表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

必要な物を④ホームセンターでの買い物続き


 目と鼻の先には、商品を手に取ったまま固まっている少女がいる。身長は屈んでいるから分かりにくいが小さい小柄な感じだ。じっと見つめている。そんなに見つめる物でもあったのか?


 「何か困っていますね。もしかしたら同業者じゃないんですか?」

 「そんなことあるか、普通に考えてただの買い物の客だろ」


 仮に同じ目的で買い物に来ていたとしたらなかなかに見ている物のセンスが無い。俺も買う商品で迷っていたし、余り人の事言えないが、目の前の少女が手に取って見つめているのは缶切りだ。


 缶切りで普通に迷う要素あるか?ないだろ。どんだけ頑張っても迷って値段だけだろ。その他の要素で迷うことは無い。切れ味って値段で関係あるのかな、その辺は俺に知識が無いからあれだけど、缶切りの切れ味ってなんだ。切りやすいも切りにくいもあるのか。


 まあ、目の前で迷っている人は親にお使いでも頼まれただけだろう。ここはほっといてもいい気がする。気になる点はあるが。


 「無視していいんですか?もしかしたらがあるかもしれませんよ。関係を作るチャンスかもしれませんね」

 「それって店員が言っていいセリフなのか?まあ、無視していいんじゃない。缶切りで迷っているんだし直ぐに終わるでしょ」


 そして、迷っている人の後ろを通って別の棚のところに向かった。


 「これが・・・今の俺に必要だと」


 後ろを通り抜けて着いたのは、工具売り場に来た。さっさんに紹介されたのはなんと溶接機だった。はっきり言って意味が分からない。なぜこれが今の俺に必要なんだ。


 「さあさあ、この溶接機を買うのです。さすればきっとあなたも冒険者になれるでしょう」

 「なれるわけね~だろ。なんだよ溶接機って、使ったことも使い方もわからね~よ」

 

 こいつ完全にふざけやがった。しかも溶接機って、ボケが分かりにくいんだよ。もっとわかりやすいボケをしろよ。使い道がないくらい大きいスパナとか、どこに置くべきかわからないノーム人形とか、そういった商品を持ってこいよ。


 「もっと分かりやすくボケをしてくれ、するならせめて。扱いにくいって溶接機は」

 「まあまあ、溶接機はネタだって直ぐにわかるじゃないですか。ここで私が真面目な商品でボケるよりも、確実にネタだってわかる商品でボケた方が好感度上がりません?」

 「上がらん上がらん。客のニーズに素直に答えてくれる方が好感度は上がる」


 名札もいい値段する。小型だからか19000円で買えるけど、小型だからいいってわけではないし、買えるわけはない。


 さっさんは何か満足したのか、てくてくと他のとこに歩いていく。何がしたかったんだ?いや、意味なんてなかったのかもしれない。


 次に俺とさっさんが来たのは虫よけなど、害虫に対する薬やアイテムが置いてあるところだった。


 さっさんに渡されたのは、虫よけスプレーだった。ホントどこにでも売っている虫よけで、スプレー缶のタイプだ。虫よけには塗るやつや、設置、置くタイプなど色んな種類があるが、その中でも最も安価なのがこの缶タイプだ。


 使い方に関しては、服に直接吹きかける奴だ。それで大体3時間くらいもつとスプレーに書いてある。


 「そりゃそうですよ。予算が無いなら最低限の装備にしないと。今度は真面目に」

 「それは助かるが、確かに予算はも無いけど、虫よけスプレーって今どきの作品でこんなん持参する奴いないだろ」

 「貧乏な主人公って感じでも、虫よけを買うことは無いですよね。私も虫よけはポケモンでしか見たことないですし」


 それはそう。虫よけか。使い道は服に吹きかける、火の付いた木に吹きかける、そういった使い方が出来るか。値段は安売りしている。実際は300円なのに今だけ100円だ。お買い得だな。

 

 今の俺の予算を考えて、多分これより安いかつ使い道がある商品はこのホームセンターに無いのか。


 「この店で、他に安い物は同じ値段で洗濯バサミがありますが、どっちの方がいいですか?」

 「その2択しかないのか。・・・虫よけスプレーで」


 背に腹は代えられないので、虫よけスプレーを買うことにする。俺が買う物はこのマチェットと虫よけスプレーに決まった。見る人が見たらこれから庭の草むしりでもするようにしか見えない。とてもこれから試験を受ける人に見えない。

 

 「料金は合計で3000円でいいですよ。足りない分は私が補填しときます」

 「ありがとう」


 レジの方に歩き始めた。


 今になって思うが、実際マチェットも武器みたいなもんじゃないか。実際これで人くらいやれそうな気はするが。武器を2つ手に入れたようなものか。


 草や軽い木をなぎ倒すことにも使えるというし、リボルバーよりも使い方が色々とありそうだな。モンスターの解体とかも慣れれば出来るかもしれない。その辺は知識よりも実践経験な気がするので、やる機会があるかどうか・・・。


 時刻はもうそろそろ11時になりかけている。家を出てから結構な時間が経った気がする。会計をして帰って、午後の戦闘をしないといけない。


 クラリスに昨日はボコボコにされたが、今の俺は一味も二味も違う。勝てなくとも傷くらいはつけられるはずだ。この自身はどこからか湧き上がってくる。新しいおもちゃを持った時と気分は似ている。


