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13.お嬢様と魔物退治

「よう来てくれたんべな。いんやぁ近頃魔物が現れだしてよ? オラんとこの畑に悪さするようになっちまってなぁ」


「魔物の特徴は分かりますか?」


 俺は中年くらいの農夫の男に質問をする。



「イノシシだんべゃあれは。二から三匹くらいで現れておっかねったらありゃしねぇ。追っ払おうにも大層なでかさでよぉ」


「了解しました。それでは見つけ次第駆除しますので、危険が無いように離れているかしていて下さい」


気を付けて(きづいて)くれよぉ。あんた等に怪我でもあっちゃ、オラも申し訳ねえ」



 さて、都合よく冒険者ギルドで魔物の討伐依頼を受けられた俺とリシャは、街外れにある風車小屋の近くに来ていた。


 なんでも付近に魔物が現れ始めたそうで、最初は依頼主が自分で何とかしようとしたがどうすることもできず、冒険者ギルドに駆除をお願いしたということである。



「リシャ、魔物は見たことがあるか?」


「いえ、今まで見たことはありません。ただ、屋敷の兵隊達が駆除していたという話は聞いたことがあります」



 冒険者の主な仕事の一つに、魔物退治が挙げられる。


 魔物は魔族と同じく異界から来る存在であるが、その存在はマナで構成されており生命活動を止めると霧散してしまう。


 つまり、肉や皮と言った有益な物を残したりすることがない存在である。



 そんな訳で討伐に全く旨味がないかといえばそうでもない。


 霧散した後にはマナの物質体であるマナ結晶を残すことが多く、マナ結晶は有用なエネルギー源であるため結構な額で取引される。


 利率はよくないが冒険者ギルドでも買い取ってくれるため、冒険者にとって魔物狩りはいい収益となるわけだ。



「大半の魔物は野生動物と違って俺達を恐れず襲ってくる。逆にいえば、手傷を負おうが勝てない相手だろうが向かってくることが多いので、見つけやすいのが特徴ともいえるな」


「そうなのですね」


「さて、畑を荒らしちゃ本末転倒だ。できれば、外にいてくれるとありがたいが」


 俺は風車小屋の近くで魔物を探す。



 しばらく辺りを見回していたところで、リシャが声を上げた。


「マルさん、あれではないですか? あの、平原の奥に」



 リシャが探していた方向を見ると、確かにイノシシのような姿の何かが数匹、のそのそと蠢いている。


 周辺のマナ濃度も高く、間違いなく魔物であろう。



「正解だ。さて、どうやって狩るかだな。リシャの光弾(ブリット)であれば、当たれば倒すことができる。ただし、遠くから一匹を倒したところで残りの三匹がこちらに向かってくるだろう。さあ、どうする?」


 魔物の数は四匹。


 連発してうまく倒し続けたとしても、一~二匹は術者に到達してしまう計算になる。



「ええと、逃げながら光弾(ブリット)を撃って倒せばいいのでしょうか」


「そうだな、逃げながらというのはいい案だ。だが、もっといい案があるぞ」


 そう言うと俺は風車を見ながらその上にある窓を指差した。



「まずあいつらに届く距離まで近づいて光弾(ブリット)を一発撃ち込む。当たっても当たらなくてもいい。その後は全力で風車の方に向かい、中に入って扉を閉めてから上階に昇り、上にある窓から光弾(ブリット)を撃ち続けて殲滅するって言うのはどうだ?」


