起こるべくして起こった事件。
けれど実際、名指しされてしまった
ガジール男爵は、そんなわたくしよりも
遥かに恐ろしかったのに違いない。
まるで蛇に睨まれたカエルのように
ブルブル震え上がり、その場にベッタリひれ伏した。
「は、はい。殿下……」
ブルブル震えながら男爵は
床へおでこを擦り付けるかのように頭を下げる。
そしてそんなガジール男爵へ、
ラディリアスさまは苛立たしげに、言葉を繋ぐ。
「私は、『追及は認めない』と言ったはずだ!
婚約解消……今回の報告はそれ以上でもなければ、
それ以下でもない。
理由があるとすれば、それは
私とフィリシア嬢との問題で、
他の者には関係ない。
今は『解消』という形を取るが
今後どうなるかは分からないのだからなっ!」
言葉は有無を言わさない強さを秘め
誰もがそれに逆らえない。
「し、しかし──」
顔を遠慮がちに上げながら、
それでもガジール男爵は譲らない。
ゴクリと唾を飲むその音が
遠く離れたわたくし達のところまで届いてくる。
男爵は、必死に否定の言葉を紡ぎはしたけれど
その先は続けられず、ついには下を向いてしまった。
悔しげにあの分厚い唇を噛んでいる。
「……っ、」
それを見て、先程の薄気味悪さを思い出し、
わたくしは少し身震いしたけれど、
……けれどけれど、……もう、頼みの綱は
男爵しかおられないのです!
そんな弱気にならないで下さいませ。
やるならやるで、ちゃんと最後まで
頑張って下さいっ!
心の中で わたくしはそう叫び
悔しげに唇を噛むガジール男爵を睨みつけた。
皇弟派のガジール男爵としては
現皇派のわたくしたち、ゾフィアルノ侯爵家が
目の上のコブであることはまず間違いない。
そのコブであるゾフィアルノ侯爵家に
非があるとするならば、今ここで
殿下の口からはっきりと、その事を公表し
断罪する事こそ、
彼の真の目的であったのだと思うのです。
現皇派のゾフィアルノ侯爵家が
その皇太子に見捨てられ
はたまた皇帝派からも弾き出される……。
それはこのヴァルキルア帝国の貴族社会に置いて
事実上ゾフィアルノ侯爵家が
抹消されることを意味する。
お兄さまは震えている。
わたくしも、震える。
確かに恐ろしい。
けれどその断罪は、なくてはならない。
わたくしの我儘で、……いいえ、
わたくしがこの世に生まれたことで
下手をすれば家が殺される──。
殿下は大丈夫だと、心配するなと
おっしゃってくれはしたけれど、
それがどこまでそうなのか
どこまでわたくし達を守って下さるのか、
それが今、確実に揺らいでいることを感じ
先程まで自由になると喜んでいたわたくしは
その考え方そのものが甘かったのだと、痛感する。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
ラディリアス殿下がゆっくりと口を開く。
その先の言葉は、
ガジール男爵を陥れるものなのか
それとも……。
わたくしは覚悟を決め、震えるように目を閉じる。
瞬間──!
バーン──……!!
「!?」
突如、大広間の扉が開いた。
……いえ、宙を舞った!
「え……?」
今度は、なに──!?
誰もがその場で固まるしかなかった。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m
誤字大魔王ですので誤字報告、
切実にお待ちしております。
そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)
気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡
更新は不定期となっております。