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作戦会議

4人で食卓を囲み、この地域の郷土料理に舌鼓を打った。

「この前これくらいのブリを上げたわ!」

と得意げに両手を広げて泰也は言った。

「うそつけ! 持って帰ってこなかったじゃろ! すぐバレる嘘つくんじゃねえよ クソガキ」

「本当だっつうの! クーラーボックスに入らんかったんで 逃がしたんじゃ」

「もし釣っとったらその日はみんなに言いふらして大騒ぎやったはずじゃ、女の子の前で格好つけるんじゃないよ! バカたれ」

戦力としては化け物の泰也は17歳だった。頭の中は高校生なのだ。

「ローズを元気づけようとして道化を演じてるんだろう? 泰也君はやさしいなあ」と久志が言うと泰也は耳を真っ赤にして「誰がこいつなんか!」と言った。

「泰也、ごめんなさい。 すぐに出ていくから」といってローズは箸を置いた。

「ローズちゃん、あんたが謝ることはなんだよ、気にせずゆっくりしたらええ」と言って美幸は久志にウインクした。久志は苦笑いを返した。

「ちょっとトイレ・・・」と言って泰也は用を足しに便所へ向かった。

「ローズちゃん、気分を悪くしたらごめんね。泰也(あのこ)はね本当はとても優しい子なんよ」

「わかってます。でも今の私の立場はあまりにも・・・」

「言うべきか迷ったが・・・泰也の両親はね、殺されたんだよ。ホムンクルスに。泰也を庇ってね。泰也が7歳の時だったか。父親は漁師の傍ら格闘技の講師をしていてね、泰也は幼い時から格闘技を叩き込まれたよ。進化して、もちろん父親も泰也も戦闘能力は人並み以上はあったんだけど、襲って来たホムンクルスには全く歯が立たなかったって話さ。」

「そうですか。幼い泰也にはさぞきつかったでしょうね・・・それにしても泰也遅いですね」と久志が呟く。

先の戦争でそういった境遇の子供をたくさん見てきた。かける言葉が見つからず久志はその都度無力感に襲われた。

「どうせそこらで拗ねてるでしょうよ ほっといたらええ」

「私・・ちょっと見てきます・・・」

席を立ちローズは食堂を出ていった。

「青春ってやつでしょうか?」

「釣り合ってないよ! あの泰也(バカ)とあんな綺麗なお嬢さん。」

・・・ローズ たしかに服を着ていればホムンクルスだとはわからない、一戦交えた時、いい匂いがしたよな・・・そして改めて見るとかなりの美人でスタイル抜群だ・・・

「今想像したね?田嶋さんまで・・・バッカだねえ 男は」

やれやれと言った顔でそう言った。

「面目ない・・・」顔を赤くして頭をかきながら久志は徳利の酒を呑みほした。


ローズは泰也を探して館内を歩いてみたが、どうやら居ないらしい。旅館の文字が書いてあるサンダルを履いて玄関の引き戸をカラカラと開けた。

すると玄関を出たところで岩の置物に座って空を見ている泰也が居た。

生暖かい港町の香りがした。少し早い虫がジーっと鳴いている。

ローズはゆっくりともう一つの岩に腰をもたれかけた。

泰也「さっきは 悪かったな・・・」

ローズ「・・・・・」

泰也「ホムンクルスって奴が自分の中でどうしても整理できなくってよ」

ローズ「泰也のご両親・・・」

泰也「言ったんやな、あのくそババア・・・ でも お前も親御さん亡くしてるんだったな 無神経だった」

ローズ「私は此処に居て良いのかなってずっと思ってる。だけど・・・皆と食事をしてこんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりかな。さっきの、うれしかったんだよ、本当は。」

泰也「穂見村の事は・・・田嶋のおっちゃんと相談しよう。あのおっさんは頼りになるぜ。勘だけどな。」

ローズ「私は今まで一度も・・・自分の意志で動いたことが無い。命令されないと動けない。どうすればいいのか分からないの・・・ただこれだけはわかる事。それは、あなた達に迷惑をかけるって事」

