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47:ダンジョン攻略者連続襲撃事件

「──経路追跡(Traceroute)開始(Start)


 蓄積した敵の情報をもとに、戦いながら組み上げた経路に従って動き始める。


 敵方が繰り出す攻撃魔法を回避する位置取り。


 次、こちらが距離を詰めるために通らなければならない、敵の攻撃を避けきれない場所を特定。


 その次、その攻撃をどう斬り払うか。


 敵がどう動いて、どう攻撃を繰り出してくるのか。


 その次も、さらに次も、全てが俺の予測通り。


「ここからだ!」


 敵の回避運動、方向、それに対するこちらの手。


 とうとう敵が避けきれずに、こちらの刀が命中していく。


「まだまだ!」


 命中、敵の攻撃を回避、命中、敵方の反撃を防御。


 俺の刀が敵のカラダを斬り刻んでいく。


「これで──」


 やがて力尽き、身動きが取れなくなった敵に、


「──仕舞いだ!」


 トドメを刺す袈裟懸けが命中。


 敵は項垂れ、倒れ伏し、黒い煙となって消えていく。


「討伐完了」


 刀を鞘にしまって、ダンジョンが崩壊していく中、他のレイドメンバーたちの元へ戻る。


「タクミ君!」


「お疲れ様、そっちは大丈夫だったか?」


「うん、おかげさまで、ディフィートアウトは一人も出なかったよ」


「それなら良かった。今日のボスは、魔法で相手するには面倒な相手だからな」


 今回のボスは、見た目を一言で表すとトカゲのバケモノ。


 とんでもなく動きが素早く、魔法で狙い撃ちするにはかなり面倒な相手だ。


 しかもトカゲの尻尾切りよろしく、中途半端なところを攻撃してもすぐに再生するし、足一本を程度じゃ素早さは減衰しない。


 そのせいで、ダンジョン攻略ではディフィートアウト者が出やすいボスモンスターの一体として覚えられている。


 だから経路探索して敵の動きを全て先読みして、徹底的に斬り刻ませてもらった。


「……けど、本当は羽月に戦って欲しかったんだけど」


 あのトカゲのバケモノは数少ない、剣士の存在がすごく活きる相手だ。


 だからこそ羽月が戦って、他の人からの信用回復に使いたかった。


『いえ、ワタシはここで彼らを見守ってるから。あのトカゲは匠が斬って』


『いや、でも……』


『匠!』


『っ……わかった』


 そうして俺の気遣いは羽月に拒否されてしまって、結局俺が奴の討伐に当たることになった。


「羽月のやつ、本当に覇気がなくなってるな……」


 この前の戦いがそれほど羽月にとってショッキングだったんだろうか。


 でもこれだけ引きずっているのも、なんだか羽月らしくないというか……。


「あれ、そういえば羽月は?」


 レイドメンバーたちの中に、羽月の姿がない。


「あれ、さっきまで最後方にいたはずなのに……」


 周囲を確認するものの、羽月はどこにもいない。


「ミハルさん? どうかしたんですか?」


 俺たちの様子を見て、他のレイドメンバーが声をかけてきた。


「えっと、ウヅキさんの姿を見た人っていますか?」


「……ウヅキさん?」


「いや……見てないけど」


「だよな?」


「だな……」


 彼らの返答は渋々と言った感じだ。


 やっぱり、羽月のことを快く思っていないのだろうな。


「そうですか……。それじゃあ今日はお疲れ様でした。気をつけて帰ってください」


 白久さんの声がけで、解散していくレイドメンバーたち。


「どうする、三峰君」


「俺はちょっと探してくる。先に帰っていてもいいけど」


「ううん、じゃあ私もここで待ってる。羽月さんが戻ってきた時に誰もいなかったら困っちゃだろうから」


「なんかごめん」


「謝らなくていいよ。いってらっしゃい」


 白久さんに送り出されて、レイドメンバーだけでなく周囲を封鎖していた警察の人や自衛隊の人にも話を聞いて、周辺を探索した。


 けれども誰一人羽月のことを見かけた人はいなくて、結局周辺の捜索も無駄骨に終わってしまった。


 結局、白久さんのところへ戻ってくると同時に、羽月もビルとビルの間の細い道から出てきた。


「おい羽月、一体どこに行ってたんだよ!」


「ごめんなさい、ちょっと……」


 手を口に当てて、何か考え込んでいる羽月。


「なにかあったのか?」


「……大丈夫、きっとワタシの勘違いだと思うから」


「勘違い……?」


 そこで話を切り上げる羽月。


 気にはなるけど、無理に聞き出す必要はないだろう。その時はそう考えていた。



     *



 翌朝、全員で朝食を共にしているときに、緊急通知が鳴り響いた。


 朝からダンジョンが発生したのかと一瞬身構えたが、


「……ダンジョンの発生通知じゃなさそうだね」


 通知の表題はただ、注意喚起とだけだった。


「……は?」


 しかしその詳細を確認すると、再び俺たちに緊張が走った。


「ダンジョン攻略の後で、ストリーマーが襲われた?」 


「しかも意識不明の重体って……」


「それもこの名前、俺たちが昨日一緒にダンジョン攻略してた人だぞ」


