表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/72

揺れ動く、心。

 そもそもの事の発端は、ラディリアスさまのお父さま

 ……現、ヴァルキルア帝国の皇帝ラサロ陛下の

 気まぐれなお達しから始まりました。

 

 ラサロ皇帝陛下は、とても威厳のあるお方です。

 ここバルキルア帝国は、海を背にし、6つの国に囲まれ

 地理的には、とても不安定な場所にあります。


 けれど、このラサロ皇帝陛下の手腕によって、諸外国

 との戦争を回避し、多くの災害から民を守ってきた……

 そんな実績があるのです。


 陛下がいるからこそ、帝国に住む人々は、平和に暮らす

 ことができる。

 国民は、心の底からそう思っていて、それを信じて疑わない。

 

 ……何がすごいって。

 情報を察知するその『速さ』!!

 

 

 どんな小さな事柄でも

 このラサロ皇帝の()からは、逃れられない。

 何故なのか、いつの間にか情報を掴んでおられ

 静かに……誰にも気づかれないように問題解決に向けて

 行動なされるのが、このラサロ陛下なのです。


 たいていの権力者は何かにつけ、大袈裟に人を

 動かそうとしますけれど、こラサロ陛下の場合は

 違います。


 その動かし方が最小限かつ迅速で、事件の噂が

 周りに広まると同時に、たいていその問題は

 解決しかかっている……そんな感じなのです。


 ……まあ、それが一番の得策ではありますよね?

 だって『今から動くぞー』なんて素振りを見せて

 しまったのなら、わたくしでなくとも当然逃げますし、

 対策だって立てられますもの。

 捕らえようと思っている人物が、隠れていれば

 隠れているほど、こちらもまた、静かな隠密行動が

 求められるものなのです。



 けれど、いつ何処で、どういう風にして、ラサロ陛下は

 情報を察知するのでしょう?


 噂によると『影』と呼ばれる隠密専門の部隊があって

 その『影』が、帝国のあちらこちらに、配属されて

 いるのだとか。


 けれど……そんなことを言われると、少しゾッと

 しますよね?

 だってわたくし達は、何気なく自分たちの生活を

 送っているだけですのに、その生活の全てを、陛下に

 覗き見られている(・・・・・・・・)という事になりますもの。

 

『影』の存在は、あくまで噂……では、ありますけれど、

 かく言うわたくし達ゾフィアルノでも、それなりの

『影』は存在するので、真実味は高い。


 確かに、ゾフィアルノでも『影』はいますが、

 対象者は限られていますし、頻繁には動いてはいません。

 けれど陛下のソレ(・・)は、常日頃誰彼となく

 覗かれていなければ、とても対応出来ないような、

 そんな情報だったりもするのです。


 確かに、その『影』が本当に存在するかどうかは

 分かりません。けれどけれどその可能性は

 無きにしも非ず。となると、対策を講じなければ

 なりません。だってゾフィアルノには、秘密(・・)

 ありますもの。


 いいえ……高位の貴族ともなれば、秘密の1つや2つは

 あるはずなのです。

 ですから、我がゾフィアルノ家のみならず、他の貴族家門

 では、屋敷全部に、強力な防護璧を施すのが

 慣例となりました。


 ……良いのか悪いのか。


 別に陛下のことを、信じていないわけでは

 ないのですよ? そもそもこの防護壁魔法の強さで、

 家門同士の力の均衡も、容易に見て取れると陛下からも

 好評なのですもの。


 …………いえ、そもそも各家門の防護壁の強さを

 ご存知であることが、『影』の存在を深く刻み

 つけてしまった……ともいうけれど……。



 まぁ、でもなんにせよ、嫌じゃないですか。

 覗かれるのなんて。

 確かにウチの防護壁は明らかに『対陛下』では

 ありますけれど、でもそれがあるお陰で

 たいていの魔力は(はじ)け飛びますから、

 ほかの派閥が悪さをしようと試みても、余裕で守り

 抜いてくれるという訳なのです。


 それはそれで有難い。

 ましてやわたくしは、誰にも知られるわけのいかない

『秘密』を抱えていますしね──?




