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共闘

「それじゃあ、今から3分間。始め!」


 その言葉を合図にそれぞれ動き出した。

 最初に動いたのはルークだった。杖を振ると前方に立つロランに向かって幾つもの稲妻が走る。同時にルークの前方に立っていた生徒が火球を放つ。

 ロランはひらりと身を躱し、稲妻が彼が立っていたところを焼く。が、そのまま止まらず正面に立つ女生徒に向かって牙を剥いた。


「わっ!」


 女生徒は驚き身をかがめ、その瞬間稲妻と火球はぶつかり合い爆発を起こす。

 立ち込める黒煙の向こうから、確実にロランを狙って銀色の刃が飛んでくる。

 軽いステップでそれらをいなすと、刃はミリセントに向かって飛んでいく。


(追尾の魔法使っ…て、1年生じゃ習わないのか…。)


ミリセントは思わず杖を振り守護の魔法を展開し、刃はミリセントの魔法に当たり砕け散る。遅れてシャルルが杖を振り流星群のように無数の光が飛び出した。

 弾数が多ければ当たる可能性も上がる。が、それは同時にミリセントたちが当たる可能性も上がるということを表している。

 守護の魔法を展開していたミリセントを除き、生徒たちは光から逃げ惑うことを余儀なくされた。慌ててシャルルは魔法を消すが、教壇は混乱に包まれていた。


 黒煙の中からロランの姿を目で追うが、やはり彼は涼しい顔をして立っているだけだった。

 

(無理だって〜〜〜!)


 目を白黒させ、残り時間がわずかであることに焦りを覚える。杖を振り、必死に魔法を放つ。が、火力は出るが精度が悪すぎる。もちろん、がさつなミリセントに追尾の魔法を組み込ませることなどできない。

予想外の方向へ飛んでいき、後方の生徒から悲鳴が上がった。

 心の中で謝罪をしつつ何か方法はないかとあたりを見渡すが既に諦めムードが漂っていた。


 突如耳をつん裂くような破裂音と共にがしゃんと何かが砕け散る音が聞こえた。


「きゃあっ!」


 姿は見えないが、アリスの悲鳴が上がる。遅れて彼女が窓ガラスを割ったのだと気がついた。


 上方からキラキラと輝く光の粒が降り注ぐ。

 そのまま浴びれば危険なことはすぐにわかる。が、咄嗟に動ける生徒は少なかった。


 予想に反し、ガラスは誰も傷つけず緩やかに落ちた。頭を抱えていたミリセントはあたりを見回す。すぐに誰が魔法を使ったのかわかった。

 ロランだ。3分が経過しようとしたその時、彼は初めて杖を振った。自分ではなく、生徒のために。


 が、ミリセントはそれより他のことに意識を取られていた。


(あれ、もしかして今ってチャンスだったりする…?)


 ロランは今生徒それぞれに守護の魔法を展開している。絶好のチャンスといえるだろう。

 少し卑怯な気はしたが、ミリセントの中で再試と良心は天秤にかけるまでもなかった。


 ミリセントが素早く杖を振ると、ロランの足元を取り囲むように風が起こる。風に煽られ、彼の長い銀髪がはためく。


 ミリセントは願いを込め、杖を上に引き上げた。杖の動きに合わせ、風は強風にかわり、天井を破壊せんばかりの竜巻に変わった。吹き荒れる竜巻はガラス片を巻き込み、そのまま天井に穴を開けた。


「やった!」


 思わずガッツポーズを取ると、シャルルと顔を見合わせる。確実に当たっただろう。多少の後ろめたさを感じているようだが、ミリセントと目が合うと応えるように深く頷いた。

 ちょうど、3分経過を知らせる小さな鈴の音が教室内に響いた。


「いやぁ、危なかった。」


 そんな言葉が聞こえたのと同時に、濁った竜巻はふわりと消える。同時にロランが姿を現した。

 そこに立つ彼は3分前と同じ、無傷のままだった。


 あれほどの強風の中で無傷でいられるはずがない。守護の魔法でも使わない限り。


 答えは明白だった。


 その場に立つ全員が落胆した。ミリセントはため息をつくと共にその場に座り込んだ。卑怯な手を使ってでも勝とうとしたというのに。


「途中まではどうなることかと思ったけど…1年生とは思えないほど、十分良くできていたよ。」


 慰めの言葉をかけられようと、救済措置すら落としてしまったと言う事実は変わらない。というより、これは救済措置になっているのだろうか。


 半ば放心状態で話を聞き流していたミリセントの耳に突破な言葉届く。


「それじゃあ、約束通り加点と実技試験の再試は免除だね。」


「!??!」


 ミリセントを含め、全員が信じられないと言わんばかりの視線をロランに投げかける。


「でも、魔法は当たってなかったんじゃ…。」


「いや、当たってたよ。」


 そういうと、ロランは自分の右手を高くあげる。その手には傷らしきものは見られない。

 意図がわからず首を傾げていたが、ようやくそれらしきものを見つけた。

 ローブの裾に、5cmほどの切れ込みがある。当たった、というのはこれのことだろうか。思わず口を開いたのはシャルルだった。


「…え、服の方ですか?」


「うん、当たったと言われれば当たってるからね。」


「別に先生自体には当たっていないような…。」


 何も考えず出てきた言葉をそのまま吐き出していたが、突然ミリセントがシャルルの肩をがっしりと掴む。


「…シャルル。」


「?」


「加点ほしいよね?私に再試うけさせたくないよね?」


「え、ええと…?」


「そういうことで。当たったってことにしよう。ね?」


 有無を言わせない圧を感じ、首を縦に振る。

 その様子を確認すると、ミリセントは微笑む。試験が一つ減った喜びを深く噛み締めた。

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