表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

新しい街

本日二話目の投稿です。

「街だ」

「やっと見つけたわね」


 長い旅の果て、俺たちは見つけたその街にホッとして、中に入っていった。



*****



「あんたたち、どこから来たんだい?」

「南からです。驚きました。俺たちのいたところも、結構雪が多かったんですけど、この街はそれ以上なんですね」

「はっきり言いなよ。氷と雪に覆われてるんですねって」


 そう言って宿の女将さんはアハハと笑う。確かに街中の建物も地面も凍っていて、悲愴感に溢れてそうな言葉だけど、その言葉は明るい。


「それで、部屋は一部屋でいいのかい?」

「いえ、二部屋でお願いします」

「なんだ、若い夫婦だと思ったのに」


 女将さんのとんでもない勘違いに、危うく吹き出すかと思った。


「――ち、違います!」

「そうですよ! こいつは……そう、下僕みたいなものですから!」


 慌てて否定すると、エイシアも俺の言葉に同意した……けど、いくら何でもヒドイ。


「……下僕はひどくない?」

「しょうがないわねっ! 従者に格上げしてあげるわ!」

「……それ、格上げ?」


 やっぱり言うことがひどいエイシアにツッコむと、またも女将さんが笑った。


「いやーいいね。あんたたち、同じ部屋にぶち込んでみたいけど、まあこっちは客商売だ。一人部屋二つだね。二階の奥が二つ空いてるから、そこを使っておくれ!」


 同じ部屋にぶち込んでみたいとは何だろうか、と思ったけど、それを聞く間を与えずに女将さんはさっさと話を進めて、俺たちに鍵を差し出してきた。こうなると、わざわざ聞くこともできず、黙って鍵を受け取るしかない。


「食事は一階で食べれるよ! 朝はサービス、夕は食事代もらうから、他で食べてもいい。でもうちで食べるなら少し安くするよ!」

「ありがとうございます。今日の夕食は行かせてもらいますね」


 宿で食べられるなら、その方が面倒がない。でもまあ、毎日行くかどうかは、食べてみてからだ。

 歩き出した俺たちに、後ろから女将さんの声が響いた。


「あ、そうだ! 忘れてた! 夜は外に出ないようにね! 魔物が出るから!」

「……魔物?」


 一体どんな、と聞こうと思ったけれど、その時にはすでに他の客と話をしていたため、聞けなかった。



*****



「この部屋ねっ!」


 エイシアが鍵を見て、部屋に書いてある番号を見て、扉を開けている。そして、さっそく部屋の中を見回して、さらには窓から外を見ている。


「こっちの部屋で良いの?」

「もう一つの部屋も見てから決めるわっ!」

「……こういう宿って、どの部屋も大体同じなんじゃ」

「うるさいわね! 窓からの景色が少し変わるでしょ!」

「……別にいいけどさ」


 俺の方にこだわりはないから、エイシアの好きな方を選べば良い。一通り確認したのか、部屋を出て隣の部屋に入っている。その後を俺も追いかけるけど、やっぱりどちらも似たようなものだ。


「うん、こっちにするわっ!」

「ちなみに、なんで?」

「勘よ、勘!」


 腰に手を当てて胸を反らせる。なぜそんなことに自信満々なのか。いつものことながら、不思議だ。


「じゃ、あんたはさっさと出てって」

「少し休む?」

「当たり前でしょ! 私はあんたと違って、か弱い女の子なのよ!」

「誰がか弱い……ナンデモナイデス」


 ソソクサと逃げ出した。エイシアの手の上に渦巻いていたものが怖かった。


 隣の部屋に入った俺は、荷物を置いてベッドに腰掛ける。そうしたら、どっと疲れが出てきたように感じた。俺がこれなのだから、俺よりも体力のないエイシアは、もっとキツかっただろう。実際、途中で熱を出してしまうこともあった。


「これからは、もうちょっと気をつけないと駄目だな」


 あの国を出た俺たちは、北へと向かって旅を始めた。そして最初に見つけた街がここだ。

 国にいた頃はあちこち遠征していたわけだから、体力に問題はないと思っていたけれど、目的地がはっきり分からないというのは、精神的にキツイ。

 

 旅は始まったばかりだ。こうやって、一つずつ学んでいこう。


 そう思って、俺もベッドに横になる。そのまま眠りに入ろうとして……唐突に女将さんの言葉が頭に蘇った。


「……魔物って、どんな奴だろう」


 夜になると出ると分かっているということは、分かっているのに放置されているということだろうか。その理由は、なぜ。


 ベッドから起き上がる。考え出したら、眠れそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