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メイド何者


 右肘に傷がある。それも俺たちが嫌なほど鮮明に覚えている傷だ。

それはあの夜BBAを奴隷として、使用人として購入した日に首輪を外した後、殺されそうになった時のせめてもの反撃としてつけた傷だ。


 まじかよ。じゃあこいつは、ここにいるメイドがあの時のBBAだったっていうのかよ。

そんなの変装してたなんてかわいいレベルじゃねえ。完全に別物じゃねえか。


 完全に騙されたのか。こいつはやられた。確かに歳のいったBBAにしては体が健康的だと思いはしたが、奴隷でも食事はしっかり出ていたのかな~~なんて、いい方向に考えてしまった。


 こいつがドアをぶっ壊して家に入って来た時の嫌な予感はこれだったのか。

そりゃ直感が働くって言うのかな、人間の本能なのか、一度殺されかけた存在に再度出くわしたんだ。

身構えもするか。


 「自己紹介とでもいうんですかね、もう私があの時の老婆だって理解して頂けましたか・・・ね」

 そういいながら再度笑顔を見せてきた。


 嫌でも現状の自分たちの置かれている状況の理解はした。理解だけは・・・ならこのメイドの狙いは・・・


 当然、あの時の続き。すなわち俺たちの首を取りに来たのか。そこまで恨まれることはしていないと思うが、あの傷を付けた事実だけで殺しに来る動機は十分だ。


 やるか、やられるかの状況なのかもしれない。一瞬だけ彼女を睨むように見た。

体に変な力が入りながら、周りに何か武器になる物がないか探そうと視線を変えた瞬間


 メイドが優しく口を開いた。


 「何かこの傷を見せたことで変に警戒させている気がしますが、私は本当に使用人としてここに来たんですよ」

 「「え」」

 

 いやいや、何言ってんですかこの人は。


 「普通の人は働きに、ましてや面接に来るときに玄関をぶち壊さないですけど」

 「いや~そこは、まあ、印象を強く持ってもらおうかとノリでこう一突き」

 

 照れくさそうに頭の後頭部に手を当ている。

一突きで家の玄関を壊されたらたまったもんじゃない。


 こんなに隙だらけな俺たちを殺しに来る素振りがないなら、この話は本当なのかもしれない。

だとしても、うちに人を雇う余裕(お金)なんて無いから、帰って欲しい。


 「やっぱり、うちでは雇えないんですよ。雇うって言っちゃかもしれないですけど、そんなお金ないし、雇用先なら他にたくさんあると」

 「もうそういうのいいんで、私が働くって決めたんで。とりあえずその玄関何とかしてください」

 「おい~、人の話を聞けよ。何一つ話が進んでいないし、何より壊したのお前。責任転嫁すぎだろ」

 「あれ今俺雇えないって言葉にしたよな。何で話が雇う方向で進んでんだ、意味がわかんね~」


 勝手に雇われている気でいるんですけど、このメイド。強行すぎませんか。


 人の話をまったく聞かないメイドは、ズカズカとリビングに歩き出した。

部屋全体を見た後、ソファーに腰を落として膝を組んだ。


 俺たちの方を見ながら、指をさして

「何か飲み物をください」


 本来入れる側の人が俺たちに要求してきた。

自分勝手すぎるが、仕方がない。入れるしかないか。


 キッチンの戸棚から、コーヒーの豆を取り出し、コーヒーを入れた。入れたといってもお湯にインスタントコーヒーを混ぜただけの物だ。こういった場合、一番無難なのが紅茶とか茶系だと思うけど、あいにく家にはそんなものない。


 何かしらの文句は言われるから覚悟は必要だ。仕方なかった、だって家に人が来るなんて想定していない。水を出すよりはましだし、他にあるんのは牛乳だぞ。客人?に対して牛乳って、見たことないぞ。


 入れたコーヒーを持ちながら、メイドが座っているソファーのあるリビングに向かった。

ジンが気まずそうに仁王立ちで立っている。


 座りたいけど隣に座るのは怖いのか、ソファーの少し後ろにいる。

そこにいるならなんか手伝ってくれてもいいと思う。


 「はい、こちらコーヒーになります。それと、少しばかりのお菓子もどうぞ」


 コーヒーと一緒に、ミルクや砂糖、あとお菓子を持ってきた。

とはいっても、家でお菓子を食べるのはいつもディーアだし、そのディーアはいないので余りものになってしまう。あいつ行く前にお菓子がもったいないとかで殆ど食っていきやがった。


 なので仕方なくあるもので代用するしかない。


 クラリスは大きく息を吸い、大きくため息をついた。


 「う~ん?どこから突っ込んでいいのやら。まず、コーヒーに文句を言うつもりありません。インスタントだろうと豆を擦っていようと、どちらでも気にしません。ですがこの容器は何ですか?木でできた容器?、木製はコーヒーの入れる容器として適していません。コーヒーのほかにミルクや砂糖を持って来たのは評価します。ですがこのお菓子・・・ではないですね、これは何ですか?」

