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不穏な何か

 じっと座っているのが苦手なミリセントにとって、実技練習は数少ない救いだった。

 長机を挟んで反対側に、シャルルが杖を構えて立っている。

 実践魔法学の実技試験は刻一刻と迫っていた。そのため授業内で時間をとり、それぞれ思い思いの魔法の練習を行うことになった。ミリセントは風の魔法、シャルルは守護の魔法を練習していた。


(練習するまでもないんだけど…。)


 基礎からやり直すことに多少の面倒臭さを感じつつ、魔星図を描く。対するシャルルも、ミリセントが放つ強風に負けじと杖を振る。以前と比べ、見違えるように上達していた。

 努力を惜しまないシャルルを、純粋に尊敬していた。ミリセントの賞賛にシャルルは恥ずかしそうに笑った。




 壁に穴を開けたことを除けば、特に問題なく終わった。横を見れば友人がいる。苦もなく授業を受けられる時間を噛み締めた。


「ちょっと待ってて、質問してくる!」


「おお、熱心だねぇ…。」


「ふふ、試験も近いからね!」


 嫌な単語を聞いてしまった。明後日の方向を向き、やらなければいけないことはわかっているが現実逃避したくなる。


(まあでもいけるっしょ…。いける…はず…。)


少し憂鬱になりながら、何気なく教室を見渡す。ふと、視界に見知った少女が映った。


「アリス?」


「きゃあああああっ!!」


 背後から肩を叩き声をかけると、想像を数倍上回る悲鳴をあげ飛び上がる。飛び上がった弾みで机にぶつかり、痛みに悶えながら床に倒れ込んだ。派手に転んだアリスの上に、どさどさと机の上に積まれていた教科書が降り注ぐ。

 

 ドミノ倒しのような一連の動きをぽかんと見つめ、遅れて声をかける。


「だ…だいじょうぶ…?」


「わ、わ、だいじょうぶですうう…」


 涙目になりながらどうにか立ち上がり、スカートの埃を払う。美しい金髪を揺らし、おどおどとする様子はいつもと変わらない。が、真っ赤な両目がひどく腫れている気がした。


「何かあったの?」


「えと………。」


 言葉に詰まり、長い沈黙が訪れる。それが肯定であることは自然とわかった。


「………」


「……………」


 アリスが話し出すのを待つが、一向に進まない。何かを言おうと口を開いて、また再び口を閉ざす。そんなことを何度か繰り返している内に、ミリセントは痺れを切らした。


「もー!聞くから!言って!!」


「きゃああああっ!!ごめんなさいっっ!!」


 驚いたのか再びその場で飛び上がり、涙目になる。じっと見つめたままのミリセントに、アリスはようやくぼそぼそと喋り出した。


「…昨日の夜中、部屋に帰ろうと思って…灯りの魔法を使ってたら、ウーズレー先生に怒られちゃって…。」


「?なんで怒られたの?」


「わ、わかんない…です。わたしの魔法が、下手だって…。そ、それで…落ち込んじゃって…。」


「えー!八つ当たりみたいなもんじゃん!気にすることないよ、わたしも昨日怒られたし!」


 俯いて下を向いたままの彼女を励まそうと自虐をしてみるが、あまり受けなかった。


 どうにか元気が出ないかとあれこれやってみるが、どれも効きそうにない。顎に手を当て、悩んでいるとシャルルがパタパタと戻ってきた。


「お待たせ!…あれ、あなたは……あなたがアリスさん?」


「ひぇっ、な、な、なんでわたしのこと…?」


 びくりと肩を震わせ、怯える彼女を宥めるようにシャルルは優しく話す。


「ミリセントから話を聞いていたから…はじめまして。シャルル・ウェンダーです!よろしくね!」


「わ、…アリス・ヘルキャットといいます…よろしく、おねがいします…。」


 深々と頭を下げるアリスの手を取るとぶんぶんと上下に振った。


 あらためて、アリスがしていた話をシャルルにも伝える。シャルルは頬を膨らませ怒りを露わにしていた。


「先生がそんなこと言うなんて!ひどいよ!」


「で、でも…わたし、魔法下手だし…。仕方ないよ…。」


「わたしが文句言ってこようか?」


 ミリセントが挙手すると、アリスは慌てて首を振った。振り回される髪がぴしぴしと頬を打つ。


「だ、だめっ…!…です…。ごめんなさい…もう、気にしてないから…。」


 気丈に振る舞っているが、それでもやはり腫れた目を細め笑う姿は痛々しかった。


「そう…なんかあったらまた言ってね!絶対!」


 隣で相槌を打つシャルルとミリセントを見つめ、申し訳なさそうに頷いた。


「わざわざありがとう…。」


 お辞儀をして去ろうとしたアリスに、シャルルがあ、と声をかける。


「アリスちゃん、その足どうしたの?」


「え?」


 言われて視線を落とすと、脛のあたりにあざができていた。小さいが、痛々しい赤色に変色している。


「さっき転んだから…それかも…。」


「治そうか?」


「う、ううん、これくらいなら大丈夫…ありがとう。」


 ぺこりと頭を下げ、3人はその場を離れそれぞれ次の授業へ向かった。

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