「なるほど。そのような手が」


 リシャは納得したという風な表情で頷く。



「失敗しても、俺が何とかしてやるから安心して行ってこい。……その代わり、転ぶなよ」


「こ……転びません! ちゃんとできますから見ていて下さい!」



 そう言うとリシャは身をかがめながら魔物達の方へと近づく。


 そして自身の光弾(ブリット)がギリギリ届くかどうかの距離まで到達すると、マナを操作した。



光弾(ブリット)!」


 その叫び声と共に光の弾が綺麗な軌道で飛んでいき、魔物の一体へと命中する。


 魔物は断末魔を上げながら霧散し、残りの三体がリシャの方に猛然と向かって行った。



「うん、少し遅いな。光弾(ブリット)を撃ったら着弾まで様子を見ずに風車の方へと走って行けば、完璧だった」


 俺は魔物とリシャの追いかけっこを見ながら、そんなことを呟く。


 恐らくリシャが風車の中に駆け込むのはギリギリになるだろう。


 本人も逃げながら中々必死な表情をしているのが見てとれる。



「しかし、結構基礎体力は結構ついてるものだな。やはり農作業をひたすらやらせていたのは間違いではなかった」


 途中で追いつかれるようであれば遠くから魔法を使い援護する予定だったが、その必要はなさそうである。


 リシャは何とか風車の中に滑り込むと扉を閉め、しばらく後に窓から顔を出す。


 そして風車の周りをウロウロしている魔物達に向かって上から光弾(ブリット)を撃ち込み、全ての魔物を片付け切った。





*****************************





「いんやあ、すまねえべな。確かに魔物達をぶっ倒すところは確認したんべさ。ありがとうな、お嬢さん」


「いえ、こちらこそありがとうございました。仕事完了の証明書も確かに受領いたしました」


 リシャが依頼主に挨拶しケートラの助手席に乗り込んだことを確認してから、俺はギアを変えアクセルを踏んだ。



「よくやったな。戦闘系の依頼はそれ自体は報酬額が少ないが、マナ結晶を合わせれば作業系よりも実入りは多くなるぞ」


「はい、何とかできました。作業系よりも実入りが多くなるのは分かります、命がけですものね……」



 魔物から追われる際に何かを思ったようである。


 リシャはマナ結晶の入った袋をじっと見ながら、少し思いつめたような声で俺に答えた。



「魔物はな、魔族が攻め入って来た時の置き土産だったり、あるいは侵略の足掛かりとして『異界の門』から現れることが多いんだ。都市や人里の近くであれば異界の門も小さくそれほど強い魔物は現れないんだが、周囲に人がいない場所であればあるほど異界の門も大きく開き、強い魔物が送り込まれる傾向にある」


「なるほど」



「魔物が強ければ強いほど、マナ結晶の大きさや純度が上がっていくからな。上位の冒険者は強力な魔物の討伐を目指して、人の通わぬ方へと旅立っていくものなんだ」


 戦闘系の報酬額に関していえば、ほとんどが一定額で頭打ちとなりマナ結晶で稼いでいく方針となる。


 そうなると別に冒険者ギルドに所属しなくてもいいっちゃいいので、上位になればなるほど自由を求めてギルドを退会する冒険者も出てくるというわけだ。


 冒険者ギルドとしても上位冒険者にぽんぽん抜けられると困るので、引き留め策や福利厚生も充実してくるという寸法である。



「いつか……私もそのような冒険者になれるでしょうか」


「なるって宣言したろ? だったら、なれるかどうか悩むよりも絶対なってやるって気持ちでいた方が気分的にも楽だぞ」


「はい……! なってやります!」


「その意気だ」



 リシャの決意を改めて感じながら、俺は夕日が照らす中をケートラの運転を続けた。





*****************************





「はい、仕事の完了を確認いたしました。と、同時にリシャさんに嬉しいお知らせです。なんと、今回の仕事完了によってFランクへと昇格いたしました。おめでとうございます」


「……なんと!」


「お……おお……。ランクアップなのか」



 ギルドに仕事完了の報告をしたところで、リシャがランクアップした。


 いや、俺について言えばここ数年ランクアップの経験なんてしていなかったわけで、なんとも新鮮な驚きを感じた次第である。



「やりました、やりましたよマルさん! 私、ランク昇格です!」


「ああ、おめでとう。よく頑張った」


「それじゃあギルドカードの書換えがありますので、あちらの窓口で申請して下さいね」


 受付嬢のその言葉を聞くとリシャはギルドカードを手に持ちステップのようなものを踏みながら別の窓口の方へと向かって行った。




「……いやしかし、ランクってそんな簡単に上がるものだっけか? まだ戦闘系の仕事を一回しかこなしていないのだが」


 俺は受付嬢に対して小声で聞いてみる。



「そうですねえ。作業系を頑張ったというのはありますが、まあ、言い方悪いですけどGランクからFランクにすぐ上がるのは『君達よく頑張ったね、偉い偉い』みたいなモチベーションアップを図るためにあるようなものですから、すぐ上がるんですよ。その代わり、FはともかくEの期間は長いと思いますよ。ここで足止めの方も多いですからねー」


「そ、そうか。まあリシャのモチベーションが上がるならそれに越したことはない」


 受付嬢と小声で会話をしながら、取りあえず俺はリシャが喜んでくれているのでそれで良しとした。

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