プロローグ
はじめましての方もそうでない方もこんにちは、どうかこの作品が面白いと思って貰えますように!
「これで終わりだァァァァァ!!!!!」
ブシュッと嫌な音を立てて、勇者の持つ全てを切り裂く魔法の剣が俺の腹を貫く。
俺の腹からほとばしる大量の血液、いかに自己再生能力があろうとも勇者の持つ剣はその能力を無効化する。
つまり、俺は致命傷を負った。
「グハッ……」
体内から大量の血液が口へと押し寄せてくる、この出血量ではもはや数分の命しかないだろう。
俺は膝を地につけ、崩れ落ちた。
ふと目の前を見ると勇者が仲間の女性達とはしゃいでいる。
その姿を見て俺は………怒りを覚えた。
勇者の持つ力は【愛と勇気】
その能力は自分を愛してくれている量に比例して勇者自身が強くなるということだ。
だが、俺にはそんな力は認められなかった。
(なぜ、人をそんな簡単に信じることができる………人はすぐに裏切る生き物だぞ…)
勇者との最終決戦前、俺にもたくさんの配下達がいた。
しかし、皆決戦前には俺を裏切り、勇者側へと着いた。
(分からない…‥なぜそんな簡単に人を………)
グハッと血が胃から上り上がってくる。
そろそろ限界が近いようだ。
俺は地面に倒れ込み身動きも出来なくなっていた。
(これで終わりなのか……?)
あと、少しだ。
あともう少しでこのふざけた世界を終わりに導けたものを。
自分の脳内に回る血液が少なくなっていくのがわかる。
とうとう意識が朦朧とし始めて目が霞み始めた。
(クソッ………もう少しで我が悲願を果たせたものを……)
自分に真の仲間がいたのであれば結果は変わったのだろうか。
いや、俺は人は信じない、あの日そう決めたのだ。
この思いは生まれ変わっても変わるまい。
(もし、次があるのなら……)
普通の人であれば失敗はしない…‥などと呑気なことを考えるのだろう。
だが、俺は違う。
(次があるのなら…徹底的に勇者を潰して、神を…‥殺す)
そんな物騒な思いをもとに意識を失い、俺は永遠に目覚めることはなかった。
…………はずだった。
「……さま……ハイル様!」
微睡のなか、微かに必死に俺の名を呼ぶ女の声がする。
(…なんだ…‥誰だ俺の名を呼ぶ者は……いや、この声は…)
「……ッ!?」
バッと一気に毛布を剥がし、相手を認識する。
「……?どうかなさいましたか?ハイル様。」
「……いや……なぜお前がここに…?」
「おかしなことをおっしゃりますね?貴方様の専属侍女だからとしか言えませんが……?」
そう、彼女は俺の元専属侍女、カレンだ。
だが、そんなはずはない。彼女は俺が10歳の時に死んでいるはずなのだ。
(馬鹿な…なぜ彼女が生きて……いや、それ以前に俺は死んだはずでは…)
そこまで思い至って俺は勇者に腹を貫かれたことを思い出す。
そして腹がどうなっているのか確かめようと視線を下に向けた。
「なんだ…‥これはッ……!?」
見るとそこには到底成人しているようには見えない幼き体があった。
(そんな馬鹿な!?)
自分の手や足を確認するも自分で一端の剣を持つことすらできぬような小さい掌がそこにはあった。
「…鏡だ。」
「はい?」
「今すぐ、ここに鏡を持ってこいッ!!」
「は、はい!!!」
俺の怒鳴り声に背中をビクつかせて慌てて部屋から退出していく。
そう、そもそもこの部屋も俺が王都を破壊した時に潰れていたはずなのだ。
「も、持って参りました!」
そう言ってカレンは人1人がギリギリ映り込むような鏡を追加の侍女と共に持って部屋へ入ってきた。
俺は鏡を覗き込む。
「……やはりか。」
鏡の中に映り込んだ俺の姿は成人しきった凛々しい姿ではなく、吹けば飛ぶようなか弱い子供のような姿になっていた。
(何が起こったかは知らんが…‥どうやらカレンが死ぬ前の世界に戻ってきてしまったらしいな)
つまり、先ほどの敗北はなかったものとされた。
ここからまた、やり直すことができるのだ。
「クク、クククク、ハーーーハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!!」
「ハイル様……?」
これほど神に感謝したことはない。
カレンが不審がってこちらを見ているが体の中から湧き上がってくる笑いがせき止められない。
(なんの因果かは知らんが、絶好の機会だ、神よ。)
ひとしきり笑ったあと俺は顔に怒りの感情を貼り付けて。
(待っていろ、今度こそ必ず……神、お前を殺す)
こうして俺の神殺しの綺譚は再び開始された。