魔力とは。
あ……っと、ここで1つ説明するとね
『魔法の質』って色々あるんだ。
水とか火とか風とか。
で、魔法に慣れた達人までになると
属性を超えて、使える魔法の幅も広がるらしい。
実際、そんな人ってのはあまり見かけない。というか
本当に存在するのか定かじゃない。
俺、見たことないし。
でもそれは単なる都市伝説じゃなくて、
魔法を極めれば、そんな事も本当に
出来るみたいなんだ。
当然、俺もフィデルも
まだそこまでは いってなくて
俺は『水』に関係する『氷』と『水蒸気』
くらいかな、使えるの。
フィデルも、火力を調節するとか炎で
鎖を編み上げるとか、
出来るのはそのくらいで
別の属性を操る術はまだ、
持ち合わせていない。
……まだとか言うけれど、そんな力
実際持てるかどうかも分からない。
どんな魔法の研究者でも、そんな
夢のような力を持てるかどうかなんて
ホント、神のみぞ知る……なんだよね。
どうやらこれって、『運』も
関係してくるみたいなんだ。
ほとんどの人は、1属性……多くて2属性までしか
手に入れることが出来なくて、
属性を超えて色んな魔法を繰り出す……なんて人は
未だかつてお目にかかった事がない。
でもまあ、……炎で鎖……ってのも、十分凄いって
思うんだけどね、俺的に。
だって炎が物を燃やさずに縛り上げるんだよ?
常識的にありえない。
フィデルはそこで満足なんかしていないけど
そもそも俺には、その発想はなかった……。
もしかすると発想の違いなのかな?
あまり深く考えたことなかったけれど
『この物質はこうあるべき!』とか思い込んでると
魔法って、何故だかうまく操れない。
自由な発想で、『こうしたい!』『こうなりたい』
とか、好き勝手に考えていた方が
上手く操れたりするから不思議なんだよね……。
魔法ってさ、思っていた以上に自由自在な
存在なのかも知れない。
魔法と言う存在自体は、まだまだ未知なる存在で
知られていないことがたくさんあるんだ。
だからこそみんな、それとなく試行錯誤しながら
魔力というものがいったいなんなのか、調べてる。
かく言う俺も、一応は実験しながら調べては
いるんだよ?
そもそも俺は、深窓の侯爵令嬢とすら言われているから、
領地の外には簡単には出られない。
だからフィデルと違って、暇な時間はたっぷりあったから
研究なんてし放題だったんだ。
自由は限られていたけれど、その点は
ちょっとお得だよね。
だから俺は俺なりに
水をどう操ればいいのか……操れるのかを
実験しながら過ごすことが多かった。
……で、その実験の残骸が
このゾフィアルノ侯爵家敷地内にある。
確かに操り方も、気にはなるんだけれど
前世の日本ってさ、災害大国だったじゃない?
ついついそっち方面に考えちゃうんだよね。
水を操れるとさ。
万が一に備えて、水がどこまで保存できるのか。
そしてそれは、飲み水として通用するのか。
はたまたそれは凝縮できるのか。
そしてそれが出来たとして、
素早く元の『水』に戻せるのか……なんて、
そんな事を調べてた。
保存の仕方は『氷』。
固定観念って怖いよな。
安全に保存……って言ったら、凍らせる事しか
思い浮かばなかったから、俺は
ひたすら氷作ってたんだ。
そしたらさ、フィデルが言うんだ。
『なぜ、水そのものを保存しないの?』ってさ。
そう聞かれて、俺は絶句したよね。
そうか、これが固定観念なんだって。
自由な発想を心掛けていたつもりだったんだけど
やっぱり今まで生きてきた中での知識って
体に染み付いてるんだなって……。
腐らせないように、当たり前のように氷にしたんだけど
そのままの『水』で良かったんだ……って。
でもまあ、狙っていた物は問題なく作れたから
それはそれで良しとしよう。
おかげで俺は常温でも溶けずに、氷の状態を
保てる魔法を編み出した。
コレはかなり凄いよね?(自画自賛)
だって水が腐らないし、その氷は溶けないんだもん。
夏場、かなり重宝する。
俺はそこから、氷のキューブをいくつも作って
どこまで鮮度を保てるのか
いくつ水のキューブが作れるのか
そしてそれはどれくらい氷でいられるのか
を今もまだ探っている。
今のところ、その限界は見えなくって
氷のキューブは驚く程に増えちゃったけどね。
さすがに、そこここに置いておく……というわけにも
いかなくてさ、敷地内の少し奥まった一角に
それはきちんと重ねて置いたんだ。
一番大きな川が流れるその源流近くに、
何もかもが真っ白の、見た目的には
寒々とした『氷の城』と呼ばれるその巨大な城。
その城が俺の『実験』の残骸。
すっごい綺麗なんだ。
朝日に照らされるとキラキラ輝いて、
まるで宝石のようだと絶賛されている。
考えてみれば凄いよね。
コツコツやるってさ。
だって『城』が出来ちゃったんだよ?
