新しい街
本日二話目の投稿です。
「街だ」
「やっと見つけたわね」
長い旅の果て、俺たちは見つけたその街にホッとして、中に入っていった。
*****
「あんたたち、どこから来たんだい?」
「南からです。驚きました。俺たちのいたところも、結構雪が多かったんですけど、この街はそれ以上なんですね」
「はっきり言いなよ。氷と雪に覆われてるんですねって」
そう言って宿の女将さんはアハハと笑う。確かに街中の建物も地面も凍っていて、悲愴感に溢れてそうな言葉だけど、その言葉は明るい。
「それで、部屋は一部屋でいいのかい?」
「いえ、二部屋でお願いします」
「なんだ、若い夫婦だと思ったのに」
女将さんのとんでもない勘違いに、危うく吹き出すかと思った。
「――ち、違います!」
「そうですよ! こいつは……そう、下僕みたいなものですから!」
慌てて否定すると、エイシアも俺の言葉に同意した……けど、いくら何でもヒドイ。
「……下僕はひどくない?」
「しょうがないわねっ! 従者に格上げしてあげるわ!」
「……それ、格上げ?」
やっぱり言うことがひどいエイシアにツッコむと、またも女将さんが笑った。
「いやーいいね。あんたたち、同じ部屋にぶち込んでみたいけど、まあこっちは客商売だ。一人部屋二つだね。二階の奥が二つ空いてるから、そこを使っておくれ!」
同じ部屋にぶち込んでみたいとは何だろうか、と思ったけど、それを聞く間を与えずに女将さんはさっさと話を進めて、俺たちに鍵を差し出してきた。こうなると、わざわざ聞くこともできず、黙って鍵を受け取るしかない。
「食事は一階で食べれるよ! 朝はサービス、夕は食事代もらうから、他で食べてもいい。でもうちで食べるなら少し安くするよ!」
「ありがとうございます。今日の夕食は行かせてもらいますね」
宿で食べられるなら、その方が面倒がない。でもまあ、毎日行くかどうかは、食べてみてからだ。
歩き出した俺たちに、後ろから女将さんの声が響いた。
「あ、そうだ! 忘れてた! 夜は外に出ないようにね! 魔物が出るから!」
「……魔物?」
一体どんな、と聞こうと思ったけれど、その時にはすでに他の客と話をしていたため、聞けなかった。
*****
「この部屋ねっ!」
エイシアが鍵を見て、部屋に書いてある番号を見て、扉を開けている。そして、さっそく部屋の中を見回して、さらには窓から外を見ている。
「こっちの部屋で良いの?」
「もう一つの部屋も見てから決めるわっ!」
「……こういう宿って、どの部屋も大体同じなんじゃ」
「うるさいわね! 窓からの景色が少し変わるでしょ!」
「……別にいいけどさ」
俺の方にこだわりはないから、エイシアの好きな方を選べば良い。一通り確認したのか、部屋を出て隣の部屋に入っている。その後を俺も追いかけるけど、やっぱりどちらも似たようなものだ。
「うん、こっちにするわっ!」
「ちなみに、なんで?」
「勘よ、勘!」
腰に手を当てて胸を反らせる。なぜそんなことに自信満々なのか。いつものことながら、不思議だ。
「じゃ、あんたはさっさと出てって」
「少し休む?」
「当たり前でしょ! 私はあんたと違って、か弱い女の子なのよ!」
「誰がか弱い……ナンデモナイデス」
ソソクサと逃げ出した。エイシアの手の上に渦巻いていたものが怖かった。
隣の部屋に入った俺は、荷物を置いてベッドに腰掛ける。そうしたら、どっと疲れが出てきたように感じた。俺がこれなのだから、俺よりも体力のないエイシアは、もっとキツかっただろう。実際、途中で熱を出してしまうこともあった。
「これからは、もうちょっと気をつけないと駄目だな」
あの国を出た俺たちは、北へと向かって旅を始めた。そして最初に見つけた街がここだ。
国にいた頃はあちこち遠征していたわけだから、体力に問題はないと思っていたけれど、目的地がはっきり分からないというのは、精神的にキツイ。
旅は始まったばかりだ。こうやって、一つずつ学んでいこう。
そう思って、俺もベッドに横になる。そのまま眠りに入ろうとして……唐突に女将さんの言葉が頭に蘇った。
「……魔物って、どんな奴だろう」
夜になると出ると分かっているということは、分かっているのに放置されているということだろうか。その理由は、なぜ。
ベッドから起き上がる。考え出したら、眠れそうになかった。