涙を掬う、あたたかい手。
「……はぁ」
俺は静かに溜め息をつく。
とにかく、どういった事情があるにせよ
結果的に俺たちゾフィアルノ侯爵家には
『キズ』がついてしまった。
皇帝の命である婚約を
破棄するっていう事はそういう事で、
どう足掻いても、その事実からは逃れられない。
「……」
不義の噂をたてた娘と、
そのことについての一切の弁明を拒否した息子。
そんな子ども達がいるゾフィアルノ侯爵家って
今後いったいどうなるんだろ?
ついでに言うとあの時、ラディリアスの様子も
相当におかしかった。
陛下が婚約破棄の理由を尋ねられた時
ひどく動揺していた上に
『功績をあげていないから』……なんて
わけの分からない事を言ってしまっている。
失笑を買う……ほどでは
なかったかも知れないけれど、あれはどう見ても
不義を働いた婚約者を庇う
哀れな男にしか見えなかった。
この分じゃ俺って、皇太子を惑わす悪女……
みたいに言われちゃうんじゃないのかな……?
「……ふっ、」
思わず笑いが漏れた。
いやいやだからって、どうしろって言うんだよ?
だってもう、 しょうがないだろ?
俺って男なんだから。
皇太子妃なんて どう転んだって、なれやしない。
そんな俺がまさかの『悪女』?
男なのに?
男惑わしてどうすんの!?
……まさかのこの俺が
悪女とまで言われるくらい
『女』を極めちゃうとかね?
めちゃくちゃ笑えるだろ?
「……」
俺は苦笑いしながら、窓の外を見る。
もう……皇宮は見えない。
馬車は、カラカラと心地よい音を立てながら
大通りを曲がって行く。
この通りを曲がってしまえば、後は一本道。
俺たちの住む侯爵領はもうすぐだ。
そうなると辺りは急に静かになる。
ゾフィアルノ侯爵邸は帝都から少し外れた
比較的閑静な市外地にある。
周りには、緑豊かな草原が広がり
どちらかと言うと田舎町のような
そんな趣だ。
何を思ったのか俺たちのご先祖さまは
侯爵領の近辺に
高い建物や木々を植えることを
良しとしなかった。
だから比較的見通しは良くて、
一見すると侯爵領は丸裸なようにも見える。
実際 侯爵領は、
少し小高くなった丘の上に建てられているしね?
侯爵領……と言っても別に侯爵邸だけが
建っているわけじゃない。
主要な農地や市民の住居も当然
兼ね備えていて、敷地としてはかなり広い。
日本で言う、1つの『市』が丸ごと
入ってるような
そんな感じなんじゃないかなって思う。
そんな広大な敷地には、
城壁と言うにはちょっと物足りない感じの
低めの外壁に囲まれ、
農地、兵の宿舎、市街地、それから侯爵邸が
まるで棚田のように軒を連ねている。
しかもその段差には、低めの煉瓦塀と、
逆茂木の代わりに
秋になると赤く可愛らしい実をつける
常緑低木のピラカンサや柊を
植えている。
そしてその裏手には、険しい崖がそびえ立ち
見るものが見れば天然の要塞のようにも見える。
……うん。
まあ、あれは実際『要塞』なんだけどね。
侯爵領の周りの土地も
正確に言えば侯爵領に含まれる。
それを敢えて何も無い草原にし、
見晴らしをよくする。
たとえ『敵』が
侯爵領を攻めてきたとしても、
隠れるものは何1つとしてない。
丸裸なのは侯爵領ではなくて、
訪れる客の方なんだ。
そして、その侯爵領の裏手には
巨大な崖がそびえ立つ。
『く』の字に曲がった
その切り立った崖に沿って侯爵領も横に細長い。
要所要所に置かれた砦には弓兵用の横穴があって、
敵がくれば、そこから一斉射撃を受ける。
死角なんてない。
──らしい。
実際に使ったことないから、それが本当なのかは
知らない。
ゾフィアルノを攻め落とそうと思う人間なんて
今まで見たことがない。
けれど軍事に長けたゾフィアルノの関係者が
そう言うんだから、そうなんだろうと思う。
こうなれば、攻めいる方も
それなりの覚悟を決めて、攻めいらなければ
到底落とすことの出来ない難攻不落の城。
しかも統率の取れたゾフィアルノ兵に
勝てる家門なんて存在しない。
ゾフィアルノ侯爵家に代々受け継がれる
軍略法の文書が存在する。
その中には、ゾフィアルノ侯爵家の歴史や
この『崖』の使い方も記されている。
『崖』は天然のモノではなくて、どうやら
ご先祖さまたちが造ったものらしい。
……崖、造っちゃうとか。
いったいどういう神経してんだろうね?
