55:羽月なりの向き合い方
「はぁっ、はぁっ……」
「ぜー……っ、はー……っ」
何十、いや何百といた敵を全て斬った。
しかも、羽月の剣技をあれだけ乱発したのは初めてだ。
流石に力をほとんど使い切った……。
「大丈夫か……羽月……」
「問題ないわ……。匠こそ……へばってるんじゃないかしら……?」
「うるせぇ……、俺はまだまだいけるぞ」
それでも見栄を張ってこういう言い争いをするのは、二人とも子供の頃から変わらず、負けず嫌いだから。
「これは……流石に予想外でしたね」
「「⁉︎」」
突然響いた声に振り返りながら刀を構える。
顔を上げた先、宙に浮いているのは、シルクハットを被り、タキシードを着た妙な青年。
「やっぱりお前があいつを使って、ダンジョン攻略者を襲わせてたのか! エンキ!」
「えぇ、そうですよ」
こいつ……!
「しかしワタクシの予想では、あれだけのことがあれば、いくらアナタとはいえ彼女を見捨てると思っていたのですが」
「俺が羽月を見捨てる? そんなこと絶対にありえない!」
「ふむ……ニンゲンの感情というものは不可思議ですね。いえ、彼女が一人でここへ乗り込んできたところを見て、仕掛けてしまったワタクシも甘かったというべきでしょうか」
「ふざけるなよ──」
「──蒼天!」
隣から斬撃が飛ぶ。
不意をつくならともかく、見えている状態からの攻撃。
「フム──」
当然敵も羽月の一撃をかわす。
「は……?」
俺の攻撃は避けることすらしなかったのに、羽月の攻撃はかわした?
なら、羽月の剣技は奴に対して有効なのか……?
じゃあこいつが羽月を排除しようとしていた理由は、もしかして……。
「いきなり攻撃とは、なかなか躾のいい方ですね」
「黙りなさい。あんたはここでワタシが……っ」
「羽月⁉︎」
急に崩れ、地面に膝をつける羽月。
「あれだけの敵をたった一人で片付けた、アナタはもう魔力切れですよ」
「っ……」
「なら、俺が相手だ」
「アナタの攻撃は、ワタクシには通じないというのに?」
「そんなこと知ったことか!」
「威勢だけは良いようですが。少しは現実というものを認識するべきではないのですか?」
「黙れ!」
「やれやれ。物事の道理も摂理もわからない、哀れで愚かなストレイシープを相手にするのは疲れるので嫌なのですが……。……ですが今のワタクシにも手駒がないので、ここで引かせていただきましょうか」
「あ?」
「あの方の力作も、完全に倒されてしまったようですしね」
「あの方……?」
あの剣士もどきは、誰かが作り出したって言うのか。
「アナタ方とはいずれ、決着をつけてさしあげますよ。しかしここは、その舞台ではありません。その時が来た際には、相応しい戦場で戦って差し上げますよ。ではまた──」
「待ちやがれ!」
スツールジャンパーで飛ぶが、俺が敵に届く前に敵は蜃気楼のように消えていった。
「くそっ!」
俺が着地すると同時に、ダンジョンの崩壊が始まった。
「また逃げられた」
「……あれが匠の言ってた」
かろうじて動けるようになった羽月が近づいてくる。
「あぁ……」
「あれはかなり厄介そうな敵ね」
「けどいずれ、俺が倒す……!」
「バカ」
「でっ⁉︎」
なぜかデコピンされる。
「あなたがじゃない、ワタシたちであいつを倒すのよ。間違えないで」
「……!」
「あんなことされて、ワタシが黙っていられるとでも? この借りは何百倍にして斬り刻んでやるわ」
「……だな」
羽月と頷きあう。
「いました! こっちです!」
元の世界に戻ってきた俺たちの元へ、白久さんや他のレイドメンバーが駆け寄ってくる。
「二人とも大丈夫⁉︎」
「あぁ、なんとか」
「えぇ、なんとかね」
「良かった……」
涙ぐむ白久さん。
「ちょ、あ、え……」
「はいこれ」
困惑する俺に対して、ポケットからハンカチを取り出して渡す羽月。
