そのまま婚約者に保護されます。
「リラには元に戻るまではうちで過ごしてもらうよ」
「にゃー(へ)?」
思いがけないことを言われてぽかんと口が開いた。
「そのきょとん顔も可愛いけど、ほら何かあったら困るから」
「それは旦那様の許可を取っていただかないと」
リラージュの代わりにララが言ってくれる。
「それは勿論。ララ、手紙を書くからそれを持って伯爵家に一度戻って説明してきてくれるかい? 嫌ならフリオに行かせる」
「……いえ、私が参ります。お泊まりするなら必要なものを持ってくる必要がありますので」
「そうか、頼んだ」
「にゃー、にゃー(お願いね、ララ)」
「はい、かしこまりました」
「一応、対外的にはリラがうちで体調を崩したことにするよ。リラ、いいかな?」
「にゃー(ええ)」
それが一番自然だろう。
「手紙を書く前に家族に報告してくる。ごめん、少し待っていてくれるかな?」
「にゃー(うん)」
報告が先だろう。
それによって手紙の内容も変わるかもしれないし。
リラージュの様子にフェラルードは小さく微笑う。
「ララ、リラのことを頼む」
「承知しました」
フェラルードがフリオを連れて出ていく。
「リラ様、大丈夫ですか?」
「にゃー(大丈夫よ)」
軽く尻尾も振っておく。
「無理はしていませんか?」
「にゃーにゃー(してないわ)」
通じないだろうから首も軽く振っておく。
「もし、お辛いとか、体調が悪いとかありましたら必ず教えてくださいませ」
「にゃー(わかったわ)」
元気に返事をする。
「リラ様はお姿が変わってもリラ様ですね」
リラージュはこてんと首を傾ける。
「いいえ、リラ様はそのままでいてくださいませ」
ララは一人で自己完結している。
「にゃ?」
リラージュは反対側に首を倒す。
ララはにこにこと微笑ってリラージュを見ている。
リラージュはぺたりと香箱座りする。
ララがそわそわとする。
「にゃー(どうしたの)?」
「あの、不躾なお願いなのは重々承知していますが、撫でてもよろしいでしょうか?」
リラージュはきょとんとして目を瞬いた後で元気に答える。
「にゃー(いいわよ)!」
「ありがとうございます。失礼します」
ララがそっとリラージュの背中を撫でる。
その手は優しく気持ちがいい。
「さすがリラ様。猫になっても極上の触り心地は変わりませんね」
言っている意味がわからない。
わからないけど、撫でられているうちに眠くなってくる。
ふわぁとあくびがもれた。
「リラ様、眠いのですか?」
「にゃー(大丈夫よ)」
「お眠りになられますか?」
「にゃー、にゃー(いいえ、大丈夫よ)」
言葉とは裏腹に眠そうな声だった。
「フェラルード様方がお戻りになりましたらお起こししますよ?」
「にゃー……にゃー……にゃ……(大丈夫……よ……ありが……)」
返事も途切れ途切れになる。
腕の中に頭が落ちそうになったリラージュの耳に廊下を歩いてくる複数の足音が聞こえてきた。
耳がぴんとなり、眠気が遠ざかる。
リラージュは身を起こした。
「リラ様?」
疑問の声を上げたララも足音に気づいたのだろう、すっと立ち上がってリラージュの傍に控えた。
段々と足音が近づいてくる。
やがて部屋の前で足音が止まった。
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