ちょっと眉唾ものの話なんだけど、
けれどそれは事実のようで、実際この崖には、
隠された通路が無数に存在する。
いわゆる『逃げ道』。
実際その道が、逃げ道として
作られた物なのかどうかは
定かではないけれど、中は迷路のように
複雑に入り組んでいる。慣れた者でなければ
けして通り抜けることは不可能だ。
真っ暗闇の迷路……誰だって、心くじかれる。
見知らぬ者にとっては、魔物の腹の中。
慣れた者には……けれど心強い存在でもある。
例え屋敷を包囲されたとしても、
時間稼ぎさえ出来ればこの崖を通り
余裕で逃げられる。
逃げた先……つまり崖の向こうは
海になっていて、その先は
例の宵闇国へと繋がっている。
宵闇国は
言わずと知れた親戚筋だ。
小国ではあるけれど、その実力は
もしかしたら このヴァルキルア帝国ですら
凌駕するかも知れない。
ん?
『そんな通路、よく皇帝陛下が許したな?』
だって?
ふふ、そりゃ許すよ?
だってここは、もともと宵闇国への
侵略の為の拠点だったんだから。
そもそもここをゾフィアルノ侯爵領にしたのが
時の皇帝陛下その人だったんだ。
昔の人は、宵闇国を
我がものにしようと、どの国も躍起になった。
氷におおわれた未開の地。
けれど極寒の地と忌み嫌われたその国は、
何故か実り豊かな桃源郷。
海に囲まれた、その小さな島国は
幸か不幸かこのヴァルキルア帝国の
この港から行く道が一番の近道で、
そしてこの国で一番の武力を誇っていたのが
俺たちの家門……
ゾフィアルノ侯爵家だったってわけ。
だから時の皇帝は、ゾフィアルノ侯爵家を
ここの守りとしたんだ。
あわよくば、宵闇を手に入れようとした。
……まあ、結果は惨敗だったんだけどね。
何故なのか、
宵闇国は落ちなかった。
ゾフィアルノ侯爵家の力を持ってしても
ヴァルキルア帝国の財力を結集しても、
宵闇国は落ちるどころか
逆にこっちへ攻め入ろうとしたんだ。
だから『崖』を築いた。
初めに造られた『崖』は、ゾフィアルノ侯爵家の
逃げ道なんかじゃなくって、
外海から攻め入る宵闇からの
脅威を防ぐ、『盾』の役割を果たしていたんだ。
その脅威から帝国を守るのが
ゾフィアルノ侯爵家の仕事だったんだけど、
両国の関係は、年を経るごとに良くなってきて
遂にゾフィアルノ侯爵家は、大使として
宵闇国を訪問するまでになった。
その一陣が俺のじいちゃんだったってわけ。
どういう巡り合わせか知らないけれど、
ひょんなことから第八王女だった ばあちゃんを
時の大使だったウチのじいちゃんが
助ける事になってしまって、そこから2人は
めでたくゴールイン。
うちの親父が産まれたってわけ。
だからその頃からこの『崖』は、
宵闇国からヴァルキルア帝国を守る
要塞から一変して、何か国内であった時
宵闇国へ逃げるための逃亡壁と
姿を変えた。
愛妻家で有名だった じいちゃんの
集大成とでも言うべきモノだろうか?
