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知られてはいけない秘密。

 

 ……なぜ、こんな事になってしまったんだろう?

 なぜ、こんなにも苦しいんだろう?

 ひどく……心が痛い。

 

 

 それは、婚約解消したからだろうか?

 フィアがこの手から

 こぼれ落ちてしまったからだろうか?

 

 それとも、彼女の気持ちが

 全く私に向いていなかったからだろうか?

 夜会で勝ち誇った顔をしたフィデルを

 見たからだろうか……?

 


 あぁそうだ……フィアを泣かせもしてしまった。

 

 あの時の涙は綺麗だった。

 慰めたくて抱きしめたくて

 けれどそれは許されない。

 

 それがどんなに悔しかったか……。


 触れられる場所にいて救えない。

 大好きな人の涙を拭うことが許されず

 別の男が呼び出される……そんな話があるだろうか?

 

 

 ……あぁそうか。

 きっと心が痛いのは、

 この中のどれか(・・・)ではなく

 その事柄 全てが……原因なのだろう。

 

 

 

 そしてその全て(・・)の始まりは

 あの時(・・・)の出来事……。

 

 

 あの日あの時、……私はフィアに相談した。

 

 婚約が不安だと私からフィアへ

 相談を持ちかけたあの日。


 そのせいでフィアが早とちりしてしまって

 婚約解消の話になってしまった『あの日』。

 

 本当はあの時、

 ちゃんと伝えなくちゃいけなかったんだ。

 自分こ本当の気持ちをちゃんと伝えていれば

 こんな事にはならなかった。

 

 

 

『そうじゃない。

 そんなつもりではないから、婚約は解消しない』

 

 

 ──そう、素直に言えば良かったんだ。

 

 

 

 簡単なことだ。

 恐れることなど何もない。

 

 婚約解消を望んでいたフィアは

 確かにその言葉にショックを受けるかも知れない。

 けれど彼女だって

 このヴァルキルア帝国の侯爵令嬢なのだ。


 貴族が望んだ婚姻を結べないなんて

 そんなのは常識で、フィアだってそれを

 痛いほどに分かっているはずなんだから。

 

 本来なら、こんな遅い婚約は有り得ない。


 たいていは物心もつかない幼い頃に

 親同士での話し合い、婚約相手は

 勝手に決まってしまう。

 

 それがこうも遅くなってしまったのは

 ひとえにゾフィアルノ侯爵と

 私の父が寛大だったからだ。

 

 

 

『好きな人を選べ』

 

 

 

 ──そう言われて、フィアも私も育ってきた。

 

 だから勘違いをした。

 だけど、そうじゃない。

 貴族は市民の血税で生きている。

 

 国を良くする為ならば

 好き嫌いの感情なんて、愚かなものでしかない。


 国の利益に繋がる婚姻を結ぶのが

 貴族の使命。

 (皇太子)フィア(侯爵令嬢)が結ばれれば

 この国はきっと安泰だろう。

 

 そんな事は当たり前の話で

 例えばあの時、私との婚約が

 解消出来なかったとしても、

 それはそれとして受け入れ

 婚約者として私を見てくれる

 最後のチャンスだったのではないかと思う。

 

 そうすれば、こんな事にはならなかった。

 

 フィアはその事で、

 ショックを受けるかも知れない。


 けれど私は、それほど嫌われているわけでもない。

 いつの日にか、認めてくれる日がきっと来るはずだ。

 

 それなのにフィアの反応が怖くて

 逃げてしまったのは この私。


 せっかくのチャンスを棒に振ったのは

 紛れもなくこの私(・・・)なのだ……!

 

 

 私は軽く息を吐き、そっと目を伏せる。

 

 ……正確に言えば、婚約解消が辛かったんじゃない。

 フィアが本当に、私のことを

 何も見えていないのが分かって

 それが辛かったんだ。

 

 会話を勘違いしただけならば、傷つきもしない。


 私はそれほど出来た人間ではないし

 皇太子の婚約者となれば、それなりの

 圧力(プレッシャー)もある。


 たいていの令嬢ならば尻込みするに違いない。

 それは仕方のないことだと

 諦めさえすれば良かった。

 

 けれど違った。


 フィアは意外に余裕で、そこから更に

 とどめ(・・・)と言えるべき理由を用意してくれた。

 

「……」

 

 

 

 ……私は、それだけは許せない。

 

 

 フィアからもフィデルからも

 そのような相談は受けていない。

 受けていれば、許しただろうか……?

