王太子の婚約者と側近決めのお茶会に参加します。後編
王太子殿下のいるテーブルは緊張感があるが、他のテーブルでは滅多に口にできない王宮のお菓子に皆が顔を綻ばせながらおしゃべりに興じていた。
リラージュたちも軽い雑談をしながらお茶を楽しむ。
リラージュは美味しいお菓子を食べられてご機嫌だった。
うっかりここに来た目的を忘れそうになる。
隣でルーティスが目を光らせているから大丈夫だ。
正面からは何故か視線を感じるけど。
もしかしたら呆れられているのかもしれない。
ルーラン公爵令嬢はにこやかに微笑んでいるだけだ。
ルーティスとアンドレアが視線を交わしているがお菓子に夢中なリラージュは気にしなかった。
そもそもリラージュはあまり人の視線を気にする質ではない。
誰にも咎められることがなかったので思う存分お菓子を堪能した。
しばらくしてリラージュたちのいるテーブルに王太子殿下が来た。
席はルーラン公爵令嬢とリラージュの間だった。
立って出迎えたリラージュたちは王太子殿下に促されて座った。
軽く自己紹介をしていく。
一通り自己紹介が済むと意外と和やかな雰囲気の中でいろいろな質問が飛ぶことになった。
話の流れでリラージュも訊いてみた。
「殿下は、御自分へのご褒美に食べるお菓子は何ですか?」
ルーティスとアンドレアから刺すような視線が向けられる。
王太子殿下は咎めることなくにこやかに微笑ったままだ。
「グーリエ嬢は?」
質問に質問で返され、即答する。
「マカロンです」
「マカロンが好きなんだね」
「はい、大好きです。殿下はいかがですか?」
「うーん、僕はチョコレートケーキかな」
「まあ、殿下もですの?」
思わずといった様子で口を挟んだのはルーラン公爵令嬢だ。
「おや、ルーラン嬢もかな?」
「はい。チョコレートケーキかチョコレートを少し。でも本当に頑張った時だけですのよ。自分を褒めてもいいと思った時に少しだけ。……あまり食べすぎるとニキビができてしまいますので……」
ニキビの話題を出させてしまった。
令嬢としてはあまり人に知られたくないことだろう。
やってしまったかも、とリラージュは思わずルーティスを見る。
ルーティスは何かを考えているようだ。
王太子殿下は優しい眼差しをルーラン公爵令嬢に向けている。
「そうか。じゃあそなたの顔にニキビができていたらうんと褒めることにしよう」
「な、何故でしょう?」
ルーラン公爵令嬢が動揺したように声を上ずらせる。
「そなたが頑張った証拠だからね」
ルーティスは大丈夫、とリラージュに頷く。
リラージュはほっとした。
女性にニキビの話は、と窘めようとしたアンドレアは口を閉じた。
どう見てもいい雰囲気だ。
何も言えずにうつむくルーラン公爵令嬢とそれを優しい瞳で見守る王太子殿下。
同じテーブルを囲む面々は邪魔をしないように静かに紅茶を飲む。
少ししてルーラン公爵令嬢から視線を外した王太子殿下がテーブルを見回す。
「せっかく菓子の話題が出たから土産に持たせよう。グーリエ嬢はもちろんマカロンだね?」
「はい。ありがとうございます、殿下」
「トア嬢は何がいいかな?」
「ではわたくしはせっかくなのでフィナンシェでお願いします」
「グーリエ伯爵令息は? 姉と同じマカロンかな?」
「いえ。それならいろいろな味のクッキーを所望します」
「わかった。ゼリア侯爵令息は?」
「そうですね。私はあまり菓子の類いは食べないのですが、マカロンをお願いできますか? 彼女が大好きだと言っていたので興味が湧きました」
ちらりとゼリア侯爵令息の視線がリラージュを捉えた。
ルーティスとアンドレアの警戒センサーがぴこんと鳴る。
リラージュはマカロンに興味を持ってもらえたのが嬉しくて微笑む。
王太子殿下は含み笑いをする。
「そうかそうか。わかった。そなたにはもちろんチョコレートだね、ルーラン嬢?」
「……はい。ありがとうございます、殿下」
雰囲気が甘い。
それに気づかないふりをしてリラージュたちは紅茶を飲んだ。
もうこれは決まりではないか、とも思ったが、言ってはならないことだ。
しばらく談笑して王太子殿下は席を離れた。
近くの侍女に何か指示を出してから次のテーブルへと向かっていった。
王太子殿下が全部のテーブルを回ったところでお茶会はお開きになった。
ただ庭を見たり、お茶を楽しみたい者はまだいていいと言い置いていかれたのですぐに帰る者はごく少数だった。
その帰宅者の中にはルーラン公爵令嬢もいた。
リラージュもルーティスとアンドレアと庭の散策を楽しんだ。
その後で喉を潤すために紅茶をもらった。
どうやらお茶会前にリラージュが気になっていたテーブルのお菓子もお茶会後に残った者が食べられるようにと用意されたもののようだった。
言えばお皿に盛ってくれると聞いてもちろんリラージュはいくつか皿に盛ってもらった。
ルーティスの監視のもとだったので厳選に厳選を重ねたものだけだけど。
それを食べてからリラージュたちは王宮を後にした。
ゼリア侯爵令息は友人を見つけて話していたが、その視線が時折リラージュに向いていたことにリラージュは全く気づいていなかった。
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