 「見たまんまだよ。家にあるのがそのくらいしかないから仕方なく。まあ、何もないよりはましなんじゃないかなと思いまして」

 「おいエイジ、俺でもこれなら持ってこないぞ。流石にな」

 「お前は味方じゃないのかよ」

 「それで持って来たのが、スクランブルエッグとキムチ。何考えてんですか。お菓子ですらない」


 家にお菓子が無かったから、仕方なく代用でもって来たのにえらく不評だ。どっちもおいしいのに。


 「これしかないって、ちょっと見せてもらいますよ」


 コーヒーを一口飲み、そのまま冷蔵庫があるキッチンに向かった。


 冷蔵庫を開けて、何もないことに驚愕している。


 「何も無い。文字どうり何も。これでどうやって生活しているんですか」

 「生活って、あった食材は全部食って、そのあとは外食とか弁当生活が・・・」

 「まあ、男二人なんて、そんなもんだよ」

 「この弁当のごみが二人の生活を物語っていますね。よくこれで生きていけますね。死にますよ」


弁当のごみといってもディーアがいなくなってからの数日間だからそこまで無いと個人的には思うけど、使用人としてはそうではないらしい。


 人の私生活にまで文句を言ってくるなって話だ。


 冷蔵庫に何もないのは本当だ。買い物をいざしようとするとこれが、何を買えばいいのかわかんなくなる。何が安いのか、何を買えばコスパが良くなるなど、買い物一つで考えることが山のようあるし、その時々のスーパーで売っている商品の値段、家の状況を観見しないとならず、ディーアって凄い奴だったと初めて実感した程だ。


 「今日から台所を預かった身としては、このような状況は到底許せません。支給買い物に行きます。あなた達二人はその玄関を直してください」


 そして、俺たち二人の財布を手に取り、中を開け札束を持って出かけてしまった。


 頭の整理が追い付かない。何この状況。


 整理すると、あの時買った奴隷が鶴の恩返し的な感じでなぜか我が家に来た。しかも一回俺たちを殺しかけた鶴が。案の定俺たちを殺しに来たのではなく、使用人メイドとしてきた。なぜ?そこが分からない。


 奴隷として買ったとしてももう解放しているから、主従関係は存在しない。だとしたら完全に俺たちのことをおもちゃとしてからかいに来た可能性が高い。だって俺たち二人で本気を出しても勝てなかったから。


 何がまずいってこの状況で俺たちには為す術がない。言うことを聞いて大人しくするか、今すぐにこの家から逃げて身を隠すしかない。幸い奴は出かけたから、ここが最大のチャンスだ。


 「で、どうするよ。ここから逃げるのか、それとも大人しく玄関を直すか。どっちの方が俺たちの生存確率が高と思う?」

 「ジン、そらもう・・・大人しく玄関を直そう」

 「その考えに至った理由を聞いても」

 「俺たちは変装していたとはいえあのメイドとやりあった。まあ、向こうが始めたとは言え俺たちは殺されかけた。そしてなぜかここに来た。どうやって探し出したのか一切謎だ。まあ様子見ってとこが妥当だと。何か狙いがあるにしろ、本当にメイドとしてやって来たにしろ、まずは探るしかない」


 今後の方針は決まった。クラリスが何を目的にここに来たのかを突き止めること。出来る限り穏便に離れられるように関係値を築くこと。


 平和的に双方納得いく形で行けば、俺たちがケガをすることはなくなる。ここは命大事に。


 「財布に金は残ってる?」


 机の上に置いてある財布の中を確認していたジンに声をかけた。

 

 「いや、中身全部持っていきやがった。金なんて小銭しかない」

 「どうやって玄関直すんだよ。何も買えないじゃないか」


 頭を抱えながらそう吐き捨てた。横目に真っ二つに割れた玄関ドアを見る。


 「これ、ガムテとかで補強して、くっつけて「直しました」なんて言ったら怒られるかな」

 「そりゃ100%怒るだろ。あの感じじゃ相当性格は厳しい感じがする。曲がったことは大嫌いなタイプだろあれ」


 どうしようか、どうすれば納得がいくか、そんなことを考えていたが、何もいい案が思いつかないので、


 「うがうがしていたらあのメイド帰ってくるだろうし、取り合えずホームセンターに行こう。どうせこの家には何も盗むものなんてないし」

 「行ってから考えるか」 


 どうやって直すかを考えずに、移動することにした。行ってみたら何かいい案が思いつくかもしれない。そう胸に期待して家を出た。


 二人が出て行ったのを確認した人物がいた。


 買い物に行くといって出て行ったはずのクラリスが、ベランダで二人の会話を聞いていた。

 

 「性格に関しては否定はしませんが、自分以外に指摘されるとむかつきますね。まあ、ここで逃げると思っていたからこうして待機していましたが、これはこれで面白くなりそうですね」


 そんな独り言をしながら今度こそ本当に買い物に出かけた。

 



 



 


 

 


 


 


 



 

 


 


 


 


 

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