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公爵家での日常


 自分の小さい頃に戻ったと知った俺、しかし、子供の姿であるため戻る前の時のようには行かなかった。

 だが、そんななか情報収集だけは務めるようにしていた。

 これは戻る前の世界にも心掛けていたことだが、自分の現状を正しく把握していなければ勝てるものも勝てなくなるのだ。


 「カレン、今は何年の何月何日だ?」

 「は、今は神歴4738年の10月2日ですが……」


 調べにより日付が分かった。

 ついでに補足しておくと明日俺の誕生日が来るわけだが…‥待てよ?


 「カレン…‥俺は今、何歳だ?」

 「9歳です、明日で10歳ですね!」

 「そうか……やはりか。」

 「……?」


 10歳の誕生日、そこで俺はカレン、そして俺の妹を失うことになるのだ。


 「カレン、朝食だな?案内しろ。」

 「かしこまりました。」


 彼女達に死が近づいている。

 だが、もう時間はない、それまでに俺はやりべきことを成す。


 「おお、ハイル来たか!座れ座れ。」

 「はい、お父様」


 食堂へ着くと、そこにはまん丸と膨らんだお腹を惜しげもなくさらけ出している初老の老人がいた。

 彼が俺の父親であり、リヒター公爵家の現当主トラッシュ・リヒター、その人である。

 そして俺はそのリヒター公爵家を継ぐ者、ハイル・リヒターだ。


 「明日は10歳の誕生日ね、ハイルもとうとう自分の異能がわかる年になったのね」


 髪を赤く染め、豪華な指輪や装飾品を体のいたるところにつけている、化粧のケバケバしい女がそう言う。

 彼女が俺の母親、ウラネ・リヒターだ。元々は借金だらけの男爵家の娘だったらしいが、見事に玉の輿を当て、公爵家の妻となったらしい。その結婚の際、反対した有能な家臣の者達は現当主のトラッシュの手によって粛清されたらしい。そのせいで今の公爵家は横領や不正の溜まり場となっているが‥我が親のことながら嘆かわしいことだ。


 「ご馳走様でした、父上、ではこれで失礼します。」

 「まぁ、待ちなさいハイル。」


 親の顔を見ているだけで、吐き気がしてきたためすぐの食事を終え、自分の部屋へ戻ろうと思ったがそうは問屋が卸さなかった。


 「ハイル、明日はお前の異能が判明する日だ、心の準備だけはしておきなさい」

 「はい。」


 ぺこりと一礼だけして俺はそこから退出した。



 異能、それは貴族だけが10歳になると出現する力である。

 その力の全ては人外と呼ばれるような者であり、ある者は岩を持ち上げれるような怪力となり、ある者は物体を自由に操ることのできるような力を得ることができる。


 そして俺は前の俺の記憶で自分の異能を知っている、いや、自分がどうなるかを知っている。

 前世で俺は…………無能力者であった。





 「カレン、妹に会いに行く。」

 「かしこまりました。」


 俺は部屋に戻るとカレンにそう伝え、別館に移る。

 そして家族とある一部の者しか知らぬ秘密の扉を開く、その先には階段があった。

 その階段を俺はカレンと共に降っていく。


 しばらくすると向こう側に牢屋が見えた。


 「……はぃるさま……?」


 牢屋の中にはボロボロになった布切れを羽織ってフケや傷だらけの皮膚の痩せ細った女の子の姿が見えた。

 彼女が俺の妹、ラエルだ。


 彼女は俺の妹ではあるがその出生は複雑である。

 元々俺の親2人は恋愛結婚であったが公爵家には務めというものが存在する。

 故に先代の公爵は恋愛結婚というものを認めていなかった。

 そのため父はどこの誰かも知らない伯爵家の令嬢と一時政略結婚をしていた時期がある。


 しかし、その前から父は母と浮気をしていたのだ。

 その時、俺が生まれることとなった。

 そのせいで父は公爵家後継者を取り消しされそうになる羽目になったが暴走し、自身の父、つまり先代の当主と有能な家臣達を皆殺しにして今のウラネと結婚することになった。

 その際政略結婚をしていた女も死ぬこととなったのだが、その女には前に子供が1人産まれていたことが判明したのだ。その結果憂さ晴らしとしてトラッシュとウラネは徹底的にその子供を虐め抜くことを決めた。


 そして今この牢屋にラエルがいるというわけだ。


 「はぃるさま、み、水を………」


 息も絶え絶えと言った感じで彼女はこちらへ擦り寄る。

 ちなみに9歳までの俺の妹に対する態度は興味を示さないというものであった。自分から彼女を傷つけることはないし、だが、逆に助けるようなことはしない。


 しかし、前世のことで気が変わった。


 「カレン、水も食料も持ってきているのだろう?」


 「ッ!?」


 ビクッと俺の後ろでカレンが反応する。

 カレンは前の人生でも1人、彼女のことを気にかけて水や食料を彼女に調達していた。

 なぜバレたのか困惑と共にこれからどんな処罰を下されるのか、ゴクリとカレンの喉が鳴る。


 「心配するな、父上達には何も言わん、ラエルに与えてやれ。」


 「え?あ、は、はい!」


 カレンは牢屋へ近づきラエルの身を起こして水を飲ませ、それから食料を与えた。


 「ほどほどにしておけ、身をやつらせていなければ奴らにバレる。」

 

 「!?は、はい!」


 カレンは慌てて身を引き、牢屋から離れた。

 そして驚愕したようにこちらを見る、そんなに俺が両親のことを奴ら呼ばわりしたことに驚いたか?


 「はぃるさ…ま、ありが…とう、ござい…ます」


 少し回復した状態でラエルが土下座で礼をいう。

 彼女が土下座を着くのは癖になっているからだ、だが…気に食わない。


 「その土下座は今日までにしておけ」

 「……え…?」

 「もうしばらくそこにいろ、明日までの辛抱だ。」


 彼女の反応も待たずに俺は身を翻しそこから立ち去った。

 前の時は彼女達をむざむざと犠牲にしたが今回はそうは行かない。


 俺は嫌いな事が三つある。

 一つ目は無駄なことをすることだ、何も意味がないのに行わなければなれない無駄なことは本当に腹が立つ。

 二つ目は自分を卑下するような真似だ、自分に自信がないのであってもそれを周囲にアピールするのは愚かな奴がすることだと思っている。



 そして三つ目は…



 理不尽に俺から奪うことだ。





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