さらっとイケメンムーブするなぁ。
「……ん?」
白久さんの奥にいる、他のレイドメンバーの空気がおかしいことに羽月が気がついた。
なぜかみんな、バツが悪い様子。
「なんなの、これ……?」
「うまくいったみたいだな」
「匠?」
「実は白久さんにお願いして、俺の配信を通して今の戦いを彼らに見せたんだ」
「へ?」
「だからもう、羽月が襲撃犯じゃないってことはみんなわかってる」
今頃は俺の配信を通して、世界中に、羽月が冤罪だったって情報が広がっているはずだ。
ただ、ちょっと上手くいきすぎだとは思うけど。
「「…………」」
それはそれとして、羽月と彼らの間には、微妙な空気が流れ続ける。
これは羽月たちで決着をつけなくちゃいけないことだ。
俺にできることはここまでお膳立てすることだけ。これ以上でしゃばって仲を取り持つようなことはできない。
それをわかっているから、白久さんも何も言わずに彼らのリアクションを待ち続けている。
「……はぁ」
沈黙を破ったのは、羽月の大きなため息。
「別に謝らなくてもいいわ。ワタシも謝らないから」
「ちょっ、羽月⁉︎」
せっかく仲直りできそうだっていうのに!
「……人は誰だって間違えるし、迷いもする。ワタシもそう、あなたたちだってそう」
「羽月……?」
「だからワタシは、この先も結果であなたたちに示す。ワタシの強さも、ワタシの正しさも。あなたたちはそれを見て、判断して」
それが羽月なりのダンジョンとの、ダンジョン攻略者たちとの、そして配信を見ているすべての人たちとの、向き合い方なんだろう。
「……ハッ、クソ生意気な剣士様だぜ」
「次なにかやらかしたら、今度こそ容赦しないからな!」
「望むところよ」
お互いが、不敵な笑みを浮かべる。
口は悪いけど、これでようやく疑念を晴らすことができただろう。
白久さんも隣で、ホッと息を吐く。
「あ〜……」
「は?」
「え?」
「ちょっ?」
「羽月⁉︎」
いきなり大の字に倒れ込んだ羽月。
「もう無理、こんなのしんどすぎる……。帰って寝たい……」
本当に限界なのか、人の目も気にせずに泣き言を口にする。
「……ぷっ」
「ぷはははっ」
「これは傑作だ!」
そんな羽月を見て、一斉に笑い出すレイドメンバーたち。
「……なにがおかしいのよ」
「いや、あんた普段はかなり取り繕ってるんだなって」
「そっちのほうが親近感が湧くぜ?」
「うるさいなぁ……匠、早く運んで」
「俺だってもう限界なんだが……」
「なら、俺たちが運んでやろうか?」
「いやよ、どさくさに紛れて変なところ触られそうだし」
「では私が」
「中川さん?」
いつの間にか中川さんがそばまで来ていた。
「ひゃっ⁉︎」
地面に転がる羽月を軽々と持ち上げる。
「あの、えっと……」
「じっとしていてください。怪我などはされていないようですが、念のため救護テントで見てもらいますので」
「ワタシの荷物は……」
「すでにこちらで回収済みとなります。もう本日お帰りになる気力はないでしょう?」
「……そうですね、お願いします」
諦めたのか、中川さんに身体を預ける羽月。
「私たちも行こう」
「だな。それじゃあみなさん、また次のダンジョンで」
そうして羽月の帰還は一時延期、今日は救護テント経由で離れに帰ることに。
幸い羽月には怪我等はなく、今日と明日はゆっくりと休むように言われた。
「……匠」
その日の夜、俺の部屋のドアをノックする羽月。
「どうかしたか?」
「匠にお願いがあるの」
「お願い?」
*
「今日は寝坊しなかったんだな」
「当たり前でしょ?」
「いや羽月のことだから、やらかしかねないと思って」
「いくらなんでもワタシのことバカにしすぎじゃないかしら?」
「でも羽月って、行事の前は楽しみで眠れなくなるタイプだったし。それで毎回俺が起こして……」
