48:十人十色の思惑が入り混じる
ダンジョンの発生は毎日というわけではない。
そして襲撃犯もまた、全てのダンジョン攻略後に現れるというわけではなかった。
そのせいか、警察の捜索も難航しているそうだ。
それに、羽月の評判をどうするかについても、考えなくちゃいけない。
あれこれと考えることがあって、ただでさえ忙しいというのに、
「全く、こんな時になんで、こんなところに呼び付けられなきゃならないんだ……」
再び白久グループの本社へと連れてこられた。
呼び出した人物は当然、白久政也。
「久しぶりだな、三峰匠」
「……どうも」
最上階の社長室は、以前と変わらない、やけに薄暗い部屋だった。
「さて、どうして私が君を呼び出したか、理由はわかるかな?」
「いえ全く」
「ほう? すると君は一ヶ月前の、私の提案を反故にしたことをもう忘れてしまったと?」
「……まさかそのことを今更蒸し返そうと?」
「いや、そんなつもりはない。君自身で、あの噂をひっくり返してしまったのだからね。君が宣言した通りに」
「…………」
蒸し返すつもりはなくとも、根に持たれていそうだな。
「まぁいい。時間もないことだ、早く本題に入ろう。先日から続いている、ダンジョン攻略完了後の襲撃事件、もちろん知っているな」
「それがどうかしたのですか?」
「その解決を、君にやってもらう」
「俺に……?」
「そうだ。こちらとしても、このような事件をこれ以上放っておくわけにはいかないのでね」
ダンジョンからの帰還後に、得体の知れない何者かに襲われる。
そんな事態が続けば、ダンジョンへの参加者が減っていく可能性がある。
ダンジョン参加者の数がほとんど利益に直結する、ダンジョンストリームにとってはかなりの痛手になってしまうのだろう。
「……なぜ俺を?」
わからないのは、なぜ俺を指名するのか。
俺でなくても、もっと信頼のおける人物に依頼をするべきなのでは?
「私の知る限り、現状君が最も優秀なダンジョン攻略者だからだ」
「優秀?」
「そうだ。どれほど危険であろうと、優秀な君であれば乗り越えられるだろう? 私の持ちかけを反故にするくらいは、優秀なのだからね」
「…………」
訂正、根に持ってるなんて次元じゃなさそうだ。
それに、俺がどんな目に遭ってもいいという考えで、俺に依頼をしてきたということか。
「もちろんタダでとは言わない。君が犯人を討伐してくれた暁には、君が抱える悩みを一つ解消してあげよう」
「……どういう意味だ」
「森口羽月、彼女にまつわる評判を良くする手伝いをしてやろう」
「お前……!」
「ふっ、怖い顔だ。しかし君が彼女のことを大切に思っているということが、よくわかったよ」
「当たり前だ! 羽月は俺の……」
「解せないな、彼女は君を狙っている存在だというのに」
「それでも、羽月は俺の、大切な幼馴染だ」
「なるほど。だが君の討伐は、森口の家の決定事項。そんな者たちに対する義理などないと思うがね」
「……待て、なんであんたがそんなことを知ってるんだ」
「私は森口の家とはかねてから親交があってね」
「親交?」
「そうだ。麓郎師範から、君を討伐する命を受けたお孫さんを預かってほしいと言われてね。私としても利害が一致する、故に彼女をあそこに留めているのさ」
「…………」
やはりこいつの目的は、俺を排除すること。
「驚いていないところを見ると、気づいていたということか」
「……あんたの命令で、羽月があそこに住み出したんだ。それを思えば、あんたの思惑にはすぐに行き着く」
「そうだろうな。しかしなぜか、彼女は足踏みしている。同時に、彼女は他のダンジョンストリーマーたちとの折り合いがよくない。ともすれば私としても、いつまでも彼女をそのままにしているわけにはいかない」
「お前、羽月に何かしたら!」
「別に、私は何もしない。もっとも、彼女にあそこを出て行ってもらう程度のことはするがね。しかし私が何かをする前に、他の者が手を下すかもしれないな」
「そんなことはさせない!」
「随分と威勢がいいな。しかし、果たして君が解決できるかな?」
「なんだと?」
「君の場合は、確かに影森君に剣を向けたとはいえ、噂自体は彼が悪意を持って広めた、根も葉もないものだった。それ故に君自身が行動でその噂を払拭することができた。しかし彼女の場合、現在の評判は彼女自身の行動に起因する。そして何よりも、彼女に評判を覆す意思があるようには見えない。それをどうやって覆そうと?」
奴の言っていることは正しい。
「それでも……!」
俺は羽月を見捨てるつもりはない。
「……まぁいい。君が彼女に肩入れしているということは理解した。それはそれとして、私の提案はどうなった? 君の返答をまだ聞いていないが」
