銅薄膜のまだら模様
色の話です。またも。
僕は友人の研究室を訪ねた
学生時代のはなしね
話し相手が欲しかっただけ
訪ねたというよりね
彼は彼の作った磁性材料に
銅薄膜をスパッタしてた
電極をつけて抵抗を測りたいんだね
電気メッキだと磁性材料が水に浸かるしね
銅箔だと磁性材料に隙間なくつけるの大変なんだね
銅の塊にArイオンを照射する
スパッタ装置でね
数キロボルトのイオンが銅塊に衝突
銅の原子を剥ぐ
剥がれた銅は彼の磁性材料に
降り積もって薄膜をつくる
電極ができたみたいでよかったね
電気抵抗と磁性材料の磁気の関係に迫れるね
スパッタの石英の蓋を外そうとする彼に、あ、待って
銅と青緑のまだら模様がある
石英の蓋の表面に
剥がれた銅が石英にも降る
銅色は銅の金属光沢だ
青緑はなんだ?銅の酸化膜のサビ?
装置は真空 酸素は少ないはず
金属の銅の光沢の全反射は
赤より長波長の光をプラズマ反射するからだね
ならば青緑色の短波長は?!反射しないで透過する?
金属の銅の厚さが厚ければ
青や緑は透過しきれず銅の中で吸収されるね
石英の蓋の膜は薄くて青緑色は透過できるのでは?
僕は仮説の検証のため覗き込む
石英の蓋の表面を
やっぱり僕の顔が映っている
銅色の反射光には
装置の中の機材が青緑に透けてる!
青緑色は銅薄膜を透過した光
ささやかな僕の仮説は検証完了
こんなささやかな考えごとが好きなのです
ささやかなことが好きでいられれば幸せです
石英は二酸化珪素(SiO2)の透明なガラスです。
以下、本文の注釈です。興味ありましたらでどうぞ。
注1: 「スパッタ装置」
スパッタ(スパッタリング)とは、均一に成膜したい
材料の原料の塊に、高電圧でイオンを
加速して衝突させて、ターゲットから原子や
イオンを剥ぎ取ります。剥ぎ取られてバラバラの
原子やイオンは、成膜したい板に誘導され、
降り注ぎ、均一で板とよく密着した膜ができます。
注2: 「装置は真空 酸素は少ないはず」
スパッタリング装置のなかは、真空に保たれて
います。加速イオンやターゲット由来の原子や
イオンはありますが、大気圧よりもずっと密度が
低いです。なので、銅の酸化膜はできないと
思いました。
注3: 「青緑色は石英を透過した光」
金属薄膜は、色付きのサングラスにも使われます。
その後、私は、数十 mnの銅薄膜で、
透明電極を狙っている研究があるのを知りました。
ちなみに、友人のスパッタ装置では1um
くらいで、これよりも10〜100倍厚手です。