表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/72

視線の先に。

 

 

 ──!?

 

 

 そっと覗いた視線の先。

  わたくしは、ハッと息を呑む……!

 

 思いもかけず、

 再びラディリアスさまと目が

 合ってしまったのです。

 わたくしはびっくりして

 お兄さまの服を掴んだのです。

 

 ラディリアスさまの蒼く輝くその瞳は

 まるで射抜くようにわたくしを見つめていて

 ドキリとするほど美しい。


 あぁ……ここまで来たら、もう間違いない。

 ラディリアスさまは

 ずっとわたくしを見ていたのですね……。


 わたくしはてっきり、

 想い人を見ているのだと思っていましたのに……。

 

 わたくしはそんな事を思いながら目を伏せる。

 

「……ラディリアス、さま……」

 

 

 ラディリアスさまのその容姿は

 大人になられて『可愛い』の言葉など

 全く似合わなくなってしまいました。


 けれどサファイアのようなその瞳は

 あの頃と少しも変わることなく

 潤むようにわたくしを見ているのです。

 

 夏の日の湖面のように清々しくて優しくて

 少し泣き出してしまいそうなその瞳が

 わたくしは幼い頃から大好きで、

 婚約破棄をしてしまったのなら

 きっとこれからは、もう見ることも

 叶わなくなるのだと思うと

 なんだか目を逸らしてしまうのが

 もったいないような気もしました。

 

 

「……っ、」

 

 ですからわたくしは

 泣きたくなるのをグッと堪え、

 視線をラディリアスさまから外さずに

 頑張って見てみる事にしたのです。

 



 ……頑張って見る(・・・・・・)

 



 なんて滑稽な表現なんでしょう?


 幼いあの頃の時とは全く違う

 変に意識した自分の考え方が可笑しくて

 ホント嫌になる。

 

 本当は、ずっとずっと友だちでいたかった。

 

 一緒に草原を馬で駆け抜けたり

 狩りをしたり水遊びをしたり。


 他愛のないおしゃべりに花を咲かせ

 疲れたら一緒にお昼寝をしたりするの。

 

 豪華な屋敷も調度品もいらない。

 必要最低限のお金と食事。

 それから気の許せる友人と家族がいれば

 わたくしはそれだけで満足なの。


 ……その友人が、

 ラディリアスさまであったのならと

 望んだ事もあったけれど、

 わたくしのこの願いは到底叶わない。

 

 何がいけなかったと言うのでしょう?

 

 ラディリアスさまが皇太子だから?

 それともわたくしが女だから?

 こんな姿で夜会に参加するような、

 貴族だから──?



 その答えは わたくしには難しすぎて

 分かりそうもない。


 ……いいえ。もしかしたら、

 その全部かもしれない。

 

「……」

 貴族として生まれたがために

 有り余るほどの富は手に入れられても

 その分 自由を失った。

 

 走り回る自由に、働く自由。

 友だちを作る自由に

 好きだと思える人を作る自由。

 

 その何もかもが わたくしの中では

 最も大切なものだったのに、

 なにも手に入ることが叶わないなんて……。


 掴んだと思った瞬間に

 この手をすり抜けていくその願いは

 いったいどうやったら

 掴み取れるというのでしょう?


 わたくしは、そんなに難しい事を望んでいるの?

 それを望むのは

 わたくしの我儘(わがまま)なの?

 

 泣きたくなるような思いを抱えて

 わたくしはそっと覗き見る。

 

 

 婚約破棄をしてしまえば

 わたくしはもうこの皇宮には

 二度と来ることはない。

 

 ……いいえ違う。

 二度と(・・・)ではないですわね。


 夜会に呼ばれれば、こうして

 来ることもあるかも知れません。


 けれど、今までのように

 気安く訪れることは、もう

 二度と出来ないと思うのです。

 

 こうやって気楽に

 ラディリアスさまのお姿を拝見するのも

 話すことも

 今日これで、最後になる可能性がとても高い。

 

 ……あぁ、けれど、

 婚約破棄をわたくしに依頼するくらいですもの。

 こうやって覗き見られるのは

 殿下にとってはお嫌かもしれません。


「……」

 そんな事を思いながら

 わたくしは眉間に力を入れる。


 友人だと思っていた人に(うと)まれるのは

 けしていい気分ではない。


 けれど今日は最後の日。

 少しくらい長く見ていても

 笑って許して下さいね……?

 

 そう思って遠慮がちに見ていますと

 ふいに殿下が ふわり……と

 花がほころぶように微笑まれたのです!

 

 

「!?」

 

 

 わたくしは小さく悲鳴を上げて

 握っていたお兄さまの服の(すそ)を引く。

 何故だかとても、嫌な予感がしたのです。

 

 今日が最後になる……そんな

 単純なことではありません。

 もっと別の、

 見えない手に捕まったかのような

 そんな、変な気分……。


「……」

 


 微笑みを向けられるのは、けして嫌ではない。

 けれど今のわたくしは、

 婚約破棄をしようとするその相手なのですよ?

 そんな相手に、

 あのような微笑みを向けるものなのでしょうか?

 

 

「お……お兄さま、お兄さま……?」

 

 わたくしは震えながら

 お兄さまの服の裾を引っ張る。


「わ、わたくしは本当に、

 ラディリアスさまとの婚約を

 破棄して頂けるのでしょうか……?」



 不意に心配になって

 わたくしはお兄さまを見上げる。

 

 

「──え?」

 

 お兄さまはそんな わたくしを

 少し驚いたような困った顔で見下ろして

 その細く繊細な指で

 わたくしの頬を優しく撫でてくれる。

 

「フィアどうしたの?

  ……落ち着いて?」


 戸惑ったような、お兄さまの囁きが降ってくる。

 

「俺たちは、あれだけ色んなことをしたじゃないか。

 それにこの婚約破棄は

 もともと殿下からの申し入れが先なのだろう?

 だったら、たとえお前が婚約破棄を

『嫌だ』と言ったとしても

 もう無駄だと思うのだけれど?

 それに今日、

 この日以外に婚約破棄の宣言をなさる

 絶好の機会など、訪れはしないのだから……」

 

 お兄さまは諭すように

 そう わたくしへと言葉を掛ける。

 その言葉に、

 わたくしは震えるように頷いてみせる。

 

「え、えぇ……。そうですわ。

 そうですわね。お兄さま。

 今日……今日おっしゃって頂かないと

 長くなればなるほど面倒な事になりますもの……」

 

 けれど先程 覗き見たラディリアスさまは

 とても落ち込んでいらして

 (すが)るような目で

  わたくしを見てきたのです。


 どう考えてみても

 あの目で婚約破棄を言い渡すとは

 とても思えなかったのです。

 

 

    挿絵(By みてみん)

 

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