毒親
「毒親」
娘の遺書の中で、私はそうよばれていた。
私はシングルマザーとして娘を育ててきた。
お金と時間の余裕がない日々だった。
一人で娘を育て上げなければならない。
プレッシャーは想像を絶するものだった。
気づけば娘を怒鳴っていた。
手をあげてしまうこともあった。
娘の寝顔を見る度に、罪悪感と自己嫌悪で押しつぶされそうだった。
仕事を掛け持ちしていたため、学校行事にもなかなか顔を出すことが出来なかった。
娘の笑顔を見かける機会は、少なくなっていた。
娘が中学生になってからは、お互いに顔を合わせれば悪態をつくようになっていた。
娘が高校生になった。
娘は言った。
「大学に行きたい」
私は娘を大学に行かせなかった。
娘が就職をすれば、この貧困生活から抜け出せると期待をしていたのだ。
それきり娘は、お金と送迎以外のことで話しかけてくることはなくなった。
娘が高校を卒業し就職した。
子育てにひと段落がついて、心に余裕がうまれるのを感じた。
これからはもっと娘に優しくできる。
もっと娘と話そう。
娘と色々なところに行こう。
今までの分も。
その矢先、娘は命を絶った。
亡くなる当日の娘は、いつも通りだった。
しばらくの間、何もできなかった。
仕事には行かなかった。
誰からの電話にも出られなかった。
誰とも話したくはなかった。
あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。
娘の部屋を入った。
娘のベッドの上には、いつか私が買い与えたぬいぐるみがあった。
そのぬいぐるみは、どこにでも売っているような安物の量産品だった。
そんな物しか買ってあげられなかった。
私は、娘がぬいぐるみを抱きながら健やかに眠る姿を思った。
いつも肌身離さず持ち歩いていた。
こんなにボロボロになるまで、ぬいぐるみを大事にしていたのか。
涙が溢れて止まらない。
机には手帳が置いてあった。
遺書のようなものだった。
娘は、遺書の中で私を「毒親」とよんでいた。
精一杯育ててきた、つもりだった。
私が娘をずっと傷つけていた。
私が、殺した、愛する娘を。
強い眩暈がして、床に膝をついた。
涙が止まらない。
呼吸が浅い。
このまま呼吸が止まってしまえばいいのに。