お見合いをします。4
「それで、絵本とは?」
音も立てずにティーカップを置いたゼリア侯爵令息が訊く。
すっかりとリラージュはそのことを忘れていた。
それをおくびにも出さないようにして微笑む。
「この四阿の佇まいと周辺が幼い頃に好きだった絵本の挿絵にそっくりだったんです」
「もしかして、『妖精の庭でお茶会を』かな?」
笑みを含んだ声で訊かれる。
言い当てられたリラージュは驚いた。
「あ、それです。御存知でしたか?」
「やっぱり。その絵本は妹も大好きでね、母が妹のためにここを絵本のように調えさせたんだ」
素敵な話だ。
だからそのまま伝える。
「素敵ですね」
「ありがとう」
ゼリア侯爵令息の頬が緩んだ。
仲のいい兄妹のようだ。
リラージュの頬も緩む。
兄妹の仲がいいのは何よりだ。
ふとルーティスのことを思い出す。
リラージュはルーティスと一緒にその絵本を読んだ。
この四阿のことを話せば懐かしく思ってくれるかもしれない。
あの頃のルーティスは同じ絵本を何度も読むリラージュに馬鹿にすることなく付き合ってくれたものだ。
今でもほんのたまにその絵本を眺めることがあるが馬鹿にされたことはない。
いつも温かい目で見てくれている。
リラージュは姉なのだけど。
まあそれを今さら考えても仕方ない。
ゼリア侯爵令息もそのように妹を見守っていたのだろう。
きっとここも大切な場所だ。
ふと不安になった。
「そんな場所でお茶などいいのでしょうか?」
「構わないよ。母も妹も快く許可をくれたよ」
それを聞いてほっとした。
寛大な方々だ。
大切な場所を今日のお見合いのために快く提供してくれたのだ。
きちんと感謝の気持ちを伝えなければならない。
だがリラージュにはその機会があるかわからない。
それならば。
「お礼を伝えていただけますか?」
「お礼?」
「こんな素敵な場所でお茶をさせていただいたので。場所を貸してくださってありがとうございます、と」
驚いたように目を見開いた後でゼリア侯爵令息は柔らかに微笑う。
「うん、わかった。伝えておくよ」
「はい。お願いします」
リラージュの感謝の気持ちが伝わると嬉しい。
もちろん機会があればリラージュもきちんとお礼を告げるつもりだ。
侯爵夫人にはこの後両親と合流した時にでも告げる機会があるかもしれない。
あくまでも話の流れや雰囲気次第、だが。
忘れないようにだけしよう。
「きっと母も妹も喜ぶと思うよ」
リラージュはきょとんとする。
どういうことだろう?
「大切な場所を大切にしてくれるというのは嬉しいものだからね」
「大切な場所を貸してくださったその気持ちと場所を大切にするのは当然では?」
「そうか。グーリエ嬢にとっては当然なんだね」
「はい」
「そうか」
ゼリア侯爵令息やその周囲は違うのだろうか?
疑問に思ったが、そんなことは訊けるはずもない。
「それは好ましいね」
「ありがとうございます」
なかなか好感触な反応ではないだろうか。
これならこのお見合いはうまくいくかもしれない。
きっと両親は喜ぶだろう。
ルーティスは、わからないけど。
助言をくれたからにはルーティスも反対はしていないと思う。
断言はできないけど。
たぶん、きっと、大丈夫だろう。
何故か一抹の不安はあるが、いずれリラージュも嫁がなくてはならない。
それはルーティスもわかっている。
それならできるだけいい相手と結ばれるほうがいいはずだ。
大丈夫。
ルーティスだってリラージュの幸せは願ってくれている。
それだけは間違いない。
だから覚えてしまった一抹の不安は心の奥底に追いやった。
ティーカップを手に取る。
このままうまくいくといいな、と思いながらリラージュは一口お茶を飲んだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