真っ暗闇の通路なのに、
ばあちゃんの名前を取ってステラロード……
星の道って言うんだから、呆れてしまう。
……でもまぁ、長い歴史の中を見ても
要塞としても、逃亡のためだとしても
どちらも使ったことなんて一度もないから
本当に機能するのかは分からない。
確かに、何かの演習の時とか
武力鍛錬の際には中に入ったりもするけれど、
真っ暗闇の中、迷路じみた洞窟の中を
追手に追われながら死に物狂いで走り抜ける……
なんて、是非とも遠慮願いたい。
いくら自分たちの身を守る為とは言っても
慣れていないと……いや、慣れていても気が
おかしくなりそうな抜け道なんだ。
……まぁ それを思うと、
身体や精神能力を高めるのには
もってこいの場所ではあるとは思うんだけどね……。
「……」
閑散とした道を進みながら、俺は考える。
結局、今回はその『崖』のお世話には
ならなくて済むみたいだから
少しホッとする。
まあ、逃げ道は他にあるけれどね。
アレはできるだけ使わない方が得策……。
けれどそれが良かったのか……と考えてみれば
やっぱりそれは、よく分からない。
心のモヤモヤは、何故か晴れない。
「……」
真っ暗闇のゾフィアルノ侯爵家方面と違って
皇宮のある方角は光り輝いて見えた。
お祭りの明かりだろうか?
時折、花火が打ち上がるのが小さく見える。
何が正しかったのか、正しくなかったのか。
いやそれよりも、もっと別のいい方法が
あったんじゃないかって、
全てが終わった今になって、考える。
それがちょっと滑稽でもある。
だってもう、済んでしまった事なのに。
今更考えても悩んでも、
もう、どうしょうもないじゃないか……。
「……」
……だけど、どうしても考えてしまう。
しょうがないとは言うけれど
やっぱり気になるんだ。
俺は結果的に、ゾフィアルノ侯爵家を
貶めてしまったんだから。
その事実は変わらない。
あぁするより他なかったんだって、思いはする。
だけど、本当にこれで良かったのか……?
悔やんでも、もう時間は戻らない。
最善の道ってなんだろう?
……そんなのって見えないだろ?
ハッキリそれと分かるわけじゃない。
今立っている場所が正しい場所なのか
それとも間違っているのか……そんなの
誰も指摘してくれやしないし
自分にだって分からない。
どうかすると、神さまにだって
分からない事なのかもしれない……。
だけど思う。
本当なら、こんなまどろっこしいことなんて
しなくて良かったんじゃないかって。
俺が当たり前のように、男として育っていたら
歩かなくてもいい道だったんじゃないかって
そう思うんだ。
そもそも俺には『権力』なんてものには
全く興味がない。
家を継ぎたい……なんて、これっぽっちも
思っていなかったんだから──。
双子……しかも両方とも男だと、
継承争いで家が乱れる……。
両親は、それを危ぶんだ。
……いや、事はもっと複雑だったけれど
大きく言えば、そんなところ。
そんな理由で、俺は『女』として
今まで生きてきた。
だけどね、貴族社会に
どっぷり浸かってしまうような
そんな家なんだよ? ゾフィアルノ侯爵家って。
ハッキリ言って、俺は
そんなモノはいらない。そんなの
望んでなんかいやしなかった。
富? 名声?
そんなモノがあってどうするんだ?
例えこの世の全てを手に入れたとしても
それが幸せだとは限らない。
前世での俺は、ただの一般市民で、
金持ちでもなかったし
頭がいいというわけでもなく……むしろ
成績は悪くて、テストの順位なんて散々だった。
けど、それはそれで楽しかったし、幸せだった……。
休みの日にはゲームしたり
友だちと近くの川に釣りに行ったり。
カラオケで喉がガラガラになるまで歌ったり
踊ったりもした。
彼女……は、残念ながらいなくて
でも好きな人はいて
それなりに何人かいた友だちとバカやって
笑って遊んで……なんでもなかったそんな
ただの日常が、今はとても懐かしくて
あったかくて、それからとても……
遠い──。
転生したこの世界での俺は
隠れ暮らしていたせいもあってか
友だちらしい友だちも作れなかった。
ましてやこのナリで『彼女』なんて
出来るわけもない。
屋敷の奥深くで
フィデルと鍛錬したり、
勉学に励んだり……?