泰也「お前に命令を出す奴ら。明らかにおかしいぜ。どう考えても間違ってる。」

ローズ「私は・・・ボスの言う事を聞くことしかできない」

泰也「くそくらえじゃ それがなんやっつんだよ。ぶっ潰してやるよそんなもん」

ローズ「一人で?どうやって? できるわけない!」半べそをかきながら言った。


「はいはい、ローズちゃんの心に違う概念が芽生えました」と玄関から顔をのぞかせた久志が

ニヤニヤしながらそう言った。

泰也「おっさん!いつからいた!?」

久志「だいたい最初から?」

泰也は顔を真っ赤にして立ち尽くした。

久志「お茶と菓子でも食いながら、作戦会議でもしよーか」

ローズの曇った顔に小さな火がともったように少し明るくなった。


卓上にはお茶と手製の煎餅、地元の菓子が並び、湯気の立つ急須で美幸が湯呑に茶を注ぐ。

「まず、ローズ、さっき泰也との話を聞かせてもらったが・・・・」ちらっと泰也をみると、赤い顔をして睨んでいる。久志は少し笑みをこぼしながら。

「ローズ、君はちゃんと自己分析できてる。」

「どういう事?」

「君は、君の組織のやり方が間違ってるって君自身が認識してるって事。」

「・・・・」

「君はねローズ、1ボスの命令でしか動けないと思い込んでいる。2ホムンクルスであることで誰かに迷惑がかかると思っている。3君が属している組織に対して問題意識を持っている・・で、これらは全て君のボスは理解してると思うよ。行き先が無くて結果としてボスの元に戻るだろうとね。もちろん君が今後情にほだされる事があってもね。恐らく、君は通信手段となるデバイスを隠し持ってるはずだよね、盗聴とまではいかないが、恐らく血圧や脈拍、消費カロリー、脳波などの微弱な電波信号で事足りるデータはあっち(C I A)に送られてるはずだ。その情報だけでも十分分析可能だろう。」

「・・・・」ローズは無表情を装ったが、微量の生唾を飲んだ。デバイスには触らないようにした。

ローズの様子を久志は見逃さなかった。

「それと、君には仲間がいるね?監視役かな。この近くに潜んでる。」

「おっちゃん、あのロボット達ならさっきぶち壊しといたが。小便のついでに」得意げに泰也は言った。

ローズは目を見開いて泰也を見た。

「仕事が早くて助かるよ 泰也」久志が微笑み返す。

「・・・・なんて事を! そんな事をしたらどうなるか!」

「って事は、君は任務続行中だったって事でいいよね?」

「・・・・」

「で、ここからが本題なんだけど、君はどうしたいの?」

「私は・・・私は・・・」

「ぶっちゃけ俺は捕まるのはご免なんだよね・・・俺の中の因子が欲しいのなら直接取りにくればいい」

と、久志はローズのポケットの方を見ながらそう言った。

その時、ピピピピっとアラームが鳴った。

そしてローズは久志の方を見た。

「うん」と久志はローズにうなずいた。

ローズはポケットから小さなデバイスを取り出し、横の受信ボタンを押した。


「日本人の皆さん、初めまして。それと・・・裏切者が一人・・・」

久志「あんたは誰だい?」

「ああ 私はそこの裏切者の蛇女の飼い主とでも言いましょうか、名前をノア・シュルツと申します。」

高圧的ないやな気持にさせるしゃべり方だ。

「申し遅れました、(わたくし)田島久志(たじまひさし)と申します。 いやいやローズちゃんにはお世話になってまして」

「ええ あなたの事は良く知ってますよ ミスタータジマ、あなたは世界からは注目の的ですからねえ」

「ミスターシュルツ、言ってる意味が良くわからないんだけどね、ローズちゃん見逃してやってくれません?」

「ミスタータジマ、それをする事で我々にどんなメリットが?」

「ローズちゃんがハッピーになる」

「ははは ミスタータジマは面白いお方だ。それでは我々が損失を被っただけで終わりじゃないですか。ディール(取引き)する時は相手にとって同等かそれ以上の価値の物を提示するものですよ。」

