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ラサロ皇帝陛下の、ご乱心……?

 キラキラと細かい粒子になり

 光り消えてゆく扉のその向こうで

 ラディリアスさまは

 そのサラサラの黒い髪を忌々しげに

 掻きあげながら、大きく溜め息をつきました。


「はあ……」

 


 そしてそのままバッと

 上の方を見上げたかと思うと

 いきなり非難めいた叫びを上げたのです。

 

「父上……っ!」

 

 

 え?

 ち、父上……!?


 

 わたくしはハッとして、消えた扉の奥

 そしてその薄暗い廊下の奥へと目を凝らしてみる。


 するとその扉のあった両サイドの壁には

 いつの間にか

 皇帝陛下直属の護衛騎士の印である

 濃紺の制服に身を固めた騎士たちが

 立ち並んでいたのです。


「──!」


 いつもは余裕の色を見せながら

 皇帝陛下に付き添う彼らも

 今日ばかりはどことなくソワソワと

 落ち着かない。


 目の前の状況に、少なからずとも

 動揺しているようでした。


「…………」

 ──そりゃそうですわよね?


 自分たちが守るべき人物が

 自分たちの目を盗んで暴挙に出たのですから。


 陛下? この後始末

 どうつけるおつもりなのかしら?

 

 



 

 ──コツコツコツ……。

 


 

 静かな靴音が、シンとした会場に鳴り響く。


 螺旋階段を優雅に降りながら、

 奥から現れ出たその人物は

 嬉しそうに微笑んだ。


 あまりの余裕綽々(しゃくしゃく)ぶりに

 周りの誰もが声も出ない。


 

「……っ、」

 そこに居並ぶ誰もが、グッと息を呑み

 それでもその誰もが『まさか……』と思ったのです。


 そりゃそうですよね、実際

 現れるはずもない人物なのですもの。


 しかもその人物はこの国最高の地位をお持ちの方。

 そんな、やんごとなき存在のその方が、

 まさか自分たちを攻撃するような

 そんな暴挙に出られるなんて、

 いったい誰が想像したでしょう?


 ……けれど専属の護衛騎士があれだけ立ち並んでいて、

『あの方は陛下ではない』……なんて事があるはずもなく

 そこには先程ラディリアスさまが仰ったお父上……

 つまり皇帝陛下が、ご自分の(あご)に たくわえた

 立派な顎髭を満足そうに撫でながら、

 この夜会場に姿を表したのです……!

 


『!?』

『──』

 

 

 

 ──ザッ……。

 

 

 

 陛下が姿を現したその瞬間、まるで

 潮でも引くかのように、乱れた会場が一気に

 引き締まり、波のように陛下へと礼をとる。

 それと同時に人々は両サイドに分かれ

 当たり前のように上段へと続く道を作る。


 その道の先には、苦々しげに顔を歪める

 ラディリアスさま。


 そしてラディリアス様のその表情に

 優しげな笑顔を振りまいたのでした──。




 知らぬ人が見れば、威厳に満ちた好々爺。

 けれどそれが曲者なのです。


 その笑顔に(ほだ)されて、ついつい

 自分をさらけ出してしまったのなら

 それでもうお終い。


 後は陛下の餌食となるだけなのです。けして、

 どんな表情の時にでも、気を許してはならない相手

 ……それが陛下なのです──!



「……っ、」

 その笑顔で、人の波の一部が緩やかになり

 一部がピンッと張り詰める。

 その空気の温度差に、わたくしは恐ろしくて

 息が出来なくなる……!