面白いことはそれなりにあったけれど
ふと気づけばカゴの中の鳥。
まぁ、気づかなければ良かったんだけどね……。
でも気づいてしまったからには、
それが息苦しくて堪らない。
──時代が時代だから……?
そう、言い聞かせようともした。
……でも違う、そうじゃない。
多分。
多分……この身分のせいだ。
この高い身分は、贅沢を許してくれた。
けれどその分、大切な何かを奪っていく……。
俺たちに近づこうとするのは
たいてい権力目当ての野心家ばかりだったし
常識的な人間は近づこうともしない。
友だちになろうと、ただそう思っただけなのに
その裏で小さな政治が蠢いているのを感じた。
おべっかを使い、甘い言葉でたぶらかす。
信じて傍にいれば
手痛い裏切りに会う……そんな世界だ。
そんな世界で死ぬまで生きていく?
冗談じゃない。
俺は絶対に、この貴族社会から抜け出し
自由を掴み取るんだ!
だからさ。俺としてはね、例えばあの屋敷の中で
1人籠って過ごすことになったとしても
それはそれで、全然平気だったんだよ?
これホント。嘘じゃない。
相続争いなんてものに
参加するつもりもなかったし、
政治の表舞台に出ようとか国を動かそうとか、
そんな大それた野心なんか
全く持っていないんだ。
いっそ下男として、そのまま屋敷に
閉じ込めてくれても良かった。
だって俺には、前世の記憶がある。
だからさ、基本的な家事は出来るし
それをする事が苦痛だ……なんて思わない。
身の丈にあった生活。
そんな些細な幸せが俺は欲しいんだ。
名前も知らない人の命までも
その身に背負わなければならないような
そんな重い立場に追い込まれるくらいなら、
いっそどこぞの町にでも、捨ててくれればいいなって
……極端な話、そんな風にも思った事もあった。
そもそも俺は、女の子じゃない……。
初めの頃は違和感なんかなかった。
けれど だんだん成長するに従って
貴族社会での女性の位置が疎ましく思えて
ひどく微妙なところに立っているんだなって
気づいてくる。
女ってさ、ほとんど自由が効かないんだよね。
『か弱いから、女性は守らねば』──
なんて言うけどさ、
……そんなのって、所詮
男の体のいい言い訳なんだよね。
女性がそれを求めているかってのは、
また別の話。
すれ違う想い……。
ふふ……。それってさ、可笑しいよね?
『守る』ってのも
度を越せば余裕で『束縛』となる。
……それを痛いほどに、味わった。
前世での記憶がなまじあるものだから
その事実が今の状況を受け入れ難くもしていた。
何も知らなければ、違和感なんて
なかったのかも知れない。
けれど前世で、男として生きた記憶がある俺は
成長する度に、女の姿で生きていくことに
妙なところで嫌悪感を抱く。
体の成長も相まって、焦燥感すらある。
でもこれは、自分だけの問題じゃない。
秘密をバラせば、何が起こるか分からない……!
屋敷の誰かが路頭に迷うかも知れない。
いいや、それどころか罪人として
殺されるかも知れない。
下手をすれば、奴隷のような生活を
一生強いられる可能性だってある。
──そんな重圧が、俺の肩に重くのしかかる。
あぁ、早く自由になりたい──。
限られた空間の中で、好き勝手なことの出来る
この異世界の貴族という位置づけは
そりゃ美味しいよ?
でもそれはあくまで『自由』であった場合のみ。
自分を偽って生きなければならない
この状況だと、話は変わる。
ましてや現代日本のように、
性差がなくなりつつある社会とは全く違う。
社会的地位の重圧がある上に
皇族の婚約者として縛られるのなんて
俺には絶対無理だ──!