めちゃくちゃでっかい城。
初めはたった1つの小さなキューブだったのに……。
ちなみにこれは
ゾフィアルノ侯爵領だけでなく
皇宮と神殿にもいくつか置いていて、
万が一、災害が起こった時には俺が魔法解除すれば
いつでも使えるようにしてあるんだ。
へへ。なかなかすごいでしょ?
ちなみに、城の形に組み上げたのは俺じゃない。
俺はただ、ゴロゴロとキューブを
転がしていただけなんだけど
それを面白がって見ていた建築家が勝手に
そのキューブを使って、城に造り上げてしまった。
まさか、あれが城になるとかね?
ちっぽけだった氷のキューブが
あんなにも大きな城になるんだから、日々の積み重ねは
バカに出来ない。
まあ、理由はどうであれ
あれだけの水が備蓄してあるんだから、
ここヴァルキルア帝国内で災害が起こっても
それなりに持ちこたえるって思う。うん。絶対。
……ま、それは結局のところ結果論で
俺の目的は備蓄じゃない。
いつの日かこの俺も、『達人』の域に
少しでも踏み込めたらいいな……なんて
思っているからなんだ。
だってさ、憧れるよねよね? 達人ってさ。
魔法で、なんでも出来るんだぜ?
達人の域に達すると、魔法のコツ……みたいなものが
掴めるみたいで、それこそ自由になんでも出来る。
けれどそんな人は稀で、いわゆる
『賢者』っていう部類に入る。
ちなみに俺は、そんな『賢者』なる人物には
出会ったことがない。
存在は、するみたいなんだけどね?
だけど、令嬢として過ごす俺には
そんな出会いがやって来るはずもない。
フィデルはどうだろう?
もしかしたら、出会ったことがあるかも知れない。
賢者って、どんな人たちなんだろう?
仙人みたいに白い髭の生えた老人なのかな?
もしかしたら、うんと若い人だったりして……?
会ったことがないから、どんな人なのか
想像することしか出来ない。でも夢だよね。
1度でいいから、会ってみたいなぁ……。
賢者って言うのは、それほど希少な存在なんだ。
簡単に出会えるものでもないし、
訓練したからって、誰でもなれるものでもない。
自分がなる……のは限りなくハードル高いけど、
出会う事なら可能かも知れない。
でもそれだって、運がなければであえない。だから
出会えることが出来れば、それだけでも
立派な自慢話になる。
でもさぁ、そもそもこの国にその『賢者』が
いたとしたらさ、きっと陛下が黙っていない。
絶対、皇宮に呼ぶと思うんだよね。
だって陛下、そういう目新しいものが
大好きだし、しかも耳が早いから
誰よりも早く情報を掴んで、会いに行けるはずだしね?
だったら、毎日皇宮に出入りするフィデルなら
家から出れない俺よりも、きっと賢者に出会える
機会は多いはずなんだ。
でもそんな話は、一度もしていなかった。
もしかしたら賢者なる人物は
今はいないのかも知れない。
……会ってみたかったんだけどなー。
それくらい、賢者って言う存在は珍しい。
そもそも魔法は、基本持って生まれた
『属性』の魔法しか使えない。
それが一番馴染むし、使いやすい。
使える可能性のある2属性の魔法……とは言っても
それも持って生まれた魔法の属性との相性が悪ければ
どんなに頑張ったところで、凡人には
一生操れない代物になる。
少しづつ属性を増やしていけば、
最終的には全部の属性魔法が
使えるようになるのかも知れないけれど、
それっていったい、何年必要なんだろ?
きっと気の遠くなるような月日が
必要なんじゃないかなって思う。
それほど生まれ持った魔法ってのは重要で、
どんな属性を新たに手に入れられるかは、
その魔法の『馴染みやすさ』に左右されてしまう。
俺はいわゆる転生者ってやつで、実はほら……
少しは期待したんだよ?
チートスキルってヤツ?
