53:大切な幼馴染のために
「羽月をどこにやった!」
突撃したのは、白久さんの父親がいる本館執務室。
唐突に行方不明になった羽月。
しかも、羽月の荷物ごと綺麗になくなっている。
この状況でまず疑うべきは、やはりこいつだ。
「……許可もなく力ずくでここへくるとは。恥を知れ俗物が」
「黙れ! お前が羽月を追い出したんだろ!」
そんなことができるのは、こいつ以外にありえない。
「ちょっと三峰君⁉︎」
後から白久さんも追いついてきた。
「フッ、なるほど。そういうことか」
「なにがおかしい!」
「いや、幼馴染というのも存外信用されていないのだと思ってね」
「なんだと?」
「言っておくが、彼女があの離れを出て行った件について、私はなにも手を下していない。彼女に帰還の命令が出ていることは認知しているが」
「帰還の命令……? そんなデタラメ!」
「信じるかどうかはもちろん君次第だ。だが、君を倒すという使命も果たせず、レイドメンバーからの信用も得られず、挙句襲撃犯と後ろ指を指される。これほどの失態を演じれば、当然のことと思うがね」
「ふざけるな! 羽月はまだ……」
「それが正しい物の見方だよ。しかしだ、私だけの責任を問おうだなどとは、いささか虫が良すぎるのではないか?」
「なに?」
「君も彼女を助けられる立場にありながら、君は結局それを成しえなかった。そうだろう?」
「それはっ……」
「三峰君、どういうこと?」
俺が怯んだことを、白久さんが見逃すはずがなかった。
「晴未に話していないとは思わなかったな。私から彼に提案したのだよ、襲撃事件解決の代わりに、森口羽月につきまとう悪評を払拭すると」
「そんなことを……? 本当なの、三峰君?」
「本当のことさ。もっとも、彼はそのチャンスを掴みながら、全て水の泡となったようだが。さて、どちらの責任がより重いか、これでハッキリとしただろう」
「っ……」
奥歯を噛み締める。
こいつの言った通り、もっと俺が上手くやれていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
俺が羽月を止めていれば、あの襲撃犯を捉えていれば……。
「……なら、その責任の半分は私にもあります」
「白久さん……?」
「彼女を離れで預かっていたのは、私です。彼女が無断で出て行ったのなら、私にもその責任があります」
「なら晴未、お前はどうするというのだ?」
「当然、連れ戻します。あなたに聞かれるまでもありません。そうだよね、三峰君」
「……あぁ、当たり前だ。俺は絶対に、羽月のことを諦めない」
「彼女自身が何も告げずに出て行ったというのにか?」
「それでも、俺はもう一度羽月と話がしたい……いや、しなくちゃいけない」
羽月は、たった一人の、大切な幼馴染だから。
「…………」
それまで余裕を見せていた奴の眉間に、初めてシワが寄る。
ビーッ! ビーッ!
「「「⁉︎」」」
にらみ合いの空気を一変させるアラート音。
「こんな時に……!」
一刻も早く羽月の行方を追いたいっていうのに。
「高らかに宣言するのはいい。だが大言壮語を吐く前に、自分たちの役割を果たしたらどうだ」
「……三峰君」
「あぁ……行こう」
ひとまずこの場を後にして、刀を取りに急いで離れへと戻る。
「もし三峰君が羽月さんを探したかったら、ダンジョンは私だけ行くけれど」
「いや、俺もダンジョンに行く。羽月を探す為に自分の役割をおろそかにしたら、羽月に合わせる顔が無い」
「わかった」
「けど、モタモタする気はないから、俺が前に出て敵を蹴散らす」
「あんまり無茶はしないでね?」
「分かってるよ。己の分は弁えてる」
時間はないけれど、今は一刻も早くダンジョンへ。
*
「……なんだ、この空気」
本館の執務室であれこれやっていたせいで、俺たちは一歩出遅れたらしい。
ダンジョンに到達した頃には、すでにかなりのメンバーが集まっていた。
しかしすでに集まっている彼らの空気がおかしい。
普段ならダンジョンへ潜る準備や配信の準備をしたり、仲のいいレイドメンバー同士で談笑をしているところだ。
けど今は、ここに集まったレイドメンバーが全員で顔を突き合わせて、その表情は決して穏やかなものではなかった。
「あ、ミハルさんと……」
そんなレイドメンバーの一人が俺たちに気づいて、全員が顔を上げる。
そして、俺の顔を見るなり揃って不機嫌顔になる。
「みなさん、なにかあったんですか?」
白久さんが一歩前に出て、彼らに問いかけた。
「……?」
彼女の質問に対して、なぜかみんな目を逸らして、答えを渋る。
「はぁ、ミハルさんよぉ」
奥から、一番年長者らしい人が出てきた。
「あんた昨日、あの女を預かって話をするって言ってたけど、本当にしたのか?」
「……どういう意味ですか? 昨日彼女とは、得心が行くまで話し合いをしましたが」
「だったらなんで、あの女が一人でここにきてたんだ?」
「え……?」
「なんだって?」
羽月が、このダンジョンにきていた?