 

 

 まさか、こんな所へおいでになるなんて……。

 

 やはり目の前の人物は、紛れもなく

 この帝国で最も高い権力を持つ皇帝陛下。

 たとえ、先程の『暴挙』が陛下の仕業だとしても

 無礼を働くわけにはいきません。

 

 状況は、何が何やらさっぱり訳が分からないのですが

 それでも相手は皇帝陛下。

 膝を折らねばならないのです。


「──」

 当然わたくしも、目を見開きながら

 お兄さまと共に膝をつく。


 途端、後ろめたい気持ちが顔を出し、

 ドキドキと心臓が暴れ回る。



 

 

 ──皇太子誕生祭。

 

 3日掛けて行われるこのお祝いの席に

 父親である皇帝陛下が

 参加しないわけはないのですが、

 今日はその3日目にあたる後夜祭。

 

 外国の貴賓の方々はもちろんの事

 気心のしれた貴族を中心に

 この夜会への招待はなされ、

 比較的緩やかな雰囲気の中で行われる。


 そんなお遊びのようなこの

 後夜祭(こうやさい)の夜会では

 皇帝陛下並びに皇后殿下は参列しない……

 そんな決まりになっているのです。

 

 と言いますのも、この夜会では

 いわゆる『結婚のお相手探し』の部分が

 色濃くなるのです。


 ですから皇帝陛下がおられる緊張した場で

 将来の『お相手』など探せるものでは

 ありませんので、

 このような処置が取られているわけなのです。

 

 よって、この場に陛下が来られることは

 誰も予想しておらず、

 誰もが……もちろんその嫡子たる

 ラディリアスさまも、驚きの声を上げたのでした。

 

 

「父上、……困ります。

 このような暴挙に出られるとは。

 みな恐れているではありませんか……っ」


 非難じみた、ラディリアスさまの声が響く。

 

 もちろん『暴挙』とは、扉を飛ばしたことと、

 この場にいきなり現れたことを示します。


 けれど、あれが(・・・)

 陛下の仕業だったのなら頷ける。

 あの扉はそう簡単に破壊できる物では

 ありませんもの……。



 けれど皇帝陛下の登場は、

 さすがのラディリアスさまにとっても

 突然の出来事だったのでしょう。


 あまりの出来事に、動揺が隠せないようでした。


 

 

 ……まぁ、それも当然と言えば、当然……。

 

 ドアを豪快に蹴破って

 登場する皇帝陛下など、

 いったいどこの誰が想像出来たでしょう?


 ……こうなると最初(はな)から

 知っていさえすれば、

 ラディリアスさまの事ですから

 お止めしたに違いありません……。

 

 いえ、ラディリアスさまだけではありません。

 後ろに控える陛下お付の

 侍従たちのあの慌てぶり……。


 きっと彼らもまた、何も知らされないまま、

 陛下の後を走って追い掛けて来たのでしょう。

 これはもう……同情に堪えません……。



 いつもはツンと取りすましているあの方々が

 あのようにみだれ髪で会場に現れるなんて……。

 

 思わず笑ってしまいたくなるのを必死に堪え、

 わたくしはそっと陛下を仰ぎ見る。


 本当に強行突破されたのですね? 陛下。

「……」

 


 わたくしは同時に呆れかえって、

 眉を寄せる。


 あの者たちは、後で皇后さまから

 こっぴどく叱られるのに違いない……。

 そう思うと少し、気の毒にも思えたのです。

 

「……」

 そして当然それは、ラディリアスさまも同様。


 お父上であられる陛下のその暴挙に

 微かな怒りを覚えていらっしゃるのか、

 陛下の後ろに控える侍従と全く同じように

 ふるふると小さく震えていらっしゃいました。


 あー……、まぁそうでしょうね、

 そりゃ怒りますわよね?


 おそらくラディリアスさまは、この説明で

 上手くいくと思っていらしたのでしょうし、

 早々に退散する姿勢でしたもの。

 それがこの乱入のせいで、逃げられなくなって

 しまいましたからね? お怒りになられるのも

 仕方ありません。

 けれどそれでは、ここにいらっしゃる皆さまが

 納得しない……というのもまた、

 分かっておいでのハズです。


 ……到底、逃げれるものではないのですよ?