前世の小説とかマンガとかだったら
当然のように転生者にはチートスキルがあるだろ?
そこから考えるとさ、
当然俺にだってチートスキルがあっても
不思議じゃないって思ってたんだ。
だけど、どんなに頑張っても何をしても
それらしい力は見当たらない。
出来たのは『氷』と『スチーム』だけ。
残念なことに、俺にはチート機能なんてものは
一切発揮されなかった。
思い当たるチート機能って言えば
夢で前世を見るくらい?
食べたいなーって思うお菓子のレシピが分からなくて
ある日泣き寝入りしたら夢でレシピを知ることが出来て
現世で作れたっていう、アレね。
「……」
でもアレって、チートスキルの部類に
入れちゃってもいいのかな?
そんなのここでは、なんの役にもならない。
フィデルとかラディリアスとか、メリサが喜ぶくらい?
……ホント、とことん残念なやつだよね。俺ってば。
だけどね、恵まれた環境に
生まれ変われたとは思うんだ。
両親もフィデルも優しいし、
武を重んじる家門にしては
ギスギスした感じはなくて、むしろ家庭的。
みんな気さくで良い奴ばかり。
身分も申し分なくて、食べるのに困る……と
いうこともない。
欲しいものはすぐに手に入るし、ワガママし放題だ。
「……ヒック」
……まぁ、だからって、それに あぐらかいて
生活しようとか、俺は思っていないよ?
俺はやっぱり、それなりの制約はあったとしても
みんなと仲良く平和に暮らしていきたいなって
思ってる。
……前世とは全く違う、全然別の今の世界。
今世では、弱い者は簡単に強い者に喰われてしまう。
例えば俺が『お前は生意気だ!』とか何とか言って
メリサを斬ってしまっても、罪には問われない。
罪に問われるどころか、メリサの家族はきっと
メリサがしてしまった事に謝罪に来る。
被害者家族が謝罪……とか有り得ないよね?
……でもそれがまかり通るのが、この現世。
俺を訴える……なんてことは頭の奥底でも
思いつきやしないに違いない。
そんな理不尽な仕組みになっている。
「……はぁ」
……俺は小さく溜め息を吐く。
全く理不尽だよね、この世界。
だからこそ俺は……、俺はそんな事しないって
心に決めている。
たとえ相手の身分が低くても、弱い立場の人たちでも
自分の損得なしに、支えていけたらなって
思うんだ。
他の誰でもない、自分だけは公正でいようって。
だけどその考え方は、ここでは全く通用しない。
身分がものを言う。
力こそ全て。
搾取される側はとことん吸い上げられ
富める者はとことん上を目指す。
そして悲しいことに、この世界には
やっぱりいるんだよね、相手よりも
自分重視って奴がさ。
自分の利益のために相手を蹴落とし
罪悪感の欠片すらも感じない。……そんな人間。
俺はそんな人間にはなりたくない。
時代や世界は違っても、やっぱりそれは
間違っていると思うから、できる限り
みんなで助け合って生きたいと思う。
運良くこの身分に生まれ、魔力だって
人一倍多い俺は、弱い立場の人たちや困っている人を
助けられる存在だと思うんだ。
だから、力になってあげたいって思うんだ。
「……」
でもね、たまに思う。
これって単なる『偽善』なのかなって。
……ただ単に偉そうなこと、言ってるだけだろって。
だって、全員は救えない。
俺の目に映る、ほんのひと握り。
……ううん。きっとその対象は、フィデルやメリサ、
結局は身近な人たちしか救えないんだ。
確かに、理想にはしてるんだよ? こうなりたいって。
でも、そこに近づけているのかなんて
正直分からない。
俺は侯爵令嬢として外には出られないし、
世間の様子なんて、ほとんど見たことがない。
そんな俺の思っていることなんて、
金持ちの道楽のひとつにしか
見えないかも知れない。
だってこれって、父上の力……ゾフィアルが
あるからこそできる事なんだから。
「……ヒック」
水を氷にして保存する?
生活に追われて、頑張って働いている人たちにとって
そんな暇なんてないよね?
