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110:正体不明の第三勢力

 モンスターたちの動きが読めず、回避することもあたわず。


 目測で直撃を避けるのが精一杯だった。 


 その理不尽さに、苛立ちが募っていく。 


 ……これはダメだ、この熱は溜めてはいけないタイプのものだ。


 それがわかっていても、苛立ちを発散しようと刀を振るっても。


「く、そ……」


 敵に容易にかわされてしまう。


 そのことに辟易し、奥歯を噛み締め、さらに熱がこもっていく。


「落ち着け……これは罠だ」


 経路が見えなくとも、敵の動きはインストールされているんだ。


 モンスターの動きにイレギュラーがあったとしても、今までの蓄積情報を基にして冷静に見極めれば、対処できる。


「はぁ──!」


 朔也へと続く経路を導くのを諦めて、目の前のモンスターたちにあたっていく。


「ま、必殺技一つ潰したくらいじゃタクミは倒せないよね。でもさ──」


 斬られたモンスターの魔力が再び朔也へと戻り、モンスターを構築する。


「なんっ……」


「言っただろう、僕は魔王の器だって。こんなこともできるんだよ」


 生み出されたのは、さまざまなモンスターを混ぜ合わせたようなキメラと呼ぶべき、歪で醜い怪物。


「経路探索もできない状態で、初見の相手にタクミはどう立ち回るかな?」


「……舐めるなよ?」


 その程度の危機、いくらだって乗り越えてきてる。


 こちらから一気に距離を詰めて、フルスイングで中段胴薙ぎを見舞う。


「消え……」


 しかしその一撃は空振りに終わり、


「っ、スツールジャンパー!」


 すぐさまその場から退避、数秒もかからずに恐ろしい威力の拳がその場に振り下ろされた。


 拳が振り下ろされたアスファルトに、大きなクレーターが出来上がる。


「超速度に、とんでもないパワーファイターかよ……」


「そんな悠長に解析してていいの?」


「⁉︎」


 気がつけば同型のキメラが、俺の四方を囲んでいた。


「まずっ!」


 気がついた時には、逃げ場がない。


 このままじゃ、殺される。


 ──死。


 その一文字が脳裏によぎった、その時だった。


 全く別の方角から、高速の魔法が飛んできて、全てのキメラに命中。


 その着弾点から、クリスタルのようなものが噴き出て、キメラの動きを引き止めた。


「なにっ?」


「なんだ……⁉︎」


 俺も朔也も、突然の事態に同じ方向を見る。


「……あれは」


 ビルの屋上に、六人の人影。 


 その全員が、フードマントを身に纏っていた。


「まさか、あいつらが……」


 いつか配信で見た、レイドメンバーもモンスターたちも無差別に攻撃してくる連中なのか。


「まぁ、また僕の邪魔をしようってわけ?」


 珍しく、朔也が苛立ちを隠そうともせずに彼らへと問いかける。 


 そんな朔也の質問に答えることなく、ただ俺たちの間に割って入るようにビルから降りてきた。


「僕とタクミの戦いを邪魔するつもり? だったら容赦しないっ!」


 朔也が大量のモンスターを生み出して、フードマントへの攻撃を命じた。


 六人のうち三人が、朔也のモンスターへと向かい合い、攻撃を始める。


 クリスタルの魔法の使い手も、もちろんそちら側。


「お前らは……っ!」


 俺も動こうとした瞬間、機先を制するかのように足元に炎の魔法が打ち込まれる。


 残ったフードマントの三人からの攻撃。


(さて、どうするか……)


