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会合

「とにかく、信じてもらえる様僕も努力するよ。」


「は、はあ…。…ありがとうございます。」


 その笑顔に釣られる様に、笑顔が溢れる。ミリセントの中に生まれていた漠然とした不安は、和らいでいた。


 ふと、聞こうと思っていたことを思い出した。


「あ、あの…あの使い魔の主人は…?」


「ああ、それも言おうと思っていたんだ。君のおかげで、彼は軽い擦り傷で済んだよ。」


 再び椅子に座り直すと、ただ、と声を暗くし、参ったと言わんばかりに両手をあげる。


「彼の使い魔…アルマがなぜ暴走したのか、それはわかっていない。」


「え、あれがアルマなんですか?」


 先日ラロに聞いたばかりの魔獣、アルマの名前が出てきてミリセントは驚いた。彼によれば、ミリセントが見たものと条件が合致しなかったはずだ。


「体色は青…のはずなんだけど、興奮状態になると稀に赤くなる個体がいるらしい。元々とても臆病な性格だから、暴れるなんて初めてだってラロ先生が言ってたよ。」


「ああ、それで…。」


 ミリセントは自分が出した条件が悪かったなと心の中で毒吐いた。もう少し冷静に分析できていれば、事前に対策ができていたはず。ため息をつくほかなかった。


「原因については今後こっちで解明しておく。分かり次第、君にも伝えるよ。」


 一度間を置くと、ロランは楽しそうに話を続けた。その姿は無邪気な子供の様に見える。


「ラロ先生、驚いてたよ。この間スコーピオンさんがこの話…魔獣が暴れるっていう話をしていたーって。」


「え"っ…やばい、ですか?」


「んー、珍しいこともあるものですねって言ってたから大丈夫だと思うけど…。」


「…。」


「それに、アルマは魔獣の中ではかなりの上位種に分類される魔獣でね。基本人を襲わないけど、一度暴れるとなかなか手がつけられないらしいんだ。」


「そうなんですか?」


 意外とあっさり静かになってくれたので、あまり強さは感じていなかった。しかし、2年生が放った沈静の魔法を破り再び暴れだした事を考えると、やはり丈夫な部類になるのかもしれない。


「よく鎮められましたね、って感心してたよ。ラロ先生が。」


「わわ私のこと怪しんだりしたら大変じゃないですか!」


 一人焦るミリセントとは対照的に、ロランは変わらず楽しそうに笑う。


「大丈夫だって。あの人、人を疑わないから。」


「うう、何かあったらロラン先生がどうにかしてください…。」


「いいよ〜。」


 任せて任せて、という彼を少し呆れた目で見る。先生とは思えないこの軽いのりが、ミリセントは苦手だった。

 その時、保健室の扉が開いた。二人揃って扉の方を見ると、クランドールがそこに立っていた。柔らかな雰囲気ではなく、怒気と殺意を纏っている点でいつもと大きく異なっていたが。


「げっ、クランドール先生…。」


「…あかりがついていると思ったら…ロラン先生、まだいらっしゃったんですか?」


 その声は、先ほどまでの優しいものではなくどこか冷たいものだった。その言葉にまたもや揃って素早く時計を確認する。気付けば時刻は23時頃になっていた。


 明らかに狼狽するロランに、彼女は容赦なく詰め寄る。


「怪我人に無理をさせない様、釘を刺したはずですが…。」


 冷め切った新緑の目でロランを睨みつける。

すぐさま彼は椅子から立ち上がり、ミリセントに向き直った。


「そ、そういうわけだから!また明日詳しい話聞きに来るね!それじゃあ!」


 クランドールが近づくより先に、ロランは杖を振り消えてしまった。

 突然の出来事を理解しきれず、ぽかんとしたままのミリセントに、クランドールが駆け寄った。


「困ったものだわ、次会ったらとっちめてやるんだから…。スコーピオンさん、今日はもう寝ましょうか。体に響くわ。」


「言われなくてもそうさせてもらいますというか寝ようと思ってましたすみませんおやすみなさい。」


 早口で捲し立て、逃げる様にベッドの中へ潜り込んだ。ミリセントは今の彼女に対し、得体の知れない畏怖を持っていた。おやすみなさい、とクランドールが言うとすぐに部屋の明かりは消され、急に静けさと暗闇に包まれた。


 長く眠っていたからか、それからミリセントは少しも眠れなかった。

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