「前世は、良かったなぁ……」
溜め息を吐きながら、俺は思わず呟いた。
「え。…… フィリシア? どうかした?」
フィデルの声に、俺はハッとする。
……また、意識が飛んでた……。
俺は軽く頭を振る。
「い、いいえ、お兄さま。なんでも、ない……の」
「……」
女のような喋り方に仕草。
それから少し声を高くして、
そう小さく言ってから、俺は目を閉じる。
不覚にも泣きそうになった。
どうしよう……どうしたらいい? この気持ち。
もう、抑えるのは難しい。
今まで堪えていたものが、
ボロボロに溢れ出してしまいそうで
すごく、すごく……怖い。
あぁ……凄く、ものすごく……疲れた。
もう、なにも考えたく……な……。
「……フィア?……眠った、の……?」
フィデルの声が聞こえた。
少し、低い声。と、それから
ホッとしたような甘い溜め息。
返事をしようとはしたけれど、
……言葉にはならなかった。
思っていた以上に俺は疲れていて、
目を閉じれば そのまますぐに夢の中。
あらがい難いほどの睡魔に襲われて
不覚にも俺はフィデルに もたれかかる。
あぁ、なんて無作法なのかしら?
けれど抗えない。
まあいっか、今日くらい。
男の『六月』でいても……さ。
そう思ってフィデルにもたれかかると
柔らかく優しい香りがした。
その香りに、俺の体の力が一気に抜ける。
……いい、匂い──?
だけどこれ、……なんの香りだろ?
香水……かな?
それとはちょっと、違…………
「フィア……」
安堵の溜め息にも似た
フィデルの優しい囁きが聞こえたのを最後に
俺は夢の世界へと沈んでいった。
夢の中で俺は、時々前世へと戻った。
そこで俺は夢だったパティシエになっていて
ケーキを作っている。
……実際、パティシエにはなれなかったんだけどね。
なる前に俺は死んでしまったから。
けれど夢の中でくらい
好きなことに夢中になっても良いだろう?
だから自宅へ戻る馬車の中で
俺は大好きなお菓子を作る。
夢の中で──
でも……俺って、なんで
パティシエになりたかったんだっけ?
「……ん」
そんなどうでもいい事を、ぼんやり考える。
あぁ、そう。
そうだった。
大好きな母さんが、俺がケーキを食べると
嬉しそうな顔をして微笑んでくれたからだ。
だから俺も、何かを作ってみたくなったんだ。
甘くてフワフワで、美味しいケーキ。
食べた人だけでなくて、見るだけで
人を幸せにさせる、そんな可愛いお菓子。
そんな事を言ってしまうと、ちょっとマザコンっぽい?
ふふ。ラディリアスみたい。
愛称を母親にしか許さないっていうアレと一緒?
ううん。だけど俺のはちょっと違う。
だってさ、母さんのその笑顔に喜んだ俺は
まだちっちゃな子どもで
そのあと試しに作ってみたのは
ただのパンケーキ。
中は生焼けで すごくぐちゃぐちゃだったのに
母さんは『美味しい』って食べてくれたんだ。
……ふふ、後でお腹壊しちゃったんだけどね。
だけど六月のせいじゃないのよって
言って慰めてくれた。
結果はアレだったけれど、
母さんが喜んでくれたそのことが
すごくすごく嬉しくて、ちょっと誇らしかった。
そんなみんなを嬉しくさせるような
そんなお菓子をたくさん作りたくて、
俺はパティシエを目指した。
……結局、なれなかったけれど。
結局、悲しませてしまったんだろうな。
母さんも。父さんも。
それから、姉ちゃんも──。
……俺は突然、死んでしまったから。
ごめん。
……ごめんなさい……。
──『……フィア』
「……」
遠くで誰かが、俺を呼んだ。
ひどく……優しい、声。
優しく髪を撫でる、大きな手。
俺は少し涙ぐみながら、眠りにつく。
ポロリと涙が頬を伝った。
そしてそれを誰かが、
そっと掬ってくれる。
それはとても暖かで
母さんの手みたいだなって、俺は思った……。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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