 顔を上げる三人。


「……こういうことって、よくあることなの?」


「そんなわけないだろ。ダンジョンストリーマーはみんな覚醒者なんだ、たとえば一般人が襲おうとしても、逆撃を受けるだけだろ」


「なら犯人は、同じ覚醒者ってこと?」


「その可能性はあるだろうな」


「でも五年前にも、覚醒者を恐れたり妬んだりして、一般人が覚醒者の人を襲ったって事件があったよ」


「その時は覚醒者側が返り討ちにしたからな。でも今回は意識不明の重体って、よほどのことだぞ……」


「襲われた人は意識不明の重体で、犯人については不明、ね」


 しかしこの通知にはそれ以上の情報は記載されておらず、ただ注意喚起とだけしか書かれていなかった。


「詳しい情報がわからないのに、ただ注意しろって、雑にも程があるって思うんだけど?」


「犯人がわかってないし、その手口もわからない以上は、これしか言えないっていうのもあるだろ」


「わかってるけど、丸投げされてる感じにちょっとムカついただけよ」


「……ごめんなさい。多分それは、あの人のせいだと思う」


「あの人?」


「……白久さんの父親、白久政也」


「あぁ、納得したわ」


 人が結束するのに一番必要なものは敵というけれど、俺たち三人を結束させる一番の敵はダンジョンではなく、あの人なのかもしれない。


「別にあなたが謝ることじゃないでしょ、あなたが書いたわけでもないのだし」


「……ありがとうございます」


「それで、どう対策をするかだけど……結局は、なるべく一人きりにならないようにするってことくらいか?」


「そうだね、今できることと言ったら、それくらいかな?」


「襲ってきた敵の情報がもう少し分かれば、対策しようがあるのだけど」


「でもここまでのことだ。警察とかも動くだろうし、下手に俺たちが何かすることはないだろう」


「そうだね、あとはダンジョンに来てくれた他のみんなにも呼びかけかな」


 方針を決めて、それ以外は普段通りの生活を続けていた。


 しかし、


「……これで三件連続。全く、やってくれるわね」


 ダンジョン攻略者が襲われる事件は続いていた。


「……ねぇ、三峰君」


「うん?」


「もしかして、この事件を起こしてるのって……」


「……あいつだって言いたいのか?」


 俺と白久さんには、この襲撃犯について思い当たる人物が一人いる。


「犯人の心当たりがあるの?」


「本当に犯人かわからないけれど……」


「話して」


 羽月の鋭い視線に、隠し事はできそうにない。


「……一ヶ月前、俺が炎蛇ラクと戦った時のことを知ってるか?」


「炎蛇ラク?」


「俺が羽月の剣技を使った時の相手だ」


「あぁ、思い出した。あなたと戦ってた、あのチャラそうな人のことね」


「その時に炎蛇ラクを影から操っていた存在がいたんだ。名前はエンキ」


「エンキ?」


「あぁ、タキシード姿にシルクハットの怪しげなやつだ」


「なにそれ、服装が胡散臭いんだけど」


「奴を一言で表すなら、まさに胡散臭いだな」


「で、そいつが犯人だと思うの?」


「私はそうなんじゃないかって」


「どう、だろうな……」


 個人的には、引っかかっている事がある。


 第一に、手段の違いだ。


 この前は炎蛇ラクのことを影から操っていたが、今回は直接手を下している。


 奴の態度や性格から見て、果たしてこんな短絡的な手段を取りうるのかという疑問がある。


 もう一つ、奴は自身を参謀役、戦うことを他に任せていると言っていた。


 ダンジョン攻略者を襲えば、反撃を受けることは予測がつくだろう。


 実際に、今まで襲われたダンジョン攻略者たちも反撃をしたと思われる、魔法使用の痕跡があったそうだ。


 いくら攻撃をすり抜ける手段があるとはいえ、戦いをしないと言っていた奴が、自分から戦いを望むだろうか。


「あなたね……敵のそんな戯言を信じるっていうの?」


「そういうわけじゃないけど……前回と今回で手段が違うのがどうしても気になるんだよ」


「ふーん? で、さっき言ってたすり抜けるってどういうこと?」


「そのままの意味だよ。俺の身体ごと攻撃がすり抜けたんだ」


「まるで意味がわからないのだけど」


「配信のアーカイブが残ってるから、あとで見てくれればわかるよ」


「じゃあ、あとで見方を教えて」


「はいはい」


「でもあの人は、こっちの世界に来て暗躍していた。だから私は怪しいって思う」


「……そうだな、うまく奴の尻尾を掴めればいいんだけど」


「何か方法はないの?」


「サッパリだ。この間も、奴がすぐ近くまできてようやく気配を感じ取れたんだから」


「そうなのね……」


「とりあえず、白久さんも羽月も気をつけること。なるべく一人きりにはならないようにな」


「そうだね」


「えぇ」


 続く事件に対して、後手に回らざるを得ない、もどかしい時間が続く。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

この作品の連載のモチベーションとなりますので、

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