若気のなんちゃら
山から吹き下ろす湿った風が漁村の外れかけた看板をカラカラと鳴らした。二人の男が、木製の棒を手に向かい合っていた。
「……ホンキで来てくれてええよ」
声には冗談めいた響きがあるが、その瞳の奥は真剣そのものだった。
久志の力はまだ完全には読めていない。だが、自分が子供扱いされる事は許されない。絶対的な自信がある。この村でも自分に勝てる人間はいない。今まで多数の怪物を倒してきた。だから手を抜かれたくない。その時泰也はちらりと山手側を見た。そこには路地の前で心配そうにこちらを見つめる小柄な女性が目に入った。宿の女将、宇賀神美幸であった。
「泰也君、あの人知り合い?」
「・・・ばあちゃんだよ。俺のばあちゃん。宇賀神泰也。俺の名前やよ」
「ば ばあちゃん・・・・?」
「そん事どうでもいいが 、そっちからこんならこっちから行くぞ!」
その瞬間泰也の姿が一瞬にして消えた。
次の瞬間、とてつもない踏み込みから地面すれすれに低い体勢で泰也は久志の眼前にせまっていた。「遅い!!」泰也はそのまま木の棒を下から上に切り上げた。久志はそれをよける事はせず、右手に持つ棒で斬撃を受け止めた。
カン! 木の鈍い音がした。遅れて衝撃波で久志の髪が逆立つ。ギャラリーにも衝撃波が伝わる。
「強い! 本当に。 あのカエルよりも」
・・・・確実に腹を切り上げたはず・・・あと1センチ・・・踏み込みが甘かったか・・・ベルトを切って恥をかかせてやろうと思ったのに・・・泰也は心の中で思った。
その瞬間、泰也の額に衝撃が走った。ピンッ! 久志がデコピンをしたのだ。
・・・・しまった、おっさんの左手はフリーだった・・・
「それで終わりかい? ばあちゃんが見てるぞ」
ギャラリーから笑いが起きる。
泰也は飛びのき久志と距離をとった。そして頭に血が上りそうなのをこらえ冷静に作戦を練った。
カラーン・・・
泰也は持っていた棒を放り投げた。靴も脱ぎ捨て、はだしの状態になった。そして拳骨を作った左右の腕を顔の前にやや伸ばし再び久志と対峙した。
久志の表情から少し余裕が消えた。
「それが本業かい?」
その瞬間稲妻のような速度で泰也のつま先が久志の喉元めがけて突き出された。ムエタイの蹴りようだ。 この一撃には殺意も乗っている。
これには久志も本気で焦った。のけぞってかわしたがほんの数ミリで喉ぼとけにヒットしてただろう。
「おっちゃんのこと正直舐めとった。」
それから泰也の猛攻が始まった。久志がのけぞったタイミングで足払い、久志はバク転をする形でかわす、すかさず弾丸の速度で泰也は踏み込んで来る。そして蹴り、突き。常人には見えぬ無数の攻撃により久志は防戦一方になってしまった。1撃が重い。木の棒は1撃目で粉々に粉砕された。どんどん海のほうに追い込まれていく。
・・・まずいな・・・ 海に落ちて濡れたら一張羅が・・・
・・・仕方ない あれ使うか・・・
久志は2、3歩下がったところで泰也を待ち構えた。あと一歩下がれば海にドボンだ。しかし泰也も慎重だ。ゆっくり近づくとあの最初に出した喉元への蹴りを出した。それを久志が肩でいなすと、泰也は地に着いた片方の軸足を回転させ、裏拳につなぐ。それを久志はかわす。そして泰也はそのまま反対の手で本命の苛烈な正拳を久志の顔面めがけて打ち込んで行く。当たればタダでは済まないな。その刹那、泰也や周りの景色がスローモーションになる。そして、久志は泰也の後ろに回り込み トンッ と背中を押した。そしてまた元の速度に戻った時、泰也は海に消えていった。
「おーい 大丈夫?」 久志は海をのぞき込む。
「くそっ!!」海上に上半身だけのぞかせた泰也は水面をパチン とたたいた。
泰也の祖母美雪があわてて駆け寄ってきた。他の住人も海に浮かぶ泰也を見に一斉に海をのぞき込み
泰也の無事が確認されると、今度は久志のほうに向きなおり、一斉に拍手が起こった。
