表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/72

切実な、思い。

 そもそも、この婚約に乗り気だったのは

 皇帝であられる

 ラディリアスさまのお父さまのみ。


 本来ラディリアスさまには

 婚約の意志などなかったのです。

 

 いいえ、ラディリアスさまだけでなく

 そのお母さまであられる

 グラシエラ皇妃さまですら

 乗り気ではなかったと言われています。


 それを押し退けて皇家に嫁いだとして

 どうして幸せになるでしょう……?

 そんなわけはありません。

 

 

 ふふ。でも、そんな事を言うと

 わたくしがとんでもない

 お転婆に聞こえますわよね?


 否定は致しませんけれど。

 


 ……けれどそれはけして、皇妃さまや殿下が

 わたくしの事や わたくしの家の事を

 拒否しているから……と言うわけではないのです。


 本当ですよ?


 ……でもまぁ、ここまで来ると

 言い訳にしか聞こえませんけれどね……。

 

 けれどそれだと、誰だって思いますよね?




 ──じゃあ、どうしてラディリアスさまや

 皇妃さまが わたくしとの婚約に、

 乗り気ではなかったのか? って……。




 ……これはあくまで、……あくまで

 わたくしの憶測なのですが、

 ラディリアスさまご本人が

 好意を向ける(・・・・・・)お相手(・・・)との

 ご婚約を望んでおられたからだと思うのです。


 その相手として、わたくしでは不足だった……と、

 ただそれだけの事なのだと

 わたくしは思っています。

 

 そうでなければ、わたくしは純粋に

 嫌われている(・・・・・・)ことになるのです。


 そういう事になりますと、

 また違った状況が発生します。

 そもそもそんな嫌われている妹(・・・・・・・)を持つお兄さまが

 ラディリアスさまのお傍にお仕えするなど

 到底、有り得ない事のように思えますし、

 ましてやラディリアスさまが我が家に

 遊びに来ることなど、

 とんでもない事なのではないかと思うのです。


 ……いえ。確かにお兄さまは

 ラディリアスさまの大切な臣下でありますから、

 お兄さまにお会いになる為に

 このゾフィアルノ侯爵家へ、

 来られることもあるでしょう。


 私情を挟まず、純粋に

 お兄さまをお認めになられていらっしゃるのなら、

 それもまた、有り得ないことではありません。


 けれど意にそぐわない婚約者の元へ……

 しかも本邸ではなく、別邸で過ごしている

 わたくしの元へ、わざわざ挨拶に来る必要は

 ないと思うのです。


 そもそもラディリアスさまは

 お兄さまの(あるじ)


 いくら用事があるからと言っても、

 その邸宅に、わざわざ足をお運びするまでもない。

 お兄さまを皇宮へ、呼びつけさえすれば

 事は済む話ですもの。簡単なことです。


 けれどラディリアスさまは、けして

 そのような事はなされず、

 必ずご自分の足で、我が家へと

 いらっしゃるのです。

 

 そしてここへ訪れる際には必ず、

 別邸で過ごす、このわたくしの所へも

 立ち寄って下さるのですから おかしなものですよね。


 たとえそれが婚約者への責務……としても

 微笑みながら来られる……となると

 それなりの好意は、あるのではないでしょうか?

 けれどそれは、恋愛……という名ではなく

 友愛(・・)という名の好意。

 


 ……ただ、それ以上の感情は

 お互い持ち合わせては おりませんから

 その意に反しての『婚約者』と言う

 わたくし達の立ち位置が、

 妙にくすぐったくもあるのです。


 変に意識して、親しげに話すことすらままならない。

 本当にただ、挨拶だけを交わす仲。


 それでも、その笑顔だけは嘘ではない。

 あの笑顔は、紛れもなく本物の笑顔でしたもの。




 ──そうであったと、わたくしは思いたい。



「……」


 必死にラディリアスさまとの記憶を

 よみがえらせてみても、

 それが本当にそう(・・)であったのか、それとも

 ただ単に わたくしの『希望』が見せた

 ただの幻影だったのか……

 そこのところは少し、自信がありません……。



 ……いいえ。

 でも、それでも、

 わたくし自身(・・・・・・)がラディリアスさまに

 嫌われていたとしても、

 わたくしの家門が、疎まれるような、

 そんな状況ではなかったはずなのです。


 それに、たとえお兄さまが

 いくら優秀であったとしても、

 その後ろに控えるゾフィアルノ侯爵家自体が

 信用出来なければそれまでだと思うのです。


 本人が優秀で、尚且つ名実共に信頼出来る家門。

 そんな家を、皇家は望んでいらっしゃるのでは

 ないかしら?


 ですから、お兄さまが次期宰相の立場として

 乞われているのであれば、わたくしの家門自体は

 そこまで嫌われているわけではない……と、

 わたくしは思うわけです。

 

 きっと心の底から愛せる女性を

 今もお探しになっておられるのでしょう。

 いえ、既にもう見つけられたのかも知れません。


 ふふ。なんて純粋な方のでしょう……!

