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散々な

「おおおおわったあああ!!」


「おつかれさまー!!」


 大して勉強はしていないが、試験期間が終わった時の解放感は何物にも代え難い。

 校庭で飛び跳ねるミリセントに、シャルルが抱きついた。ミリセントはシャルルを抱きしめ、くるくるとその場で回った。


 シャルルはしっかり練習した成果を出せたのだろう、不安一つない晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 対してミリセントは全てを諦め、絶望はとうに消えていた。結果はとにかく、試験が終わった喜びを表していた。


 一番自信のあった実技試験。それは大失敗に終わってしまった。


 まず第一に、「風の魔法を用いて、遠く離れた的を射抜く」という課題が出された。


 何も理解していなかったミリセントは迷わず炎の魔法を使い、的を射抜くというよりは燃やし尽くした。当然、点は少しも入らない。

 当のミリセントは、周囲の唖然とした顔を見るまでそれに気が付かなかった。


 守護の魔法はともかく、灯りの魔法然り、移動の魔法然り、どれも大きなミスを繰り返してしまった。





「ミリセント、大丈夫…?」


 虚な目をして笑うミリセントを覗き込み、シャルルは恐る恐る声をかける。


「何事も諦めつけることが大事なんだよね〜。」


 得意げに笑い、この後どうしようかと考えていると、先にシャルルが口を開いた。


「じゃ、私図書室で復習してこようかな。」


「え???」


 自分の耳を疑い、硬直したまま聞き返す。試験が終わった直後に復習など、ミリセントには考えられない。

 遊びに遊んで、次の試験が近くなったらようやく腰を動かす。その程度で十分だろう。


 シャルルは何でもないような顔をし、言葉を繰り返す。やはり聞き間違いではないようだ。


「な、なんで…?」


「なんでって…不安なところ、今のうちになくしておきたいじゃない?」


 明確な意識の違いを感じさせられる。打ちひしがれるミリセントに苦笑いしながら、シャルルは手を振って図書室へと向かった。


 シャルルの姿が見えなくなってから、ちらりと校舎を見上げる。外からあの教室は見えない。


(…空き教室、見に行けるかな?)


「よっ、試験お疲れ様!」


 突如背中に衝撃が走り、前のめりに倒れ込みそうになる。どうにか片足で踏ん張り、体勢を整える。


 いつかもこんなことがあった気がする、と遠い記憶に思いを馳せながらゆっくりと振り返る。


 猛禽の様な双眸を携え、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる青年。予想通り、ルークだ。


「お疲れ様、どうだったー?」


「まあまあって感じー?そっちは?」


「同じかな、悪くないかも。」


 以前の世界で、ルークはサボり仲間だった。何度か授業をサボり、中庭で遊んだ覚えがある。憎たらしいことに、試験は人並み程度にはできていた。


 ミリセントは早々に会話を切り上げ、教室へ向かおうとする。が、ふと一つの可能性が脳裏を掠めた。


(先生と鉢合わせたらどうしよ………そうだ。)


 数秒ほど思案し、指を鳴らすとルークに向き直る。首を傾げ訝しむ彼に、ミリセントは満面の笑みを浮かべた。


「ルーク、お願いがあるんだけど…。」


「なになに?」


「ウーズレー先生の気をひいててほしいの!」


「…先生の気を…惹く…?」


 何やら別の意味に捉えられたのか我が身を掻き抱き、逃げる様に後退りをする。ミリセントは必死に首を振り、それを否定した。


 それでも当然意図が読めるはずもなく、ルークは反対側に首を傾げた。どういうこと?と言わんばかりのルークに、ミリセントは顔の前で両手を合わせた。


「詳しいことは後で言うから!何でもいいから引き止めててほしいの!」


「うーん?まあいいけど…試験の答案用紙盗むとか?」


「なんでそうなるの!違うってば!」


「にゃはははは、わかってるわかってる。冗談だって〜。」


 ルークは安心したー、とへらへら笑う。

 校舎の窓を何気なく見ると、タイミングよくウーズレーが通りかかったのが目に入る。見失う前に、行動しなければ。

 ミリセントはルークを急かし、急足で校舎内へ向かった。

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