 ──そう。秘密(・・)




 それがあるから、

    わたくしは陛下が恐ろしい。

 



 様々な情報を得た陛下は、その後の対処も万全。

 全てを準備し、罠をかけ、そこに獲物が来るのを

 待ち構える。

 あの独特の含み笑いをもって、余裕の(てい)

 見せつける。けれど決して、逃しはしない……。


 わたくしが長年、陛下を見続けてやっと気づいた、

 陛下のクセ(・・)


「……」




 わたくしの家門にも『秘密』……は、ある。

 絶対に、知られてはならない、その『秘密』。




 もしかしたら陛下は既に、ご存知なのでは……?




 そう思ったことが、ないわけではないの。

 けれどそれをご存知であるならば、わたくし達

 ゾフィアルノ家が今もまだこうして、無事であるはずは

 ないのです。

 奇跡的に秘密を守り抜いている──と言っても

 いいのでしょうか……?



「……」


 けれど陛下は、わたくしを見ると必ず、何かを企んで

 いるような、イタズラを考えているような、……そんな

 含み笑いを投げ掛けてくるのです。

 それはあたかも、秘密を持ち得た犯罪者を、追い

 詰める時に見せていた、陛下のあの(・・)微笑みと同じ。


 それは暗に、秘密を掴んでいるという意味

 なのではないかしら──?





 ──『お前の秘密は、知っているのだぞ

        それなのに、まだ逃げるのか?』





 って。






 ゾクッ──




「……っ」


 底知れない不安が、わたくしを襲う。

 わたくしは思わず、自分の肩を掻き抱く。



 いいえ──。


 けれど知ってて、それを見逃してどうするの?

 なんの役に立つというの?

 わたくし達の秘密を知っているのであれば、

 断罪するのが最善策。

 反逆罪にも問われかねない、その秘密──。



 いいえ……いいえ、もしかしたら

 ゾフィアルノ家の持つ力のせいかしら?


 帝国一の軍事力を誇るゾフィアルノ。

 その一員である、このわたくしに手をかければ、国の

 均衡は激しく崩れますもの。

 ですから陛下は今、黙って見ているのかも知れません。


「……」




 ──けれどそれは、

    いつ何が起こるか、分からないって事だ。





 陛下がまだ笑って許してくださっている今のうちに

 わたくしは消えるべきだとも思うのです。


 お父さまもお母さまも、その事には薄々勘づいて

 おられます。もちろん、お兄さまもです。

 ですから少しづつ対策は、練られていたのです。

 どうにか全てが丸く収まるような、そんな策でした

 のに、 それなのにそこへきて、ラディリアスさまと

 わたくしの婚約が持ち上がったのです。

 それもいきなり!!


 わたくしと殿下が婚約? ……本当に有り得ない。

 陛下はいったい、何を考えているのでしょう?



 婚約者としての身分が出来たために、わたくしは

 消えることすらままならない。


 これも陛下の策略?

 けれど、これになんの意味が──。





 帝国内の『秘密』をすぐさま察知し、対応出来る

『賢帝』ラサロ皇帝陛下。

 犯罪はお許しにはならないけれど、基本気さくで

 お優しい。


 ……そんな陛下の人柄に、みなさまは賞賛の意を

 示してやまないのです。

 多少なりとも畏れの念を抱いてはいても、優しい

 現皇帝陛下の事を、国民の皆さまは、とても

 敬っているのです。


 かく言うこのわたくしも、陛下には随分お世話に

 なりました。


 小さい頃などは、守るべき可愛らしい女の子

 として見て頂いていたようです。

 だって、わたくしと同じ双子のお兄さまには

 そのような対応はなさりませんでしたから、きっと

 そうなのだと思います。


 わたくしが泣いていれば、優しくあやしてくれたり、

 一緒にお昼寝して下さったり。

 それから、珍しいお菓子を見つけては、わたくしを

 小さなお茶会にご招待してくださった事もありました。


 ……今思えば、相手は帝国の皇帝陛下。

 それらは全て、畏れ多い出来事ではあったのですが

 当時のわたくしときたら、そんな事には微塵も気づかず

 ……ましてや、注意してくれる人など誰一人として

 いなくて、何も知らないわたくしは、ただただ陛下の

 その優しさに、すっかり甘えてしまっていたのです。


 陛下はお忙しい方でしたのに、わたくしに困ったことが

 起これば、すぐ相談に乗っても下さいました。




 そんなわたくしが、陛下を裏切る事なんて

 出来るわけがない──!