「……」



 そしてそんな憎々しげに陛下を見上げる

 ラディリアスさまに向かって、陛下は

 さも面白そうにクククと肩を揺らしながら

 お笑いになると(おもむろ)に口をお開きになりました。

 

「ふふ……何を言うか。

 どの道お前が何とかするであろ?

 後夜祭はほぼ無礼講ではないか。

 (ちん)もそれにあやかったまで。

 そもそも朕の魔法が働いておる。

 驚きはしたかも知れんが、ケガ人はおらぬだろ?」


 そう言われ、会場を見回す。


「──っ」

 一瞬、そんな陛下と目が合ってしまい、わたくしは

 慌てて目を逸らす。


 ……いえ、目が合った(・・・・・)……など

 きっとわたくしの勘違い。

 そうであって欲しいと思いながら

 冷たい大理石の表面を目で追った。

 上から突き刺さる、陛下の視線が痛い──。




「……それにお前こそ、暴挙であろう?

 私は聞いていないぞ。婚約解消の件」

 

 陛下が顔を返し

 ラディリアスさまの方を向いたのを悟って

 わたくしは恐る恐る顔を上げる。


 ギリッと、ラディリアスさまを睨む陛下の

 そのお顔が、まるでわたくしすらも

 責めているように思えて、居心地が悪い。


 

「そ、それは……」

 ラディリアスさまはたじろぎながら、目を逸らす。

 

 ……けれど、




 ──聞いておられない(・・・・・・・・)……?




「……」

 

 陛下のその言葉に、

 辺りがザワザワと騒がしくなる。


 どうやらこの婚約破棄のことは、

 お父上であられる皇帝には

 話を通していなかったようです……。

 

 わたくしはその事実を知り、再び不安になる。


「お兄さま……、これはいったい」

「……っ、」

 見上げるお兄さまは、

 厳しい表情で唇を噛んでいらっしゃる。

「……」

 おそらくこれは、お兄さまですら

 予想外の出来事だったのでしょう。

 わたくしはギュッとその腕に縋り付く。

 

 

『話を通していない』までは、

 ……いえ、『話を切り出せない』ことは

 なんとなく想像がつきました。


 だってこれは、皇帝陛下が提案されたこの婚約。

 それを勝手に破棄しようとするのですから

 多少の後ろめたさはあるのでしょう。

 

 けれど、陛下が

 全く(・・)それに(・・・)気づかなかった(・・・・・・・)



 ……そんなわけはありません。

 

 あれほど婚約破棄の理由を作るために、

 わたくし達は奔走したのですもの。

 当然陛下のお耳にも、わたくしの醜聞は

 そのお耳へ届いているはずなのです。


 あの噂が陛下のお耳に入ったのであれば、

 自然婚約破棄の流れになるのは

 分かりきっていたはずです。


 ……いいえむしろ、婚約破棄の命令を

 皇帝陛下自ら言い渡す事も出来たはずなのです。

 

 あのような話(・・・・・・)、たとえ噂話であったにせよ

 皇族の方々にとっては汚点となる。


 ラディリアスさまが陛下へ

 この婚約破棄の要望の話をせずとも、

 陛下から(・・・・)ラディリアスさまへ

 婚約破棄のご命令を出すことこそ、

 最も自然な流れでしたのに……。


 わたくし達の真の狙い(・・・・)はそこにありました。




「……っ、」

 わたくしはそっと、爪を噛む。

 

 

 ……けれどそうは、ならなかった。

 

 

 それどころか、ラサロ皇帝が何も知らなかった(・・・・・・・・)……?

 そんな事が、有り得るのでしょうか?


 あの、耳の早い陛下……が?


 

 

    挿絵(By みてみん)

 

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。



       ……いや、それよりも、この画像……

         『アヒル』らしいです。

            アヒル!?


         私は白鳥に見えるんですよ!

         鼻先が黒いじゃん!?!?!?

       ……まぁ、いいけどさ。アヒルで。

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