 

 ──いや。許すわけがない。

 

 

 この事を初めて知った時、

 私は本当にフィアが他の男の元へ走ったのだと

 勘違いし、この身が焦げるかと思った。

 

 ──いや。今でも少し、疑っている自分がいる。

 

 

 あの時(・・・)フィアが勘違いしただけなら

 堪えられた。


 けれど不義の噂を捏造(ねつぞう)

 その場面をこの目で見る羽目になって

 堪えられるわけがない。


 あの日、嫉妬で身を焦がした今となっては

 絶対に許すことは出来ない。

 

 本当は、こんな形でフィアを手離したくなどない。

 出来ることなら、そのまま婚約者でいたい──。

 

 けれどそれは、私の我儘だとも分かっている。

 フィアの心の中に、私はいない。

 私が好きだと言っても、フィアは喜ばない。

 きっと戸惑うだけだろう。だから私も悩んだ。

 

 いっそ手に入れたい。

 嫌がったとしても、それはそれでいいのだと

 誰かに許してもらいたい。

 許しが出るのなら、私はなんだってする──!

 

 

 

「……」

 

 父上は、私を見た。

 私を見る父上のその目は、

 悲しみの色をたたえていた。

 

「……っ、」


 私はその目を見ていられなくなり

 視線を外す……。


 まだ……迷いは解けない。

 

 父上はそんな私を見て

 軽く溜め息を吐くと言葉を続ける。

 

「私は、ゾフィアルノ侯爵家を信頼しているのだ。

 あの一族の人脈、頭脳、技術……

 どれをとっても、右に出る者などいない。

 それに加え、あのフィデル。

 ……あの様な場に置いても冷静さを失わず

 かつ適切な判断を下せる。

 お前も感じたであろ?

 ──今回はまんまと逃げられた」


 悔しげに顔を歪ませる。


 けれどそれはどことなく

 愉しげにも見えた。

 

「もちろんそれは、

 フィリシア嬢においても例外ではない。

 皇太子の婚約者となったにも関わらず

 それを鼻に掛けることもなく

 一年間慎ましく過ごしていた。

 それなのに、……それなのにだ! ここへ来て

 いきなり不義の噂!? これは一重に

 お前との婚約を嫌がっているようにしか見えぬ!

 フィリシア嬢だけではない。

 一家総出で事にあたっているのだぞ!?

 となると、お前はあの一族から嫌われてる……。

 そう言うことになるのだぞ……!?」

 

「……っ」

 声を荒らげた父上に、私は(ひる)む。

 

 自分でも、『そうなのでは……』と

 覚悟はしていたつもりだったけれど

 いざ父上から改めて、その事実を突きつけられると

 心が折れた。


 ギュッと自分の胸を押さえ

 どうにかそれに堪える。

 

 

 仕方がない。

 全て、私が悪い……。

 

 

 

「何故、そのような事になった?

 お前は、ゾフィアルノ家になにをした?」

 

 そう言う父上の言葉は

 ひどく穏やかではあったけれど

 こめかみが微かに震え、怒りが滲み出ている。


 それもそうだろう。このような良縁は有り得ない。


 帝国の利益、政治的に見ても

 これほどの良縁はないんだ。そればかりか

 私自身が望んでいる。


 それを私自ら、手放してしまったのだから……。

 

 問い詰める父上のその声に答えようと

 私は必死に自分と戦った。


 誰よりも何よりも

 フィアを得たいと思っているのは、この私なのだ!


 けれどそれは土台無理な話。

 フィアを手に入れることは出来ない。


 出来たとしても

 それはしてはいけない(・・・・・・・)事柄。

 ……本当に、フィアのことが好きなら──。

 

 けれど──

 

 

 

 あぁ……ひどく目眩がする。

 

 私は目をつぶる。

 もう、限界だった。

 このままでは、心が壊れてしまう。

 

 

 母上は、私と目を合わせてくれなかった。

 ならば私も、母の言うことは聞かないでおく。

 

 私は、私の思うままに生きる。

 私は生きたいように、生きたい──

 

 

「……」

 私は顔を上げた。

 

 どうなろうとも、もう構わない。

 

 

「父上……実は──」

 

 

 

 迷いのない目を父に向けた。

 

 父上はハッとして、私を見る。

 母上は ただならぬ私の気配に気づいて、青くなる。

 

 

「で、殿下? なにを……

 なにを仰る気なの……?」

 

 

 焦って震えるその声に、私は心の中で苦笑する。

 

 所詮、私も母も同じ穴のムジナ。

 私がその縁を断ち切ろうとしているのを知って

 焦っているのだろう。

 

 ──けれどもう、無理なのです。

 

 

 

 母上の焦りを聞きながら、私は構わず口を開いた。

 

 

 もう、限界だった。

 

 黙っていることに、耐えられなかった。

 

 

    挿絵(By みてみん)

 

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


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