その時点で、確実にこれは『道楽』なんだよな……。
ましてや平民だと、魔法の実験をする魔力すらない。
これは俺の力じゃなくて、
ゾフィアルノ侯爵家の力のなせる技なんだって、
いつもそこにたどり着く。
この家に生まれたからこそ、出来ることなんだって。
「…………」
俺にはチート機能はなかったけれど、
この身分はありがたいことに生まれながら持っていた。
高位貴族に生まれることが出来たから
幸いにも魔力量も多い。
俺自身がとりわけて優れているわけじゃないけれど
使える力は大いに活用しようって思うんだ。
みんながみんな、心安らかに過ごせたら
この世はもっともっと
平和で過ごしやすい世界になれるんじゃないかって。
その手助けが出来る地位に自分はいる。
だったら、それだけでも誇るべきだって思う。
だから俺は、俺に出来る手助けがしたい。
ちっぽけな俺の見える範囲の世界だけど、
だけど!
そう出来るように──
「……ヒック」
俺はそっと顔を上げる。
涼やかな朝の空気が、風に運ばれて
メリサが開けた窓から優しく吹き抜けた。
俺は軽く目をつぶり、
その風を体いっぱい吸い込んだ。
清々しい風が、俺の前髪を優しく撫でる。
「……」
だから……だからあの時
……あの時俺は、許せなかったんだ。
何もせず、自分は安全圏にいて、
ただただ傍観していたあの時のフィデル。
フィデルが、自分の地位にあぐらかいて
ふんぞり返っているような、そんな
ワガママなヤツに見えてしまったから……。
だからショックだった。
「……ヒック」
いつもは優しいフィデル。
双子の兄のフィデルなら、自分より
弱い立場の人たちを気遣い、助けてくれる……
そんなヤツだって思ってた。
当然、そうなんだって。
だからさ、仮にもだよ? そのフィデルが
殿下の魔力の質を知っていたとしても、
自分は『関わり合いはありません』って顔をして
傍観してる……とかさ、
そんなの ありえないって、思ってしまったんだ。
「……」
だって殿下は殿下。
フィデルはフィデル。
そう割り切って助けに行くのが
フィデルらしいって思ったから──。
「……ヒック」
……らしい?
『らしい』ってなんだ?
でもそれって、俺の勝手な思い込みだよな……?
「……」
そう思うと悲しくなる。
フィデルは産まれた時から、俺と一緒だった。
遊びもイタズラも、勉強だって一緒にした。
小さい頃は一緒に寝ていたし
風呂にだって一緒に入った。
夜中急に悲しくなって、
2人で抱き合って眠った事だってある。
そんなフィデルだったから、想いも一緒だって
勘違いしてた。
フィデルは自分の片割れ、分身だ……なんて。
だけど、そんなハズない。
フィデルはフィデルで、俺は俺。
双子で顔は似てても、
別の人間……。
……そりゃそうだよね?
俺にだってムシャクシャする時がある。
フィデルだってそんな時くらいあるはずだ。
何かに当たり散らしたくなって、どうしようもない事。
あの時のフィデルは、
そんな気分だったのかも知れない。
あの日は、俺とラディリアスとの
婚約破棄の発表の日。
当事者の俺だって、普通の状態じゃなかったんだ。
フィデルだったのなら尚のこと。
常に善人であって欲しい……なんてさ
そもそも俺のワガママなんだよね……。
人には その時その時で心が変わる。
結局のところ、そんな色んな奴がいるからこそ
この世は面白いのかも知れない。
いつもワガママな奴がいて
時々優しくなったりして
それからその反対のヤツもいて
人に無関心だったり過関心だったり。
どんな人間が正しいなんて、そんなのない。
色んな人がいて、共感したり
反発したりするから面白いんだ。
「……」
……あの時から俺はずっと
自分にそう言い聞かせてきた。
……ただそれでも、少し悲しくはあったんだ。
ずっとずっと憧れていたフィデル。
俺が持ちえないモノを
生まれながらに持っていたフィデル。
だからそんなフィデルには、寸分の狂いもなく
尊敬できる『兄』でいて欲しいって、そう思った。
だけどそれはやっぱりそれは、俺の『ワガママ』だ。
俺の理想をフィデルに押し付けるとか
いい迷惑だよね?
全く俺ってば、いったい何考えていたんだろう?
フィデルはフィデル。俺は俺。
ちゃんと分けて考えなくっちゃ。
そう思うと少し可笑しくなって
俺は小さく フフッと笑う。
ホント、なんて身勝手なんだろうね、俺ってさ。
なんの力もないくせに、ね──。
そう。
俺とフィデルは全くの別人。
だったらさ、いつか絶対フィデルを追い越して
見返してやるんだ。
超えられない『兄』じゃなくて、
俺のライバルとしての『フィデル』。
──そう思った。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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