 「そろそろ会計にしたい」


 そういった時に、さっさんの足が止まった。見ているのは先ほど缶切りで悩んでいた少女がまだ悩んでいたからだ。


 まだ迷っていた。それなりに時間は経っていたのにずっと座り込んで見比べている。


 「あの人、ずっと悩んでいますね。面白そうですし声を掛けましょうよ」

 「掛けましょうよじゃねえよ、俺は行かないぞ」

 「さあ、迷える子羊に導きを」


 さっさんに強引に連れられ座り込んでいる少女に向かった。面倒でしかない。今は早くこの新しい武器を試したいのに。とても面倒だ。面倒な予感しかしない。


 さっさんが同じ高さに座り込んで、話しかける。


 「さっきから迷っていましたが、どうなさいましたが」

 

 話しかけられた瞬間にピクっとなっていきなり焦り始めた。顔を左右になんかブンブン振っている。

 

 「そんなに謙遜しなくてもいいんですよ。どうしました」

 「いえ、その・・・ですね、この商品って2つで値段が違うじゃないですか、何が違うのか・・・聞いてもいいですか?」


 遠慮しているのか、親切にされるのに慣れていないのか、人と話すのが苦手な感じがする。常に獲物に狙われているウサギのごとく震えている。


 「この商品の違いはぶっちゃけメーカーってだけですね、それ以外に大きな違い何てありません」

 「でも、その、900円も違うんですよ・・・・・おかしいじゃないですか」


 見ている商品の1つは700円で、もう1つは1600円だ。確かに値段は違う。この場合俺なら700円一択だ。1600円の缶切りってだけで、買う候補からは外れるだろ。


 「こっちの高い方は、歴史ある食品メーカーが製造しているってだけで、店員の私が言うのも何ですがそれだけです。メーカーという付加価値が付いているから少し高いっていうだけです」

 「そう・・・なんですね。親切にしてくださり・・・ありがとうござい・・・ます。ならこっちの1600円の方を買います」


 そっち~~~買うの。マジで。この流れなら700円の方だろ。金銭感覚おかしいぞ。驚くしかないぞ。

さっさん、もう迷いは消えたっぽいし、俺の会計をしてくれ。察してくれ。


 声には出さないが、察して欲しいのでさっさんの方を見る。それも目に力を入れているので他の人からしたらまるで睨んでいるように見られる。


 その結果、俺の方をちらっと見た少女は凄く縮こまってしまう。それは俺には関係がないのでこの際無視する。その俺の視線に明らかに気づいているさっさんは、俺の事を無視して少女に話しかけた。話しかける寸前に俺をちらっと見た。


 それはまるで、面倒ごとに巻き込む視線を送ってきやがった。


 「どうして缶切りが必要なんですか?答えられる範囲でいいですよ」

 「そ・・・その・・・・頑張りたくて・・・・」

 「頑張りたくて?」


 だいぶ話が端折られている。頑張りたくてじゃ何も話が見えてない。何かを頑張りたいってのは良いが、何を頑張るのかを教えてくれ。質問の答えになっていない。


 「その・・・・次の冒険・・・者を受けようと思って・・・まして」

 「なるほど、それは凄いですね」

 

 なるほど、本当に同業者だった。そんなことがあるとは。ていうかさっさんこのこと知っていたな。ちなみにここまで俺はまだ一言もしゃべってない。


 「ほら仲間ですよエイジさん。ここは仲良くしておいた方がいいんじゃないですか?」

 「あ~~ぁ、いや、いい。どうせ試験で合うことは無いだろ」

 「そうですか。それは残念です。それはそれとして、まだ他にも商品で迷っている物ってありますか?」

 

 さっさんの提案もありかといえばありだった。俺は誰が次の試験を受けるかわからないからここで知っておくことで良いこともある。だけど、今回のこの少女は多分一次試験ですら受かるかわからないし、冒険者試験には面接だってある。ならこいつは100%受からない。


 それに、俺はオドオドしていて、はっきりと自分の意見が言えない奴は嫌いだ。だから若干だがムカついている。


 「まだ・・・あります。相談し・・・てもいいですか?」

 「はい。大丈夫ですよ。2人で力になりましょう」

 「は・・・・」


 勝手に相談人に追加されてしまった。俺がそんな事したく無いのが分かっているはずなのに。


 逃げられる訳がない。なぜなら買い物商品を持っているのはさっさんだ。最悪だ。


 「ちなみに、嫌だとは言いませんよね。だって商品を割り引きするんですよ。それくらいの事いいですね」

  

 何も言えなかった。料金を値引いてくれるのは助かっている。ここは素直に従うしかない。でも、それを俺以上に嫌がってるぞ、この少女。


 結局、拒否権は無かったので、さっさんが嫌がっている2人を引き連れて買い物をする事になった。

相談してくださいって言っている側が嫌がっているのに連れてくってなんだよ。


 この少女、なんと予算が無かった。何でも親からカードを受け取っているのでそれで買い物をするらしい。ならなんで迷うんだよ。予算がないなら買えただろ。しかも缶切りなんてどうでもいいだろ。


 そして買い物が終わったのは昼過ぎになった。なんかどっと疲れが来た気がする。自分の買い物以上にどうでもいい買い物って、こんなに長く感じるのか。


 レジで会計を終えたので、出口に向かった。手には大きなマチェットと虫よけスプレーがある。さっきまでいた少女はもう消えている。


 「またのご来店お待ちしております」


 そして帰路についた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