「別に取引きしようってんじゃないんですよ。ローズちゃんを自由にしてあげたいだけなんですよね」

「自由になりたいのかね?レイチェル?」シュルツは蛇の様にねちっこくローズに語り掛ける。

「・・・・・」ローズは答えられない。

「では、こちらから条件を出しましょう。ミスタータジマ、あなたとそこの蛇女を交換するという事で如何かな。」

ローズの表情に暗い影が落ちる。

「なるほど、わかりました。ミスターシュルツ。俺がおとなしく君たちに捕獲されれば良いんだよね?」

「ああ そうして頂ければ我々はすぐに引き下がる。理解して頂けたようで助かるよ。ミスタータジマ。」

「で、具体的に俺はどこに行けば良いんだい?」

「明朝5時に浜の祠へ来ていただきたい、先日君が化け物と一戦交えたあの場所だよ」

「なんでもお見通しだな、じゃあ、この宿の周りの変な奴(アンドロイド)らをどかしてくれないかな」

「・・・・」

「あんたは明日まで待つ気なんてないだろう?」

「ククク・・・ご理解いただけてとてもうれしい。 田嶋久志は生かさず殺さず、蛇女はもう用無しだ、殺せ・・・町の破壊も構わん。」シュルツは何かに命令しているようだった。

そう言った瞬間、窓ガラスが割れる音がした、そして続けて色んな物音が宿の中に響き渡った。

そしてこの部屋の窓を突き破って何かが突っ込んできた。

細身の銀メッキをかけたような人型アンドロイドが一直線に久志めがけて飛び込んで来る。

それを久志はいなして壁に吹き飛ばした。

「狙いは俺だ。俺は浜までこいつら(アンドロイド)を誘導する。ほとんどが付いてくるだろうが

ここに残る個体もいるはずだ 泰也!、お前は美幸さんや村を守ってくれ。 すまん、迷惑をかける」

どんどん旅館に侵入してくるアンドロイドが増えている。久志はそれらをいなして吹っ飛ばしながら泰也に指示を出す。

「おっちゃん、一人で大丈夫かよ?」

「ああ、2人だから大丈夫だ!」と言って笑みを浮かべながらローズを見た。

ローズは曇っていた目の輝きが戻り うん と力強く首を縦に振った。

「私を守るだって?・・・」と美幸はそう言いながらいつの間にか美幸の身長はあろうかという巨大なライフルを持って立っていた。その時、泰也の後ろを狙ってアンドロイドが飛び掛かってきたが、美幸が引き金を引きそれを吹っ飛ばす。弾はアンドロイドの頭部を貫通し、その後ろのアンドロイドの背中も貫通した。

「援護はまかせな!早くいけ!」と言って久志たちを促した。

「バレットM82・・・なんでそんなもん持ってんの?で、なんで立ったまま撃てんの・・・?」苦笑いを浮かべながら久志は(きびす)を返した。

風のような速さで久志とローズが浜へ降りていく、そして無数のアンドロイドが2人を追っていく。

美幸はテーブルの上の食器を乱暴にライフルで払いのけ、テーブルを窓にぴったり寄せ、そこにうつ伏せになりライフルを構えた。そしてドーンッ!! という砲撃の音の後に巨大な薬きょうが床に転がる。

浜に降りていく二人に迫りそうなアンドロイド達を一体も打ち漏らさず、確実に仕留めていく。


駆けて行きながら「美幸さんは絶対に怒らしてはいけないな・・・」と久志は漏らすと

コクコクと目を白黒させながらローズはうなずいた。

アンドロイド全てが久志を追いかけたわけでは無く、少なくとも数十体は村の方に残っている。泰也もまた鬼神のごとき苛烈な拳と蹴りで一体ずつ破壊していくが、なかなかに数が減っていかない。

泰也のいる戦線を突破し村の住宅の方へ数体が飛び出していく。

泰也「しまった・・・」

その時、飛び出していったアンドロイドが高速で縦回りしながら泰也の方にまた戻ってきた。

見ると顔に鉄パイプが刺さっている。

「泰也! お前ばっかり楽しい事しやがってよう!」

「おっちゃん達!、たけし、けんぼう! お前ら!!」

見ると村の男たちが手に槍や剣をもち一斉に駆け下りてくる。

はたまた、旅館は乱戦場になった。

だが、美幸の顔は引きつり眉はぴくぴくしていた。


オペレーター室でその様子をモニターで見ていたシュルツが呟いた。

「日本人・・・化け物め・・・」


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