 さっきは彼らに助けられた、そういう意味では刀を向けにくい相手だ。


 けど、このまま朔也を放っておくわけにはいかない。


 彼らを一気に飛び越えて、向こうの戦場へと向かうか。


 そう考えて、足に力を込めスツールジャンパーを発動しようとした瞬間、フードマントの三人が再び炎魔法で攻撃してくる。


「いきなりだなおい」


 こちらが攻撃されると思ったのか。


 仕方なく前に跳ぼうとしていた力をそのまま後ろ飛びへと変換して、三人の魔法をかわした。


「交渉の余地はないってことか。お前たちが先に攻撃してきたんだ、こっちも遠慮しないでいいってことだよな」


 殺意を鋒に乗せて、彼らへと向ける。


 再び三人から炎の魔法が繰り出された、さっきよりも効果範囲が広い。


「悪いがその程度は問題にならないんだよ」


 グッと腰を落として、刀を左側に添え──


「──孤風」


 横薙ぎの一撃を繰り出す。


 あの程度の魔法に、こちらの剣技が劣るはずもない。


 膨れ上がった炎を斬り伏せて、攻撃はそのまま三人へと伸びていく。


「!」


 キィンッと金属音を立てながら、空から降ってきた別のフードマントが、手にしている剣で孤風を受け止めた。


 受け止めた一撃に押されながらも、傷一つ負うことなく受け流して見せた。


「剣使いか!」


 こいつも以前の配信にいた、おそらくあのフードマントの集団の中で一番の使い手。


「孤風を受け流すなんて、やるじゃないか」


 そんなことができるのは、羽月や師範たちしかいないと思っていた。


 まだまだ、世界は広いということか。


「で、まだやるつもりか?」


 刀を構え直して、彼らに問いかける。


 俺たちの言語が通じてるのかさえ怪しいが、少なくとも現時点では、こちらから仕掛けるつもりはない。


 だが、俺の問いかけに対する返答が返される前に、後ろの戦場に動きがあった。


「……はー、やめやめ。台無しだ、萎えた」


 フードの三人組と互角以上の戦いをしていた朔也がため息をついて、全てのモンスターへ攻撃命令を取り消した。


「サクヤ様」


 同時に、朔也のそばにエンキが現れた。


「あれ、二人は倒しちゃったの」


「っ!」


「いえ、こちらにもアレと似たような集団が介入してきたため、水入りとなりました」


「ふーん。ま、二人の相手をしろとしか言ってないし。そもそも簡単に倒せる二人でもないしね」


「……えぇ、まぁ」


「次ちゃんとしてくれればいいよ。タクミー、聞こえてるー?」


「……?」


「次は誰も邪魔されない場所で決着をつけようか。……あぁあと、面倒だからこのフードの連中の処理は任せるから、よろしくね」


「おい待て、朔也!」


「じゃあまた」


 昨日と同じく、闇の中へと姿を消す朔也とエンキ。


 同時に紅月の空にヒビが入り、ダンジョンの崩壊が始まる。


「匠君!」


「匠!」


 道の向こうから、白久さんと羽月が走ってくる。


「っ、こいつら!」


 フードマントの集団に気づいたのか、慌てて急停止し、刀に手を伸ばす羽月。


 白久さんも立ち止まって、自身の魔力を高めて臨戦態勢をとる。


 形としては、俺たちでフードマントの連中を挟み込んだ形になるが、さてどうする?


「…………」


 彼らはこちらを警戒しながらゆっくりと一箇所に集まる。


 その中の一人が何らかの言葉を唱えると、彼らの足元に魔法陣が浮かぶ。


 さっき白久さんや羽月が同じ目にあったように、彼らも一斉に姿を消した。


「……撤退したのか」


 ダンジョンが完全に崩壊して、元の世界に戻ってきたのを確認してから、刀を仕舞いつつ内に溜め込んだ蒸気を吐く息と共に発散した。


「匠、大丈夫だった」


「あ、あぁ……羽月たちもやっぱりあのフードマントに遭遇したのか」


「うん……」


「戦ってる間に割って入るようにね」


「そうか……」


 俺の場合は、モンスターを攻撃して、確かに俺を助けてくれた。


 でも、すぐさま俺に魔法を撃って、敵対行動をとるようにも見えた。


 一体、奴らは何を考えてるんだ……。


「大丈夫ですか!」


 さっき送り出してくれた自衛官が、ダンジョンから戻ってきた俺たちに駆け寄ってくる。


「え、えぇ。問題ありません。ですが敵は取り逃しました……」


「そうでしたか」


「すみません、あんな仰々しく送っていただいたのに、なんら成果を出せず」


「いえ、皆様がご無事で戻って来られて、安心しました」


 そうして、相当の覚悟をして挑んだ戦いは、中途半端な結末で終わりを迎えた。



     *



「……くそっ!」


 帰宅して部屋に戻り、電気をつけることなく、行き場のない怒りを拳に乗せて壁に当てた。


「あのまま戦っていたら……」


 俺は確実に負けていた。


 あのフードマントの連中の介入で命拾いしたことはわかってる。だからこそ、悔しくてたまらない。


経路探究(Routetrace)では、まだ足りない……」


 師範の言葉の意味が、ようやく理解できた。……それも最悪な形で。


「今のままじゃ何度やっても、結果は変わらない」


 なら、対策を考えるしかない。


 経路探究(Routetrace)に足りない半分を、不足を補うなにかを、見つけるしかない。


「……でも、足りない半分って、なんなんだ」


 この技のルーツは、俺の尋常ならざる記憶力を頼りにした技だった。


 敵の過去を過たず拾い集めて、未来を試算する経路追跡(Traceroute)


 でもそれじゃあ羽月の剣には決して届かなかった。羽月は進行形で進化し続ける存在だったから。


 だからこそ生み出した、もう一つの切り札。


 敵の今を見つめ、次に繰り出される今を導き出す経路探究(Routetrace)


 敵の一手先を、あらゆる可能性を見出すことができる技、でも朔也は俺が導き出した道をねじ曲げてしまう。


 俺が辿ろうとする経路が破綻してしまっては、勝てるわけがない。


「……わからない」


 力なくベッドの上で大の字に寝転んで、天井を眺めながら、自分の不甲斐なさに奥歯を噛み締めた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

この作品の連載のモチベーションとなりますので、

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