 

 最近では、あまりお話などしなくなったので

 今はどうなのかは分かりませんが、

 以前ラディリアスさまから

 そのように心から大切に想われる方を

 探しているのだと、

 (うかが)ったことがあります。

 

 その(おっしゃ)りようが

 とても可愛らしくて、

 是非、ラディリアスさまのお力になりたいと

 そのときわたくしは切実に思ったものです。

 

 当然わたくしは、ご本人へもそう伝えたのですよ?

『応援していますわ』って。

 

 だってわたくしは、

 ラディリアスさまの幼なじみなのですもの。

 わたくしの出来ることは

 全てして差し上げたいではありませんか!

 

 それに、素晴らしいと思いませんか?

 

 政略結婚が当たり前のこの貴族社会において

 心の底から愛した人と

 手を取り合って国を支えていくなんて!


 きっと、今以上に素晴らしい帝国に

 なるに違いありません! 

 

「……」




 それなのに、そこへいきなりの婚約命令……。

 

 

 

 相手をなかなか探し出せない殿下に

 皇帝陛下が痺れを切らした形と

 なってしまいました。

 

 

 いくらなんでも、あんまりだと思うのです。

 せっかく殿下が、生涯を連れ添うに相応しい

 女性を探していらっしゃいますのに、

 このように水を差すなんて……。


 

「はぁ……」

 わたくしは思わず、深い溜め息をつく。


 ……あれはもう本当に、運が悪かったとしか

 言いようがありません。

 

 正直に申しますと

 我がゾフィアルノ家でも寝耳に水のお話でした。


 なんの相談もなしに

 いきなり婚約を申し込まれては

 我が家でも断ることが出来ません。

 

 皇族からすれば、

 侯爵家と言えども下の身分。


 その下の身分のわたくし達には

 どうする事も出来なかったのです。

 

 本来ならば、事前に話が来るはずなのですよ?

 それが今回はなかった。

 しかも『話』だけでなく、その『気配』すら

 感じさせなかったのですから──!

 



 ラサロ皇帝陛下は、『義』を重んじる方。

 本来であれば、そのような抜かりは全くなく

 義理堅く、人徳者でも知られていますのに

 なぜ、このような強行手段を

 取られたのでしょうか?


 まるで酔った勢いで、思わず仰ったかのように、

 1年前のラディリアスさまの誕生祭で

 わたくし達にそう、ご命じになられたのです……。

 

 その場に居合わせた各国の首脳からは

 歓声が上がり、貴族たちからは溜め息が漏れ、

 わたくし達はその場を乱さないよう

 ただただ、固まるしかなかったのです。

 

 何が起こったのか

 しばらく理解出来ずにいた──と言うのもまた

 事実ではありますけれど……。



 そしてそれは、ラディリアスさまも同じことで

 わたくしを見るその目は

 今にも泣き出してしまいそうだったのです。

 

 ……あのような場で殿下もわたくしも

 断れるはずもなく、わたくし達はただ

 了承の(こうべ)を垂れるしかなかった……。

 

 断れば

『お前たちは皇帝(わたし)に対し、

 何か思うところがあるのか!』と

 詰め寄られるのが目に見えていましたもの。

 しかもあの時はラディリアスさまの生誕祭。


 国内のみならず、

 近しい他国の主要人物が居並ぶ中で

 反論など出来ようはずもないのです。


 その後わたくし達の屋敷は

 上を下への大騒ぎになったのでした……。

 

 


 

 ──「はぁ……」




 突然、わたくしの頭上から

 大きな溜め息が降ってくる。


「……お兄さま?」


 

 当然それは、紛れもなくお兄さまのもので

 おそらくわたくしの溜め息を聞いて

 つられて出てしまったものかもしれません。


 わたくしは少し、申し訳なくなってしまう。

 知らず知らずのうちに、自分だけでなく

 お兄さまも、追い詰めていたのでしょう……。

 

 驚いたように声を上げるわたくしを

 ふっと目を細めてお兄さまは見下ろして

 それからそっと口を開く。

 

「婚約破棄……は、して頂けなければ、

 大変なことになるのだ……。

 フィアもそれは分かっているだろう?」


 ただそれだけを言って、

 おにいさは困ったように横を向く。


 その横顔には微笑みはなく

 どことなく怒っているようにも見えました。

 

「……はい。分かって、おりますわ」

 

 お兄さまのそんな横顔を見ながら、

 わたくしは呟く。

 見ていられなくなって

 わたくしは目を伏せる。


 お兄さまの心のモヤモヤの理由は、至極簡単。

 それはそうでしょう。

 誰もが望んで、こうなったわけではありませんから──。

 

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