弟にバレてしまいました。
散々肉球を堪能してルーティスはリラージュを解放してくれた。
リラージュは軽やかに床に下りる。
フェラルードはまだ帰ってこない。
手持ち無沙汰のルーティスは部屋に転がっていた鈴の入ったボールをぽいと投げた。
ぴくんと反応したリラージュがたたっとボールを追いかける。
「姉上にしては機敏に動いているね」
「猫だもの(にゃーにゃー)」
ルーティスがいるのでボール遊びに夢中になることはなく、ルーティスのもとに戻る。
猫の本能のまま振る舞う姿を弟に見られるのは姉としての沽券に関わる。
「別に遊んでいていいよ。今の姉上は猫なんだし」
あっさりとバレる。
姉の沽券などまるでない。
「姉上に姉の沽券なんて最初からないよ」
ルーティスはリラージュの頭の中を読みすぎである。
それはそれとして。
とりあえずぱしんとルーティスの足を叩いておく。
ルーティスは軽く笑ってリラージュを抱き上げる。
まったくダメージはないようだ。
むぅとなるリラージュを膝の上に下ろして宥めるように撫でる。
そのままきょろりと部屋を見回したルーティスが問う。
「ところでどこにも姉上の寝床がないんだけど、どこで寝ているの?」
「にゃー、にゃーにゃーにゃー(ラ、ララが毎日このソファに寝床を作ってくれているわ)」
「そう、寝床はここなんだね」
「にゃー(そうよ)」
寝床はここに作ってくれているけれど、二日間ともフェラルードのベッドで一緒に寝ていたとは知られるわけにはいかない。
昨日も頑張って抵抗したけれど寝室に連れていかれてしまったのだ。
「なるほどね」
ルーティスは一つ頷いた。
「ララがここに寝床を作って、姉上はそこにいると?」
「にゃー(そうよ)!」
首も縦に何度も振る。
「そっか。そうなんだね」
「にゃー(そうよ)」
「そっかそっか」
ルーティスは何度も頷いている。
うまく誤魔化せたようだ。
ほっと息をついた時、
「それで、どこで寝ているの?」
不意打ちで核心を突く問いを投げられた。
びくんと身体を震わせたリラージュの視線が寝室のほうを向く。
「あっちは寝室でしょ? まさか寝室のほうで寝ているの? ここに寝床を作ったのに?」
いつも通りの口調なのに、どことなく冷気を感じる。
だらだらだら。
猫なのに冷や汗が流れる。
「ふーん」
ルーティスが脇の下に両手を差し込みリラージュの身体を持ち上げる。真っ直ぐに自分の顔の前まで持ってくるとさらに問いを重ねた。
「まだ婚約者同士の、未婚の身で同衾しているの?」
だらだらだらだら。
「姉上、正直に答えて」
その瞳は嘘を許さない。
リラージュは逃げられないと、小さく頷いた。
「まさか姉上が望んで?」
ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
「そうだよね。姉上はそんなふしだらな人間じゃないもんね」
今度はぶんぶんと縦に首を振る。
教育係より厳しかったのがこの弟だ。
それで喧嘩になったりもしたが、それは今は関係ない。
「にゃーにゃーにゃー。にゃーにゃーにゃー(私はここでいいって言ったの。でも、フェルが)!」
一生懸命に訴える。
ルーティスに誤解させておくわけにはいかない。
戻った時にマカロンを禁止にされたら今度こそ世を儚んでしまう。
ルーティスは優しい微笑みを浮かべた。
「大丈夫。疑ってないよ。こんな軽い身体じゃ簡単に運べちゃうし。そっか。やっぱり連れて帰らないと」
ぼそっと言われた最後の言葉は明瞭には聞き取れなかった。
「にゃー(ルティ)?」
こてんと首を傾げる。
「んー、姉上は気にしなくていいよ。大丈夫。ちゃんと姉上を信じているよ」
「にゃー(本当)?」
「うん。でも、ララはどうしていたんだい?」
ララに飛び火しかける。
「にゃーにゃーにゃー(ララが退室した後のことだもの)」
「ああ、ララがここにいるわけにはいかないか」
「にゃー。にゃーにゃーにゃー(そうなの。だからララは私が泊まっているはずの客室に代わりにいてくれているのよ)」
「そっか。ならララの責任ではないね」
「にゃー(そうよ)」
壁際でララがほっとしていた。
「となるとやはりあの男に抗議しないとね」
「にゃー、にゃー(ル、ルティ)?」
何でそんなことになるのだろう?
「大丈夫。僕に任せて」
ルーティスはいい笑顔だ。
「にゃー……(ルティ……)」
ルーティスがふっと真面目な顔になる。
「姉上、そもそも淑女が婚姻前に同衾なんてアウトだからね」
「にゃー……(そうね……)」
それはリラージュも訴えたことではある。
「だから当然、抗議は必要なんだよ?」
そう言われれば反論できない。
「大丈夫。僕がするから。姉上は何も心配することはないよ」
「にゃー(わかったわ)」
リラージュはルーティスの言葉に頷くしかなかった。
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