「完敗や」
引き上げられた泰也は大きな声でそう言った。
「おっちゃんは一回も攻撃しとらん・・・」
「いやいや 泰也君 強いよ君は」
「フォローはやめてくれ。情けのうなるわ。しかし最後のあれはなんや?」
「……奥の手かな。はは、しばらく使ってなかったから、成功するか不安だったけどね」
久志は泰也の隣に腰を下ろした。遠くの波の音と鳶の声が、さっきまでの緊張を洗い流していくようだった。
「じいちゃんがよう言っとったんや。『勝てへん相手を見極めるんも、強さのうちや』ってな」
泰也は悔しそうに笑い、拳を握ったまま視線を遠くに投げた。
久志はその横顔を見ながら、少しだけ表情をやわらげた。
「で、俺を試したと。……ただの腕試しじゃない。何か理由があるんだろ」
「まあな。頼みたいことがあってな。こっから北の山に、“何か”が棲んでる。……人が襲われとる」
「……また“カエル”か?」
「ちゃう。あれとは違う。もっと――得体の知れんもんや。3日前に猟師が一人、消えた。動物もおらんなった。鹿も猪も。この前は熊が死んどった。はらわたえぐられてな。けど、姿を見たもんはおらん。でも気配だけは、濃い。山に入ると、鼓膜の奥がざわつくんや」
その言葉を聞いた瞬間、久志の表情が変わった。
「……耳鳴りがするのか?」
「する。ずっと微かに、風の鳴るような……いや、金属の軋むような音や」
久志は、昨日から気になっていた。耳鳴りは昨日の海辺で消えたはず。だか、海辺の祠の耳鳴りが消えてもかすかに違う種類の音が耳の奥で鳴っているのが気になっていた。
いよいよ疲れが溜まってきたか?そう思っていたが、どうやら違うらしい。
それが今、また少し大きくなっている。
「俺が追ってるもの……かもしれない」
泰也は驚いたように久志を見た。
「どういう意味や?」
「俺は耳鳴りのような音に導かれて旅をしてる。ある種の“呼び声”かもしれない。……けど、今回は違う。今の耳鳴りは、少し異質だ。不快に感じる」
久志は立ち上がり、山の方を見据えた。日が沈み、稜線が闇に溶け込む頃合いだった。風が吹き抜けると、確かに、微かに――“軋み”のような異音が混じる。
「お前の言う“化け物”、生き物じゃないな。……機械だ。おそらく、あの戦争の時代に放棄された兵器。制御を失い、今も動き続けてる」
「……兵器?」
「ああ。ホムンクルスとは違う。もっと原始的で、粗暴な技術のなれの果て。だが、進化した俺たちにも脅威になるレベルの“遺物”だ」
泰也は言葉を失ったように口を閉じ、やがてしっかりと頷いた。
「わかった。じゃあ話は早い。明日、案内する。おっちゃん――協力してくれ」
「もちろんだ」
その時、宿の玄関から、心配そうに覗いていた美幸が声をかけてきた。
「二人とも、風邪引くわよ。早く中に入りなさい!」
「はいはい! 行くで、おっちゃん。ばあちゃんの味噌汁、うまいんや」
「楽しみだ」
そして二人は、肩を並べて宿へと戻ろうとした時、何かを感じて後ろを振り返った。
少し遅れて泰也も振り返る。
「おっちゃん・・・」
「ああ・・・」
10mほど行った先の家屋の裏から殺気のような気配がしたが、すぐにそれは消えた。
「追うか?」と泰也が言った。
「いや・・やめておこう、どこかに行ったようだ」
「そっか」と泰也は言い、宿に入っていった。
・・・・・この気配は知っている
「まあ いいか 熱燗とホタルイカ・・・」
建物の屋根の上に、久志たちの光景を見ているすらりと背の高い女がいる。
いつかの蛇女こと、名を ”池内ローズ”と言った。
「今度こそ」とつぶやいたとき、体を支えている手に小さい蜘蛛がのった。
「ぎゃーーーーーー」 ローズは蜘蛛が苦手だった。
「ん?今なんか聞こえた?」
と久志は言った。
AIで泰也を書いてみましたが・・・ ギャラリーの人々の顔がキモイ・・・難しい・・・