「羽月はどこにいるんだ! どこへ行った!」
「あ? なんだ? お前らがよこしたんじゃないのか?」
「いいから答えろ!」
「チッ、なんだそんなに鬼気迫って。やっこさんなら、あそこだよ」
親指で、背後を指す。
そこにあるのは、ダンジョンへと続くゲート。
「まさか、ダンジョンに⁉︎」
「あぁ、一人でな」
「なっ⁉︎」
たった一人でダンジョンに挑むなんて、なにしてんだよあのバカは。
それに……。
「なんで誰もついていかなかったんだ⁉︎」
「そんなの決まってるだろ。自分を狙ってる襲撃犯と一緒に戦えるかよ」
「そうだそうだ」
「あんな女に、自分の命を預けられるわけないだろ!」
呼応するように、他のレイドメンバーたちからも声が上がる。
「待ってください! 彼女が襲撃犯かどうかは、まだ……」
「もういいよ、ミハルさん」
抵抗を続ける彼女を制止する。
「どうして⁉︎」
「こいつらにはなにを言っても無駄だ。こいつらが納得するには、襲撃犯が羽月じゃないと証明する以外にない」
「それは……」
「とにかく、俺は羽月の後を追って、ダンジョンに行ってくる」
「だったら私も!」
「いや、ミハルさんはここに残ってくれ。もし襲撃犯が彼らを狙った時に、彼らを助けられるのはミハルさんだけだ」
「でも……」
「それに、白久さんにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「あぁ。…………」
「……分かった。それじゃあ気をつけてね」
白久さんとの小声話を終えて、前を向く。
「なんだ、話し合いは終わったのか?」
嘲笑うような彼らを、スツールジャンパーで一気に飛び越え、ゲートの前に出た。
「なっ、お前まさかダンジョンに?」
「だとしたら?」
「バカか、ダンジョンに一人で挑もうなんて」
「羽月がそうなるように仕向けたお前らが言えたことか」
「やっぱりお前もあの女の共犯か!」
「同じ剣士、情でも移ったか?」
「いや、そもそもあいつらは仲が良かったはずだ」
「じゃあやっぱり今回の一件は、あの女とこいつの共謀か」
「なんとでも言えよ」
口々に罵り始めるレイドメンバーを一声で黙らせる。
「俺の剣は、誰かを助けるための剣だ」
そして今は、羽月を助けるために、俺の全てを捧げる。
一歩踏み出し、ゲートを潜っていく。
「……これは」
ゲートの奥、紅月に照らされた都市と瓜二つのダンジョン。
しかしその様相は、大きく変化していた。
ビルが崩壊し、そこらじゅうに転がる瓦礫の山。
大きな穴の空いたビルやアスファルト。
「羽月の仕業か」
一人だから、遠慮なしに剣を振るったな。
ならこの先に、必ず羽月はいる。
「待ってろよ、羽月……」
*
「──雷電!」
目の前に立ちはだかる、ワタシの身長の二倍以上はある鬼のような敵。
それを一振りで真っ二つに斬り裂く。
「はぁ、はぁ……これで、おしまい?」
ダンジョンに入るなり湧いて出てきた有象無象を全て斬った。
その後で出てきたのが、今叩き斬ったデカいやつ。
そして周辺には、もう敵らしい気配は感じない。
「流石に全部倒してくるっていうのは、無謀だったかもね……」
でも、匠は平気な顔をして同じことを成している。
単純な剣の腕はともかく、ダンジョンでの戦いにおいては、ワタシは匠に遠く及ばない。
「……そろそろダンジョンが崩壊してもいい頃合いだけれど」
まだなにか倒し損ねているのだろうか。
そう考えて、再び周囲に気を配ろうとした瞬間。
「フフフ──」
「⁉︎」
背後から迫る黒い剣戟に、ギリギリで刀を合わせる。
「っ……なんでここに⁉︎」
ワタシの戦闘礼装を模した和服に、ロングヘアー。間違いなく、件の襲撃犯。
「っ!」
鍔迫り合いは、ワタシの方が力負けしていたから、すぐに後ろへと飛び下がった。
「……けど、ここに現れてくれて助かるわ」
他に誰もいない、建物をいくら傷つけても問題ないこの場所であれば、ワタシも遠慮なしに剣を振るうことができる。
「フフフッ──」
不気味な笑い声を出しながら、再びこちらに迫ってくる敵。
向こうから寄ってきてくれるなら、それに越したことはない。
「──孤風!」
身体ごと左に捻って、溜め込んだバネをも利用した横薙ぎ。
しかしモーションも大きくわかりやすい剣技ゆえに、上に避けられてしまう。
……これでいい。
「──蒼天!」
右側に流れた刀をそのまま後ろまで下げて、一気に突き出す。
孤風と蒼天を繋いで、確実に二撃目を当てにいく。
さらに近づいてきた敵がこれを避けることは不可能──
「なっ⁉︎」
──絶対に外れない神速の剣が外れた。
それも、敵の身体があらぬ形に変化して。
「っはッ!」
無防備になってしまったワタシに、敵の剣が振り下ろされ、地面を転がる。
「っっっ……」
師範や師範代以外から、これほどマトモに剣戟をもらったのはいつぶりだろう……。
「くっ……」
間髪入れず、敵の追撃が迫る。
剣を横にしてガードするけど……。
「速翼!」
「!」
敵の剣がワタシを捉えるより早く、その間に別の人物が割り込んできた。
「大丈夫か、羽月」
「匠……?」
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