、途切れ途切れの声や信号音を伴っていた。

やがて、洞窟の最深部に到達する。そこには岩から生えたように不自然に金属が露出した部屋があった。とても古い無線通信装置には大日本帝国陸軍と読める文字が印刷されている。

「第二次大戦中の機械か・・・?」

だが、その装置は、かすかに動いていた。ノイズを拾うメーターの針が細かく振れていた。

隣の機械は恐らく複写機であろう。点字が打ち込まれたロール紙が50センチくらい出ていて

切り取られずにそのままになっていた。

とりあえず久志はその紙を切り取り、折りたたんでかばんにしまった

しかし音の発生源はここではない、違う部屋があるのかもしれない。

と その時、ローズの叫び声が聞こえた「ぎゃあああああああ」

見ると、今いる部屋の奥に扉があり、半開きになっている。ローズはそこにいるようだ。

泰也と急いでそこに向かう。

その部屋に入ると、震えて歯をカタカタ鳴らしたローズが直立している。

「池内 何やっとん?」 泰也が言うと。

「は・・・ はやく この蜘蛛 追い払いなさいよ・・・」

ローズが指さす先は肩に乗った1センチに満たない小さな蜘蛛だった。

「ぎゃあああはははは」泰也は腹を抱えて爆笑した。

久志は微笑みながら、ローズの肩に乗った蜘蛛をそっと手に誘導し、壁のほうに逃がしてやった。

「泰也 てめえ 殺す!」 泰也は「冗談やって・・」と涙目で諌めたが、ローズはプイっと拗ねてしまった。

ローズは虫(特に蜘蛛)が苦手だったのだ。

やれやれ・・・ 久志は苦笑した

あいつも丁度これくらいだったか・・・


その部屋は先ほどの部屋よりも少し広く六角形の形をしていた。

部屋の中心に台座に鎮座する石像がある。何を模した物かわからない造形をしている。

おそらく人なんだろうが、熱で溶けて変形したような顔をしていた。

台座には「蛭子の像」と彫ってある。

いずれにしても、耳鳴りの源はまさにこれだった。久志が像の前に立つと音はスーッと聞こえなくなった。

そして今回判ったことがある。これは何かの通信だ。

色んな雑音に交じってはっきりと聞こえた言葉。

女性らしいがとてもか細い「た・・す・・け・・て・・・」 と。


「これ、誰かが助けを求めてるよね」ローズが言った。

「そうなん?俺にはよく聞き取れんかったわ」泰也が続く

「あんた ほんとイライラする!」

「まあまあ、人によって感度が違うのかもな、いずれにしても以前は俺の周りでこの耳鳴りがするって人は一人も居なかったから、個人差はあれどこうして聞こえる人間が3人いるっていうのは心強いよ」


「ところでおっちゃん、ヒルコ?って何?」

「ああ たしか日本神話に出てくる神様の一人だよ。イザナギとイザナミって神様がいて、その二人の子供なんだけど、生まれた時に不完全だったために、川に流された・・・そんな話だったな。」

「ひでーな その話」

ローズははっとした後黙りこくった。

「私の事だ・・・・私・・・失敗作って言われた。不完全だって」ローズがぽつりとつぶやいた。

しばらく沈黙が続いた。

泰也は手に握っていた蜘蛛を見えないように後ろに捨てた。


3人はしばらく辺りを探ったが他にめぼしい物はなかった。

ふいに「ローズ、君はなんで俺をつけてきたの?」と久志が言った。


「私は・・・アメリカのCIAのスパイ」

「・・・・」

「ああ!?」 泰也がローズを睨んだ。敵側だと知った瞬間頭に血が上った。

「やっぱりテメェ!」

「何が目的かな?」泰也の前に手を出して制止するように 久志がゆっくりと問うた。

「各地の祠や構造物、あなたは今までいくつのそれらに到達したの?」

「おっちゃんが質問してんだろーが!」

「まあ 泰也、聞こう。 そうだな、20か所くらいかな・・・」

「じゃあ 私も含めて20回失敗したわけだ」と少し微笑んだ。

「どういう意味?」

「あの祠や構造体は、特別な因子を持つ者を呼び寄せる装置、そして呼び寄せられた者を捕らえるために私達が派遣された。」

「あの装置はアメリカが製造したの?」

「いいえ、あれら自体は元からあった、何百年、何千年か前からずっと存在していたらしいわ。」

「で、その因子を持つ者に僕が該当したわけだね。ゴキブリホイホイだね」

ローズと泰也は目くばせした。こんな状況で・・・・うわーー・・・・寒っ 二人はそう思った。多分。

進化した日、体調も良く、眼鏡をかけなくても視界がはっきりしたあの日、すばらしいと思ったが、数日経つと自分はごく平均的な進化だと実感した。筋力が異常に発達し普通乗用車を持ち上げる事ができるようになった人や、難しい数式を一瞬で解いてしまう人。進化にも様々な個体差があった。

大学時代にボクシングを少しやっていた程度で、動体視力には少し自信はあったが・・・

「で、その因子って何が特別なの?」

「ホムンクルスを作るとき、その因子があれば完全な人間の姿で生成する事ができる。」

その後しばらくは誰も声を出さなかった。

それぞれに抱えている事と向き合ってた。

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