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隣国へ

 あの森の魔物達に、エイシアは「じゃ、私はいくから、あんたたちは今まで通りにしてなさい」という言葉だけを残した。そして出発した俺とエイシアは、一緒の馬に乗って隣国へ向かっている。ちなみに、俺の馬は口笛一つで戻ってきてくれる、賢い馬だ。


 ここまでの道中で、副官についての詳しい説明を求めたのだが。


「詳しいことなんて知らないわよ! ただ、いつかこの切り札を切って、あんたを隣国へ連れて行くかもしれないって話をコソッとされただけ!」


 話を聞いて、さらに疑問が増えただけだった。俺を隣国に連れて行くってどういうことだ? そもそも、なぜその話をエイシアにはしたのか。

 聞いてみてもいいけど、多分聞いても「知らない!」という返事が返ってくることが予想できたので、それ以上は聞いていない。


 エイシアも馬に乗れるけど、一頭しかいない以上一緒に乗るしかない。二人乗っている以上急ぐこともできず、ノンビリと前に進んでいたが、その途中でエイシアが「ここが待ち合わせ場所!」と言った場所で、休憩中だ。


「待ち合わせって、副官と?」

「他にいないでしょ!」

「いつそんな約束したのさ」

「隣国の王子って教えられたとき! 何かあって国の外に出るときがあったら、そこで待ち合わせしましょうって言われたのよ!」


 それはまたザックリ過ぎる約束だ。けど、そんな現状になってしまっているのだから、笑えない。


「なんでこんな何もない場所で?」

「そんなの、あいつに聞きなさい!」


 エイシアもよくここが待ち合わせ場所だと分かるものだと思う。何もない荒野だが、遠くの方に川が見える場所。本当に副官がここに来るのかどうか分からないが、水があればある程度のキャンプは可能だ。


「……なんで俺、素直に隣国に向かってるんだろうなぁ」

「素直に帰って、素直に殺されるつもり?」

「……殺されるのかなぁ。あの国、俺がいないとガチで魔物とまともに戦えない気がするけど」


 国境へ遠征しての魔物退治を全部押しつけられていた俺たち。逆に言えば、他の隊は碌に魔物と戦った経験がない。


 将軍なんかは「私が出ればもっと早く対処できるのだ」「任せてやってるのだから感謝しろ」とか言っていたけど、果たしてどうなのか。少なくとも、将軍の剣の腕はたいしたことない。俺が接待試合でいつも負けてやってたから、本人はどう思っているか知らないけれど。


 だから、将軍が将軍たる所以は、剣じゃなく戦術方面に長けているのだろうと思っている。魔物との戦いはそっちの方が重要だから、本当に俺よりもっと早く対処できるのかもしれない。そうであれば、確かに俺を殺してしまっても問題ないのか。


「殺されるって単語に、驚きすらしない自分が悲しくなるけど」

「その機会を国王たちが狙っていること、あんた自分で気付いてたんでしょ。だから、変な腹探られないように、大人しくしてたんでしょ」

「……ん、まぁね」


 奴隷から生まれた俺という王子を、国王も王太子も疎ましく思っていたことは知っている。知るか、というのが俺の本音だけど、だからといって死にたくもないので、黙って彼らに従っていた。


 それが今回のことで、俺は無断で王都を抜け出すという"罪"を犯した。である以上、俺を捕らえることを躊躇いはしないだろう。そして投獄してしまえば、殺すことも簡単だ。食事を与えないとか毒を混ぜるとかそんなの簡単にできるし、死因だって簡単に偽装できる。


 飛び出した時はそこまで考えてなかったけど、よくよく考えると「帰る」選択肢は「死」と同等だ。そう思うと、素直に隣国へ向かっている現状は、悪くないかもしれない。けれど、隊員たちが気になる。


「エイシアはさ、なんで勘当なんかされちゃったの? 婚約破棄はともかくとして」

「なんで婚約破棄はいいのよっ!」

「いや、いいとは言わないけどさ。でも明らかにエイシアに向いてないし」

「うっさいわねっ!」


 ポカッと頭を殴られた。力は入ってないから痛くはないけど、理不尽だ。エイシア自身だって、向いてるなんて思ってないだろうに。


「あの親たちね、私が王太子の婚約者になったことで調子に乗ってたの。将来は国王の外戚だって。それが破棄なんかされちゃったもんだから」

「それで怒って勘当? ……まあ、気持ちは分かるかも」

「あんたはどっちの味方なのよっ!」


 また殴られた。でもしょうがないじゃないか。手に入ると思っていた強い権力が失われてしまったんだ。落ち込むだろうし怒るだろう。


 気持ちが分かるからといって、同情するつもりはないけれど。別に自分たちの力で手に入れたわけじゃないんだから、それを失ったからって怒るなと言いたい。


「俺はエイシアの味方だよ。昔からずっと」

「――そんなの当たり前よっ!」


 一瞬の間があってから返事が返ってきた。嬉しそうに声が高くて、頬がほんのわずか上気している。喜んでいるらしい、と思って、俺も笑みを浮かべる。その時、俺の耳に聞き慣れた声が聞こえた。


「あっ! 隊長だー!」

「エイシアさまーっ!」


 意識せず、口元が綻んだ。馬を止めて声の方向を見る。俺の隊の隊員たちだ。全員いる。特に怪我を負っているようにも見えない。


「隊長もエイシア様もご無事で何よりです。お帰りなさいませ」

「こんな道中でおかえりも何もないだろ、フィテロ」


 俺に名前を呼ばれた副官は、どこかイタズラっぽく笑ったのだった。


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