「そんな昔のこと思い出さないでよ!」
「いてっ」
脇を肘でつつかれる。
「それよりも、もう身体は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、昨日は大事をとって休んだけど、昨日の時点で元気だったわけだし」
「ならよかった」
「そういう匠こそ、万全よね? 昨日もダンジョン攻略に行ったでしょ?」
「昨日のは小規模だったし。他のレイドメンバーたちのおかげで、俺の仕事はほとんどなかったから」
「そうなの?」
「あぁ」
羽月が一人でダンジョンのモンスターたちを倒した配信を見たせいか、他のレイドメンバーたちが俺たちもと息巻いていた。
他のダンジョンレイドの配信を見ても、同じように異様な士気の高さだった。
「ま、匠が万全の状態ならそれでいいわ」
二人並んで雑談を交えながらやってきたのは、本館の地下訓練場。
お互い真剣を左腰に携えて、羽月に至っては戦闘礼装を身に纏っている。
「準備はいい?」
「当然」
中央まで行って、お互い向かい合う。
『明後日には帰るつもり。でもその前に、ワタシと戦って』
一昨日、羽月が部屋にやってきて告げられたお願い。
それは羽月が帰還する前に、真剣勝負をしてほしいということだった。
挑戦を受けて、逃げる理由はどこにもない。
『わかった。でも羽月は明日も休むように言われてるし、明後日の午前中はどうだ?』
『それじゃあ十時から、場所は例の訓練場でどう?』
『異存ない』
そうして今日これから、俺たちの戦いが始まろうとしていた。
「この間羽月が白久さんと戦った時と同じルール。シールドウェアの耐久地が先に無くなった方の負け。これでどうだ?」
「構わないわ」
「それじゃあ……」
「ちょっと待って‼︎」
パネルを呼び出して操作しようとした瞬間、白久さんの声が訓練室に響いた。
「二人とも何してるの⁉︎ 私聞いてないんだけど⁉︎」
「え、伝えてなかったのか?」
「匠こそ、晴未さんに言わなかったの?」
「「…………」」
……これはやらかした。
「ふーたーりーとーもー?」
白久さんがカンカンになって迫ってくる。
「……白久さん、先に言っておくけど。白久さんが何を言っても、この戦いを止めるつもりはない」
「匠の言う通りよ。これはワタシたちのケジメなのだから」
「ケジメ……?」
「あぁ」
「えぇ」
剣士の矜持をかけた戦い。
羽月と再開した日から、これまで有耶無耶になり続けた決着を、今日ここでつける。
たとえ白久さんといえども、今この瞬間だけは、俺たちの間に入れるわけにはいかない。
「晴未様」
白久さんの後ろから近づいてきた中川さんが、羽月の方に手をおいて、静かに頭を左右に振る。
「……わかった。でもこの戦い、私も観戦させて」
羽月に目をやると、静かに頷いた。
「わかった。中川さん、お願いします」
「はい、晴未様」
中川さんに連れられて、観戦ルームに入る白久さん。
「そうだ、一つ確認するけど、配信は消すでいいか?」
改めて羽月と向かい合う。
「……配信していいわ。いえ、むしろ配信してほしい」
「いいのか?」
「言ったでしょ。ワタシは自分の力を見せることで証明するって」
「……わかった。そうしよう」
RMSを起動して、配信ボタンをオンにする。
それと訓練場のパネルを操作して、カウントダウンタイマーを表示させる。
お互い背中を向けて、十歩離れて再び向かい合う。
鞘から刀が抜かれ、天井の照明で刀身がきらめく。
「……五年ぶりね、匠とこうして剣を交わすのは」
「そうだな。それじゃあ始めよう」
カウントダウンをスタートして、お互い刀を構える。
「「いざ尋常に──勝負っ!」」
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