プラテリス皇家の呪いと魔力核。
プラテリス皇家では 呪いでも掛かって
いるのか……と思うほど子どもができにくい。
だから私の祖父には、何人かの側室がいた。
叔父上は、その側室の中の1人が産んだ
子どもになる。
いやこれは、皇族だけの話じゃない。
ほかの貴族……特に魔力量の多い高位貴族
全般に言えることだけど、何故なのか
子どもがなかなかできない。
フィデルが言うには、強い魔力を持つ者
同士は反発しあって、無意識に相手を攻撃
するのだろう……と言っていた。
「……」
今のところ、フィデルのその考え方は、一般的にも
言われていて、それなりの対応もあることはある。
……あれはいつの事だったろう?
フィデルとフィアが、13歳になったばかりの
頃のことだったと思うから、今から3年前……?
あの頃から既にフィデルは妙に大人びた
頭のいいクソガキで、私を何かにつけて
おちょくってみては、陰で笑っていたのを
私は知っている。
そんなフィデルと魔物討伐の際の心構えに
ついて話していた時のことだ。
『反発……?』
『ええ、そうです。殿下もご存知でしょう?
魔物討伐に行く際は、他の者と魔力が
ぶつかる事もあるので魔力核を
あらかじめ交換するのですよ』
『魔力核の交換……?』
私たちは、『魔力核』というものを持っている。
魔力を生み出すための器官で、場所的には
体の中心にあると言われている。
『言われている』というのは、なにもその存在が、
あるかどうかも分からない、不確かな存在だから
そう言っているわけじゃなくて、
それは誰の目にも目に見えないモノ。
だから漠然と、『体の中心にある』……と
されている。
そこに何らかの臓器があるわけじゃない。
解剖学的に見ても、そこには何も無いんだけれど、
魔力を作り上げる『源』……『核』は
確実にそこにある。
見えないけれど、そこにある。
……そんな曖昧な存在が『魔力核』なんだ。
私の感覚的には、それは、ポカポカとして
いてあたたかい。
唯一、自分自身を守ってくれる
大切なモノ──。
言わば、生まれながらにして体の中に
誰もが持っている『神さま』……と言っても
言い過ぎじゃないと、私は思っている。
実際魔法は、幾度となく私の
命の危機を教えてくれ、そして
救ってくれたのだから。
そして、そんな大切な魔力核を交換する──。
正直、その事に抵抗しかない。
自分の持っている魔力核は、目に
見えないとは言っても、限りあるものだ。
この魔力核の大半が失われれば、当然
それだけで『死』に至ることだってある。
魔法の反発を防ぐために『核』の交換が
必要だから仕方のない事だと言っても、
大多数の人間と魔力核を交換するのは
危険だ。
下手をすれば死ぬことだってある。
そもそも自分自身である魔力核を
よく知らない相手なんかには、やりたくもないし
欲しくもない。
だから魔力核の交換は、不容易に
するものでもない。
けれどフィアなら──。
そう思うと、胸が高鳴る。
相手がフィアだったのなら、話は別だ。
必要だと言うのなら、全ての魔力核だって
渡せる。
……いや、そもそも交換なんだぞ?
私の核の代わりに、フィアの魔力核を
貰えるなんて、考えただけで顔がほころぶ。
魔力の反発の事があったから、フィアを
守るために、魔力を使う必要性が出た時
十分気をつけなければ……と、常日頃考えていた
私だったから、この話は正直嬉しかった。
守るべき相手……フィアを自分の魔力で
弾き飛ばす……なんて、考えただけでも震えがくる。
そんなの言語道断だ。
だけど、魔力を交換していれば、どんなに
強い力を放ったとしても、反発は起こらない。
……いや、完全に反発しなくても、それほど
ひどい事にはならないはずだ。
それは是非、交換しなくては──。
けれど私は、『魔力核の交換』なんて言葉は
その時初めて聞いたものだから、不信感も
否めない。
──もしかしたらフィデル、また私を騙してる?
そう思わなかったわけじゃなかったから、
フィデルにそれとなく疑問を投げつけた。
『けれどそれは、初めて聞いた、
何故それを私に教えなかったのだろう?』
素朴な疑問だった。
そもそも私の魔法は守りの魔法。
使う相手は必ず味方なはずで、しかもそれは
大多数にのぼるはずだ。それなのに私は、
このことを知らなかった。
何かあってからでは取り返しがつかない
魔法なのに、何故、今の今までその事を
誰も教えてはくれなかったんだろう……?
