表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

エイシアの状況

 馬を飛ばしまくった俺は、わずか数日で南の国境にある森にたどり着いた。この辺は雪なんか影も形もない。驚くくらいに暑い。


 フゥと息を吐き、剣を握りしめてから森に入る。馬は繋がない。無理をさせたから、ゆっくり休むように声をかけて、そのまま放してやる。


 俺の持っている剣は、軍に支給されている普通の剣ではなく、遠征先で出会った刀匠が、俺のために作ってくれた剣だ。もちろん俺がそんな剣を持っていることは、国王たちには言っていない。言えば、取り上げられるのが目に見えている。


 森に入ってすぐ異変に気付いた。妙に静かだ。この森はこんなに静かだっただろうかと、警戒しつつ中を進む。そして、暑いはずの場所に妙な冷気を感じて、俺は足を止めた。


「……もしかして」


 ある種の確信を持って、その冷気の方向に足を進める。そして、見つけたそれ(・・)に苦笑した。


「この場所って、魔法の威力落ちるんじゃなかったっけ?」


 目の前にあるのは、ガチガチに凍らされた魔物の像。氷で作った像ではなく、凍らされた魔物である。エイシアがいつこの場所に来たのかは知らないが、この暑い場所でこんなガチガチの氷状態を維持するって、すごくないだろうか。


 さらに足を進める。所々、まるで目印のように凍らされた魔物が点在している。それを頼りに、俺は奥へ奥へと足を進める。生きている魔物とは一切出くわさない状況が異常過ぎる。全く警戒する気が起きないのは、その原因を何となく察したからだろうか。


 そうして進むこと、しばし。


「おすわりっ!」


 やたらめったら楽しそうに聞こえた声に、俺は脱力した。どんな状況なのか、見たいような見たくないような。俺が来る必要ってあったんだろうか。だからといって、ここまで来て引き返すのも何なので、仕方なく声の聞こえた方に向かった。


 そして、そこにいたのは、思い切り元気そうなエイシアと、氷付けにされた魔物が何体か。そしてその魔物と同じ魔物が五体ほど、まさに「お座り」している。さらに、その奥に息を潜めているたくさんの魔物の存在を感じた。


「何やってんの」

「やっと来たわねっ!」


 なんか力が抜けてしまって、呆れ半分に声をかけると、驚いた様子もなくエイシアが返してきた。


「やっとじゃない。割と危ない橋渡って、ここまで来たんだけど」

「どうせあんた立場危ないんだから、気にする事じゃないわっ!」

「……あのね」


 確かにそうかもしれないけど、だからといってわざわざ危ない橋を渡りたくない。俺だけの問題であれば気にしないけど、王城にいるはずの俺の隊員たちにも危ない橋を渡らせているのだ。


 だが、目の前の彼女は、相変わらず自信に満ちた姿だ。婚約破棄されて、実家から勘当されて、なぜそんなに自信満々なのか、そっちが不思議だ。


「で、何やってんの」

「見たら分かるでしょ! このか弱い女の子の私が生き残るために必要なことよ!」

「か弱い女の子は、魔物に"お座り"させないって」


 どう考えても、魔法で魔物を倒して脅して、言うことを聞かせているようにしか見えない。今なお"お座り"している魔物を見る。エイシアを見る目が怯えているように見えるのは、きっと俺の気のせいじゃない。


「……ま、元気で良かったよ。じゃ、悪いけど、俺いったん帰るから」

「なんでよっ!」

「俺の隊員たちがいるから。流石に国王たちに俺がいないことに気付かれてるだろうし」


 ここに来るまでに数日。さすがにもう王都にいないことはバレただろう。皆は大丈夫だろうか。副官を信じてここまで来たが、俺の方に帰らないという選択肢はない。


「私はどうするのよっ!」

「ここにいても平気そうに見えるけど」

「あんたが来るまでって思ってたから、手加減せず魔法を使えただけよ! いつまでもこんなの続けてらんないわ!」

「……あ、そっか」


 やっぱりそれなりにエイシアにとってはキツイ場所だったのか。その割には元気そうだけど、長く続けるのは無理か。いや、その前に。


「なんで俺が来るって思ったの」

「来ないつもりだったわけ!?」

「……いや、隊のみんなもいるし、ちょっと悩んだ」


 エイシアは無言のまま眉をひそめた。

 俺が隊の皆と仲良くなってから、俺への嫌がらせが皆にまで及ぶこともあった。皆には全く関係のないはずの俺のミスを、隊全体のミスにされたこともあった。


 俺は何の許可を得ることもなく、王都を抜け出してここまで来てしまった。間違いなく、その責任は皆に押しつけられる。そのとき皆はどうなってしまうのか。いや、副官が何とかできていなかったら、今頃皆は大変な目に合っているかもしれないのだ。


 エイシアもそれは分かっているだろう。だから、一緒に王都に来るなら来てもいいと思う。実家に帰るわけにはいかないけれど、町外れの方にいれば見つかることもないはずだ。


「ねぇ、副官はあんたがここに来ること、知ってるのよね?」

「ああ、もちろん。あいつが皆を何とかしてくれるって言うから、頼んできた」

「じゃ、帰る必要はないと思うわ。隣国の方へ向かいましょ」

「……なんでさ」


 国境を接している国はいくつかあるけれど、隣国と言って浮かぶ国はたった一つ。この森の北にあるのが俺の生まれた国であるならば、この国の西にあるのが隣国だ。

 大抵の国境は辺境地帯であり、魔物の跋扈する領域だが、西にある隣国だけは、魔物の領域を挟んでおらず、交流も多いのだ。


 だからといって、なぜそっちに向かうのか。一応王子である俺が、まさか勝手に行くわけにもいかない。下手すれば国際問題になる。だが、心配している俺を余所に、エイシアはやはり自信満々に言い放った。


「あの副官が隣国の王子だからよ!」

「………………は?」


 驚いた俺は、絶対に悪くないと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