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西の森の、知られざる秘密。

 



『西の森』──



 

 多くの魔物が住み着くその森は、

 普通の人にとっては、とても危険な場所で

 そこに人が踏み込むことは、滅多にない。

 魔力量の少ない平民では、踏み込む

 ことすら困難な場所。


 だけど確かに危険とされている、西の森なんだけど

 前世のゲームでもそうだったように、別の分野で

 恩恵を与えてくれる。


 ここまで言うとわかると思うけど、武具や防具の

 補強アイテムとか、贈答用の魔石。魔法をパワーアップ

 させる素材とかがゴロゴロしてる。


 平民には関係ない場所なんだけれど、騎士や傭兵、

 それから商人にとっては宝の山。


 だからパーティを組んだり、討伐隊を編成したりして、

 この西の森に入る人間もいる。


 で、……そこでだよ。

 当然この俺たちも、この西の森へ入ったんだ。

 その時は、探索……って意味合いの方が大きくて……

 言うならば力試し?

 ある程度の武芸身につけて、魔法を繰り出せる年齢になると

 誰だってソレを試したくなるだろ?

 しかもそれがさ、経験値を上げてくれて尚且つ

 武器や武具のアイテムや魔石が手に入るってなると

 そりゃ行かなくちゃいけない! なんて思っちゃうだろ?


 例に漏れず、俺たち(・・・)もそうだったんだ。



 だから、こっそり入ってみた。西の森。

 本当は子どもは、入っちゃダメなんだけどね。

 だけど子どもだから、抜け道見つけちゃったんだよね。




 西の森は、その危険性から、魔法壁で覆われてる。

 それは一重に中のものを(・・・・・)外に出さない(・・・・・・)魔法壁(モノ)で、

 外からの侵入に関しては、とんとお粗末なシロモノ。


 たまに点検の魔法士たちがやって来て、補強はするけれど

 完全には塞がれていない場所もある……って言う

 ヤツだったんだよね、有難いことに。


 そもそも人間の子どもが通れるくらいの、少しの(ひず)

 くらいでは、魔物は通り抜けられない。

 抜けられるのは、魔法壁に反応しない、無力な魔物くらい?

 だから、大人たちも安心しきってた。


 ただ、力のない大人や子どもが迷い込まないように、

 西の森のふもとには騎士養成学校があって、

 騎士見習いたちが目を光らせているし、西の森の入口にも

 当然、護衛騎士が睨みを効かせている。

 簡単に西の森へは入れない。──入ったけど。



 で、そこで見つけたんだ!

 なんとその西の森で、現世で見た食材が

 たわわに実っているのを!


 まさかの『食料の宝庫』!?




 誰も気づかなかった……ってのが不思議だよね?

 確かに監視者はいて、森に入れる人間は、制限されていたよ?

 だけど、全く入れないわけじゃない。

 いやむしろ、毎日誰かが、この西の森には入ってたんだ。

 それなのに、発見されなかったあの食材たち……。


 コレはもう、俺のためって言っても過言じゃないよね!?



 多分ね、分からなかったんだと思う。それが食べられる(・・・・・)って。


 だって、西の森だしね?

 魔物だらけのこの森で、何が悲しくて、害になるかも

 分からないものを、口にするわけないだろ?


 例えその地に、美味しい食材が自生していたとしても

 それが食材だとは認識されなかったんだと思う。

 彼らにとってしてみれば、ただの生い茂る木と

 雑草にしか見えなかったのに違いない。


 それにそれ自体(・・・・)が目的じゃない。

 彼らの目的は、あくまで魔石や武具防具なんかの素材。

 その素材をとるために命を懸けて、魔物の森へわざわざ

 侵入したってのに、余計な行動をして命の危機に陥るような

 真似をするわけない。

 ──だから、食材たちは守られた。




 西の森はとても危険。

 入ったとしても、日帰り程度に済ませてしまう人が多いし、

 ごく稀に帝国からの派遣で、隊を組んでの遠征とか調査とか

 あるけれど、その際に使用する兵たちの食料は、事前に

 用意をされたものを森へ持ち込む。

 ……そりゃそうだよね?

 そんな隊に組み込まれるのは、名の知れた貴族やその家臣たち。

 なにかあれば、叩かれるのは皇家だしね?

 そんな抜かりはしない。



 ──と言うわけで、敢えて西の森で直接食料を調達しよう

 ……なんて思う人間はほとんどいないわけ。



 どれが食べられてどれが食べられないのか、専門家でも

 ない限り分からないから、これはしょうがない。

 ……え? それなのに、何故、俺は分かったのかって?


 そりゃ分かるさ。

 今世での食べ物って、前世で食べていたものと少し

 違った形をしているんだけど、不思議とこの西の森に

 自生している食べ物は、前世のものと変わりがない。


 ついでに言えば、俺たちゾフィアルノ侯爵家は

 魔物の国と言われる宵闇(よいやみ)国とも交流があって

 そこで食べられている食べ物や魔物の種類を

 知ることが出来た。


 普段普通に食べられている食物と、魔物の森にある

 食べ物は、見た目的にはあまり違いがない。

 だけどその、ほんの少しの違いって、何だか怖いだろ?