「……事件の解決はやってやる。それに、羽月の評判も、あんたの手を借りるまでもない」
どのみちこの事件は放置して置けない。
羽月や白久さんが被害者になる可能性だってある。
それに自分が参加したダンジョンのレイドメンバーから犠牲者が出ているという事実も、個人的には許せない。
「ふ、青いな。なんでも自分の力で解決できると考えるのは、若い証拠だ。しかしその思考は、ともすれば自己過信に繋がるぞ」
「……失礼します」
背後で開かれた扉から、早足でこの場所から去った。
やっぱりあの人との会話は、どうにも苦手だ。
俺にはまだ、大人の会話というものができないらしい。
*
「「あー!」」
夜に発生したダンジョンに三人で向かうと、いつかの二人組剣士がいた。
「なに? 匠の知り合い?」
唯一その場にいなかった羽月が、首をかしげる。
「知り合いというか、前にダンジョン攻略で一緒になったってだけなんだけど……」
「その時に、この二人が剣を使っていて、色々とあったんです」
「ふーん?」
「……で、相変わらず剣を下げてるようだが、レイドにおける自分の役割は理解できたのか?」
「そ、そんなに睨まないでくださいよ!」
「ちゃんと考えてます! 剣はいざという時にしか抜いてません!」
「ならばよし。とりあえず、今日はよろしく」
「「よろしくお願いします‼︎」」
「いや、そんな勢いで頭を下げられても……」
逆にこっちが困るんだけど。周囲から何事かって視線を受けてるし。
「……ねぇ、白久さん。なんだかあの二人が匠の舎弟か何かに見えるんだけど、どうなっているの?」
「この前のダンジョン攻略で色々あって、二人は三峰君に頭が上がらないみたいなんです」
「……あんまり似合わないわね」
「うるさい」
弟子を持とうとか、そんなつもりはない。
「それじゃあみんな、そろそろメンバーも集まってきたし、ダンジョンに挑む準備をしよう」
白久さんの声に、全員が頷いた。
*
「速翼!」
敵の攻撃を、こちらの剣で斬り裂いて。
「今だ!」
ガラ空きになったボスモンスターに、一斉に魔法攻撃が放たれる。
「よし、これで討伐完了だ!」
力なく倒れたボスモンスターが、黒煙となって消えていく。
配信のコメント欄も、勝利に沸いていた。
「今日は魔法の方が強く出れる戦いだったな」
だから俺のやったことは雑魚敵の処理と、ボスの魔法を斬り裂くことだけ。
でもそれが自分の役割と心得て、それ以上に出しゃばることはしない。
(ま、あの二人の手前、下手なことはできないしな)
偉そうに説教しておいて、自分がそれを破ってしまったら本末転倒だ。
それに、当の二人もちゃんとみんなと足並みを揃えつつ、接敵した敵だけを剣に魔法を宿して斬るというスタイルを徹底していた。
「剣の腕も上がっているようだし、このまま真っ直ぐに伸びてくれれば、頼もしいダンジョン攻略者になるだろうな」
この間は、キツく言いすぎただろうかと心配したけど、無用だったようだ。
「けど……」
彼らよりも心配なのは、羽月の方だ。
今日も羽月は最後方にあって、静かに戦いを眺めているだけだった。
白久さんとの戦いから、もう二週間近く、ずっとそうだ。
「なぁ、羽月。ここ最近ずっとこうやってダンジョン攻略を眺めてるだけだけど、本当にどうしたんだ?」
「……別に、なにもないわよ」
「なんでもないってことないだろ。羽月だったら今日のボスくらい軽く倒せるだろ。いや今日に限った話じゃない、これまでだって、羽月なら……」
「別に今は、そういう気分じゃないってだけ」
「気分って……。もう二週間もそうしてるだけなのにか?」
「……匠には関係ないことよ」
「関係ないって、羽月さ……」
「っ──!」
急に羽月が後ろを向いて、大通りの向こうを睨みつける。
「羽月? どうかしたのか?」
「この感じ……」
「感じ?」
さっきまでの気の抜けた羽月はどこへ行ったのか、今は緊張で張り詰めている。
「……いる!」
「お、おい羽月⁉︎」
急に走り出してビルとビルの間の細い道へ入って行ってしまった。
「なんだなんだ?」
「どうしたんだ?」
突然の事態に、他のレイドメンバーたちも反応する。
「タクミ君、いったいなにが?」
「いや、俺にも何が何だかさっぱりなんだけど……あぁもう!」
羽月の無茶振りを静止するのは、決まって俺の役割だ。
「ミハルさん、みんなのことは頼んだ!」
「え? ちょっとタクミ君⁉︎」
羽月の後を追って、俺もビルの間の隙間道に入った。
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