するとフィデルは、困ったように肩をすくめる。
『殿下にはほぼ、関係のない話でもあるのです。
この魔力交換というものは、はっきり
言ってやりたくない、かなり気持ちが悪い
作業になるものですから……』
フィデルの口は重い。
『気持ちが悪い?』
私は聞き返す。
私に関係ないとの言葉に少し
カチンときたけれど、それもそのはず。考えた
だけで嫌悪感のある魔力交換。誰もが『したい』
なんて思うわけがない。『気持ちが悪い』というのも
頷けた。
そんな作業が待ち受けてる魔力交換を
主である皇家に向かって、強要できる
家門や人物は存在しないだろう。
けれどそれでも、その手順に興味をそそられる。
必要なら、ほんの少しだけでもいいから
フィアとなら、その魔力核を貰っておくのも
良いかもしれない──そう思った。
私は首を傾げ、フィデルを見る。
フィデルはそんな私に、軽く頷き返す。
『ええ。当然ですよね?
元々、魔力は反発し合うものなのですから。
それなのに魔力交換は、自分の核を
相手に押し付け、相手のものを受け入れる
ことなのです。
となると、その際にそれなりの反動がくるのが
当たり前で、交換するのであれば、それ相応の
覚悟が必要になるのです』
『……』
『相性が悪い魔力同士であれば、交換なんて
とても出来ません。
相性が良くても、核の交換による反動で
数日吐き気が収まらない場合もあるのですから。
なので、討伐の隊の編成の際はあらかじめ
個々の魔力の質を見極め、適切なパーティが
決められます。
そして、その者たち以外の者とは決して
パーティを組みません。
魔力が合わなければ、魔力核交換の際の
リスクが高くなりますからね……』
『リスク……』
私は気が遠くなるのを感じた。
確かに考えてみればそうだ。
魔力ですら反発するのだから、その元である
核の交換では、想像を絶する反発は否めない。
となると、こっそりフィアの魔力核を貰うのは
無理なのに違いない。
そもそも魔力核なんて、赤の他人が簡単に
触れられるものではないから、それなりに
本人の許可が必要になってくる。
……これは、面倒だぞ。
正直私はそう思った。
確かにフィアを守るためには必要かも知れない。
だけどフィアは、それを受け入れて
くれるだろうか?
……いや、それは無理だろう?
そもそもなんと言って切り出すんだ?
──フィアを守るために必要だから、
一応魔力核を交換してくれ。
……とでも?
………………。
どう考えてみても、不自然だろ?
相手は侯爵令嬢なんだぞ?
最年少騎士資格を持つフィデルが護衛騎士に
任命されている上に、他にも数名の護衛が常に
その傍に控えている
フィリシア・フォン・ゾフィアルノ。
皇太子である私が自ら、フィアを守る状況には
そもそも陥らない。
そんなの、ただの言い訳にしか聞こえない……。
『フィアの魔力核が欲しいんだ』……なんて
本当のことも言い出しにくい。
『気持ち悪いヤツだ』なんて思われた日には
私は生きていけそうにない……。
『……』
私は思わず溜め息を漏らした。
その溜め息に、微かにフィデルが反応する。
『……そうです。
魔力核の交換には、大変なリスクが
つきまといます。
……まあ、魔力核の相性が悪い相手とは基本
パーティは組まないので、それほど苦しい
わけでもありません。
しかも魔力の相性が悪い相手とは、当然
性格も合いませんので、正直近寄りたいとも
思わないんですよ。不思議ですよね?
相性がよく、交換の際に最もリスクが少ない
相手とは、たいていそれなりに、好意が持てる
相手でもありますから、有難いと言えば有難い。
……けれどそれでも、魔力核交換の際の忌避感は
否めませんけどね』
フィデルはそう言って、肩を竦めた。
『下手をすれば、1日中起き上がれないことも
ざらなのですよ。
吐き気や頭痛。それから目眩……。
好き好んでやりたい! と思うような
ものではありません。
ですから、魔力核の交換の儀式も、討伐
予定日の数日前までに済ませておくのが
ほとんどです。
それにパートナーも基本、自分たちで決める
ことが出来ます。
よほど信頼に足る人物でなければ、魔力核の
交換なんて、やりたくはないですからね……』
『……そうか』
そんな話を聞くと、私は更に不安になる。
フィアもさることながら、目下の問題として
討伐の際のパートナーも見つけなくてはならない。
自分には誰が、パートナーになって
くれるんだろう?
そんな人物、いるのだろうか?
と言うか、出来ることなら全ての
魔力核をフィアと交換したいのに、
他の人物ともしなくてはいけないその事実に
私は頭を抱えた。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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