 食物自体が俺たち騙して何か企んでるみたいで……。


 だからそれがかえって、人々の警戒を誘った。


 他の国で、この食べ物たちがどう扱われているか……なんて

 俺は知らないけれど、少なくともこのヴァルキルア帝国では

 そんな危険そうな食べ物を口にしようと思うヤツは誰1人

 いやしない。……俺たち(・・・)を除いては。

「……」

 勿体ないよね、美味しいのに……。



「コホン……」

 わたくし(・・・・)は咳払いをして、調理に取り掛かる。


 まぁ……結局のところ、その事実に他の人が気づいたとしても

 それを好んで食べる……なんて人は、この

 ヴァルキルア帝国に、そうそういるわけもなく

 結果西の森は、わたくし専用の『狩り場』……と

 なったわけなのです。

 

 ですからわたくしは、時々『素材集め』と称して

 お兄さまを引っ張り出し、食べ物の収穫に行くのです。


「……」

 ただ、気にはなるのです。

 なぜ、こうも生育形態が変わってしまったのでしょう?

 西の森と言えどもヴァルキルア帝国内。

 土の質や気候は同じ。……それなのに何故、違った物が

 生み出されてしまったのか……。


 いずれ解明したい……とは思いますが、

 今のわたくしでは、それは難しい。

 ひとまず出来ることといったら、たまに出掛ける

 食材探しで探索することくらい?


 そんなんじゃ、何も見つけられないって分かってはいる

 のですが、以前西の森へ赴いた時に、ひょんな事から

 ラディリアスさまにその事が見つかってしまって、

 大目玉を喰らったのですよ……。


 以来、簡単には行けなくなってしまったのです。




「……」


 ──だいたいさ、俺ってそんなにヤワじゃないのに……。



 思わず顔をしかめてしまう。


 だいたい、ラディリアスは過保護過ぎるんだ。西の森

 だって、別に俺1人で入ったわけじゃない。日帰り

 コースで、ちゃんとパーティも組んで、事前に入念な

 準備だってして、それから食料調達に行ってたんだぞ?

 それなのに普通、あんなに怒るか?

「……」


 思い出してもムカムカする。



 確かに()は、公爵令嬢として過ごしているから、

 当然、騎士資格は受けたことがない。

 だからどのくらいの実力か──なんてのは知らないけど、

 でもさ、俺ってさ、ずっとフィデルと訓練しながら

 過ごしてきたんだよ? 弱いわけないだろ?


 さすがに、騎士資格に合格できるのかって言われれば

 そんな自信はないけれど、でもそれなりに強いとは

 思ってる。


 この体格差だから、フィデルの持久力には当然

 負けるけれど、瞬発力ならフィデルにだって

 引けをとらない。

 突然魔物が襲って来たとしても、撃退する術は

 いくらでも持っているし、実際1人で大物を

 倒したことだってある。


 宵闇(よいやみ)真月(しんげつ)おっちゃんに、極意だって

 教わった。

 ちょっとやそっとで、負ける俺じゃない。




 ──それなのに、怒られた。




「……」

 俺の力量を知らないラディリアスからしてみれば

 とんでもない事だったのかも知れない。

 だけど、そんなに怒らなくてもいいだろ?

 だってあの時は、フィデルだっていたし、ラディリアスの

 側近であるゼフだっていたのに……っ。


 俺は唇を噛み締める。



 ……だけど、ラディリアスに怒られてしまったからには、

 もう気軽に西の森へ行くことは出来やしない。


 ……いや、まぁ、俺的には平気だよ? ラディリアスに

 怒られるのなんか。

 いっそ嫌ってくれてもいいって思ってたから。

 そうなったら楽に婚約破棄に繋がってくれるだろうって

 思ってたし。


 だけどね、あの時しこたま怒られたのって

 俺じゃなくってパーティ仲間……だったんだよね。

『何で止めないんだ! ありえないだろ!?』って。特にゼフ

 なんかは、数ヶ月の減給処分まで受けてしまった。

 だから逆に、軽はずみなことが出来なくなって

 しまった。

 俺のせいで、他の人間に迷惑が掛かる──。

 とんだお荷物だったんだ。俺って。






「……はぁ」

 わたくしは思わず溜め息をつく。



 ですからわたくしは、よくよく考えて、その日を境に

 西の森へ行く時には、六月(むつき)の姿で

 行くことにしたのです。

 もう絶対、フィリシアの姿では西の森へは行かないと

 心に誓いました。


 もう、あんなヘマは、絶対に致しません!

 だってあそこの食材は、本当に素晴らしいのですもの!

 ……けれど『六月(むつき)』の姿でしか行けないのが

 玉に(きず)……本当にめんどくさい……。

 


 けれどここで功を奏したのは、この食料たちの

 美味しさなのです!


 減給処分を受けてしまったあのゼフですら

『それでもまた、ご一緒させていただきます!』と

 仰ってくださったの。


 この世界で過ごしている方々には、合わない味かも……

 なんて心配したのは最初だけで、ひとたびその食べ物を

 食べた方は、その美味しさに胸を打たれ、

 涙を流すほど……。

(って言うのは、言い過ぎでしょうか……?)


 でもそれほど、その料理は美味しいのです!


 ですから、その事実を知ったお兄さまのご友人方は

 わたくしの料理を食べるために、ふたつ返事で

 西の森へ同行して下さるようになったのです!

 例えそれが『殿下』と言うハードルが

 あったとしても──ね?

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


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