第一話「私のやりたい事」③
『僕が‟楽しい学校生活”を送らせてあげる』
「え?」
男の思いもよらない言葉に、驚きの色を隠せず言い返す。
幽霊専門の教師という彼は続ける。
「学校生活を満喫して未練がなくなれば、
自然と成仏するだろうからね。
うんと魅力的な青春ってカンジのやつ送ろうよ。」
私は立ち尽くしたまま
理想的な要求に揺らがずにはいられなかった。
(それは、私がずっと欲しかったものだ…
でも、)
(でも…)とためらいながら、再びぐっと口元に力を入れる。
「無理だよ。
私を楽しませるなんてお前なんかに絶対無理!」
正面を見据えて言い放つ。
「…僕なりに
精一杯頑張るよ」
それまで本気なのかふざけているのか間の抜けた男の顔は
ふと突然様変わりした。
え…?
「そ・れ・と!
‟お前”じゃなく‟先生”と呼びましょう」
「は!?誰がお前なんか!」
また態度は元に戻った。
私は戸惑いを見せまいと思わず走り去る。
(さっきの顔は何でもない
…はず)
「待ってー」
「待たん!」
二人の押し問答が校舎に響く。
誰もいない校舎はそれだけ声がよく通る。
東中学旧校舎の前はもう既に
いつでも工事を開始できるよう重機の準備と
立ち入り禁止のフェンスが貼り巡らされている。
取壊しまであと一ヶ月。
私が‟先生”に消される日。
第一話「私のやりたい事」完です。
読んで頂きありがとうございました!
次回第二話に続きます。