ラディリアスとフィデル
──お前では無理だ。
いつだったか、フィデルが私にそう言った
その一言が未だに耳に残っている。
あれは、いつだっただろう?
確か誕生祭の準備に追われていた時だったと思う。
フィアのエスコートをしたい旨をフィデルに伝えたら、
フィデルは明らかに不愉快そうに顔を歪めた。
『お前、婚約破棄をするんじゃなかったのか?』
『……あぁ、するよ。フィアを危ない目には
合わせたくないから。
でもそれとこれとは話が別だ。
私は今現在、フィアの婚約者だ。
婚約者をパーティでエスコートするのは
当たり前だろ?』
『お前、何を考えてるんだ? そんな事
出来るわけないだろ!?』
そして冒頭の、あの言葉。
いや、その前にその言い草は私に対して
失礼だろ!?
──けれど私は、その事について言及はしなかった。
それよりも、エスコート出来ないことの方が
重大だった。
『何故、無理なんだ』
フィデルの事は気に食わないけれど、フィデルは
フィアの兄。そして、私の唯一の幼なじみでもある。
政界で最も重要な位置を占めている彼の、その言葉尻を
とらえて言い争うほど、私は子どもじゃない。
それに、フィデルが嫌だと思うのは、私の勝手な
私情でしかない。
フィデルは、この国にはなくてはならない人材だ。
フィアを取られる気がするから嫌い……なんて
そんな子どもみたいなちっぽけな理由でフィデルを
処罰の対象にするなんて、それがどんなに
愚かなことなのかは自分でもよく分かっている。
……でもこのまま、フィアとフィデルが同じ敷地内に
いるというのも、心休まらない。
私とフィアの婚約が決まってから、フィデルの言動の
端々に、私からフィアを奪おうとする姿が
見て取れていた。
このヴァルキルア帝国で許されている兄弟姉妹婚の
存在もずっと気になっていた。
──早くなくさなければ。
そうは思っていても、手が回らない。
皇弟派への牽制と、治安維持。
それから、ほとんど起きなかった干ばつの影響で
議題に上げることすら はばかれた。
干ばつ……。
何故、川の水が干上がり始めた?
そもそも今までの歴史を振り返ってみても、
そんな事は一度も起こってはいない。
早く対応しなければ、口さがない連中は
『神の意にそぐわぬ皇帝がたったから』などと
言い出しかねない。
確かに対応策はある。
けれどそれを今使うことが出来ない。
『……っ、』
俺は歯噛みする。
目の前の人物……フィデルは、楽しげに目を細めた。
……全く嫌になる。
コイツはいったい何なんだ?
フィアは私の婚約者なのに、いつもことある事に
私を牽制してくるんだ。
フィアの欠点を私に挙げ連ね、逆に自分は、そんな
フィアをサポートできることを仕切りに訴えた。
……そんなフィデルが、何を考えているのか私には
理解できない。──いや、理解したくない。
だからこそ、フィアの傍に置いておくこともできない。
『……殿下には、フィアを守ることができません』
キッパリと言い切るその言葉が、私を貫く。
『……っ、そんな事はない。
私にだってフィアを守れる!』
そう叫んだけれど、フィデルは鼻で笑った。
『俺だったら寝ている時だって守れる』──
『……っ、フィデル!』
私は唸る。
フィデルは、そんな挑発を平気でしてくる。
『……っ、私だってフィアがずっと傍にいてくれるのなら
絶対に守りきるし、幸せにする自信だってある!』
そう言い返しはしたけれど、本当は不安でいっぱい
だった。
どうやったら2人を離れ離れに出来るだろう?
どうやったらフィアは、私のところへ来てくれる?
そんな事ばかり考えた。
そしてフィデルは、そんな私のことを見抜いていたに
違いない。
余裕の笑みを返してきて、私は何も言えなくなる。
「……」
父上には、やっと伝えることが出来た私の秘密。
秘密を伝えたのに、父上はお怒りにはならなかった。
むしろあれは
嬉しそう──?
そっと窓の外を見ると、朝の清々しい風に吹かれ、
ハラハラと落ち葉が散った。
まるで私の不安を取り除いてくれるかのような
そんな風景。
あれは──父上のあのお言葉は、
フィアとの婚約を許してくれているように思えた。
──婚約の保留?
『保留』の意味が一瞬分からなくなる。
こんな私でもまだ、フィアの傍にいても
いいんだろうか?
「……」
秘密を知った陛下が『良い』と仰ったのだから
そうなのだろう。
そう思うと嬉しくなって、頬が緩む。
フィア……フィアの傍にいられる──!
諦めかけたその想いが、再び胸を熱くする。
「……」
けれど──
けれどその秘密を私はまだ、フィアには話していない。
話せばフィアは、きっと私のことを不審に
思うに違いない。もしかしたら憎まれるかも知れない。
受け入れて欲しいとは思うものの、そんな都合のいい話
あるわけない……なんて風にも思う。
今の今まで秘密にしてきた報いだと思う。
早く伝えれば良かったのに、どうしても
伝えられなかった。
その上婚約解消の約束するなんて、私は
どうかしていたんだとしか思えない。
「──……」
私と一緒に生きるとなると、どうしても
その事実からは逃れることが出来ない。
必ず、伝えなければいけない大切なことなのに
どうしてもその勇気が出ない……。
フィアの反応が恐ろしくて、どうやっても
切り出せない。切り出したくない。
嫌われたくない。失いたくない。
一生このまま黙っていて、死ぬまで秘密を
守り抜けるような、そんないい手はないだろうか……?
なんて、そんな不毛な考えを模索した。
出来ることならこのままずっと黙っていて
何も知らないフィアを手に入れてしまおう……とか、
話さなければいけない状況になったのなら
フィアが私から、離れられない状況になってから
それから話せばいい……なんて、
そんなズルいことを考えている自分がいたのも
また確かだ。
考えてみればそれは『フィアを幸せにする』……には
程遠いことで、ましてやずっと騙し続けている自分が
ひどい悪者のようにも思えた。
けれどそれでも、ただひとつ言えることは、
──まだ繋がっている。
フィアと私は、完全に切られたわけではない。
ただその事実だけが、私には嬉しかった。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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