 秘密(・・)は、バレてしまったかも知れない。

      ──でも、バレてはいないかも……。



 逃げようと思えば逃げられる。

      ──けれど、全ての憂いを

        取り除いてから消えても

        遅くはないでしょう?



 そんな想いが、ふつふつと湧き上がる。




『皇太子の婚約者』のままで消える……のではなくて、

 婚約破棄をされたうえで、この国から消えた方が

 幾分ましだと思ったのです。




 ──恐ろしくも優しい陛下。



 

 確かに脅威ではある。

 でも、だからこそ頼りにもなる──。



『賢帝』と言われる所以(ゆえん)もそこに

 あるのだと、わたくしは思います。

 

 あぁ……けれどけれど、その『賢帝』であられる

 ラサロ皇帝陛下がいったい何故、わたくしを

 皇太子の婚約者に選んだのか──!


 他にもたくさん、候補の方はいらっしゃったのですよ?

 しかも揃いも揃って美女揃い。


 家柄も良くて頭もいい。何をとち狂って、わたくし

 なんかを選んだのでしょう?


 陛下がわたくし(・・・・)を選ばなかったのなら、こんな

 面倒な事にはならなかったのに!

 悩みも憂いもなく、自由を手に入れられたのに……!



 ……確かにゾフィアルノ侯爵家の軍事力は、侮れないとは

 思います。身びいきではなくて、本当に恐ろしいほど

 強いもの。下手をすれば危険家門と認定されても

 おかしくないほどに……。


 けれどだからと言って、姻戚関係なんて面倒臭い関係を

 結ばなくっても、わたくし達はちゃんとお仕事します

 からね!?


 ──いえむしろ、選ばれてしまったことで家門総出で

 帝国から逃げようとすら計画を立ててるくらいなのです。

 それくらいは、お分かりでしょう? 情報通の陛下ならば!



 ……これは間違いなく、賢帝であられる

 ラサロ皇帝陛下にとって、最大の『汚点』となるべき

 事態。大変なことなのだと思うのです。

 ほんっと、有り得ませんからね?


 わたくしが……このわたくしが(・・・・・)『皇太子妃』?




 寝耳に水とはこの事で、いきなりの婚約発表を受け

 わたくし達は少なからずとも動揺したのです。

 わたくしなどは、一瞬冗談だと思いましたもの。

 陛下のいつものお戯れなのだって。



 本当なら、

『陛下。ご冗談がお上手ですわ』

 ……なんて言って笑って、すぐに誤魔化すところ

 でしたのに、あの時はそんな余裕すらもなくて……

 しかも、そんなことが言える雰囲気の場所でも

 なくって、わたくし達家族は、ただただ

 真っ青になって、その場を凌ぐしかなかったのです。

 


 皇太子殿下との婚約……

 しかもそれが、皇帝陛下直々にお望み……とも

 なれば、それは信じられない程の(ほま)れとなる。


 ……そもそも、本来ならば『断る』などと言う選択肢は

 常識的にみても有り得ない。

 確かにゾフィアルノは、高位貴族の1つではあります

 けれど、陛下の臣下である事には変わりないのです。

 その陛下の望みを断る事なんて、わたくし達臣下には

 そもそも許されない事なのです。


 でも! だからこそ! 上に立つ人物はそれなりに計画を

 練って、事前に前触れを出して、それから事を

 起こすのが普通なのですよ! 陛下……っ!


 それなのに、それなのに……。




「……」


 思い返してみても、言葉が出ない。

 あの時のわたくしは、本当に生きた心地が

 しなかったのです。

 

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