婚約の打診
夕食の後でルーティスは父に頼んで時間を作ってもらった。
「そうか。王太子殿下の婚約者はルーラン公爵令嬢に決まりそうなんだね」
「うん。すごいいい雰囲気だったからほぼ確定だと思う」
「そうか。もともと公爵家の誰かと言われていたからね。順当か」
「そうだね」
「わかった」
父はルーティスを見て微笑む。
「トア家にはすぐに婚約の打診をするよ」
父はルーティスが頼む前に察してくれた。
「うん。ありがとう。お願い」
「やっとだね」
「……うん」
本当にやっとだ。
どれだけ待ち望んでいたことか。
「よかったね」
「うん」
素直に頷く。
そんなルーティスを微笑ましそうに見ていた父は無邪気な様子で爆弾を投下した。
「そうそう実はね、リラにもお見合いの話が来ているんだ」
「は?」
我ながら低い声が出た。
「ルティ?」
父が困惑した声で名を呼ぶ。
たがルーティスはそれどころではない。
姉にお見合いだなんて冗談じゃない。
一体誰が……?
そこまで考えてはっとする。
心当たりがあった。
「もしかして、ゼリア侯爵家?」
「そうだよ。よくわかったね。今日会ったかい?」
「同じテーブルだったよ。だけど姉上と親しく言葉を交わしてはいなかったはずなんだけど」
「そうなんだ。だったら話してみたいと思っていたのかもしれないね」
父は呑気に微笑っているがルーティスは心の中で歯軋りしていた。
やっぱりあの視線は気のせいではなかった。
お茶会が終わった後もしつこくリラージュを見ていた。
リラージュは相変わらず気にしてはいなかったようだけど。
でもまさかこんなに早く行動してくるとは思わなかった。
そこまでの興味を引いたとは。
これはルーティスとアンドレアの見解が甘かった。
こうなったら。
ルーティスは目を据わらせて父を見る。
「断って」
「え?」
「ちゃんと断ってよね」
父は厳しい顔になる。
「侯爵家からのお見合い話だよ。断ることはできない」
それくらいでルーティスは怯まない。
「父上は黙っていて。今姉上の婿候補を選定しているんだから」
アンドレアに手伝ってもらって家を継がない令息たちの情報を集めて精査しているところだ。
「嫁に出すのではなくて婿を取らせるつもりなのかい?」
「そうだよ。のんびりした気質の優秀な婿を取ってもらって二人に補佐してもらおうってアディと話しているんだ」
「聞いていないんだけど」
「言ってないから。婿候補もきちんと探していたんだよ」
「そういうことは当主である僕に話を通しておくべきじゃないかな?」
「候補を絞ったら父上に話を通すつもりだったんだ」
「遅かったね」
先に話しておけばよかったというのだろうか?
「今からじゃ遅い?」
「遅いかな。先に話を通しておけば考えてあげることはできたけど」
悔しさに歯噛みする。
順番を間違えてしまったようだ。
そんなルーティスを見据えて父はきっぱりと告げた。
「とにかく、リラにはこの見合いは受けてもらう。これは当主としての決定事項だ」
どれだけごねても父の決定を覆すことはできなかった。
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