勇者か
「勇者が現れたねえ・・・、それでいったい何が変わるっいうんだい?」
「結局、国のいいように使われてる奴隷みたいなもんが増えるだけだろ?かわいそうなことないぞ」
勇者が現れたと知って、その感想しか出てこなかった。
どんな時代であろうと、世界を救って来いとか言われて良いように使われるのが落ち。
なりたくてなったわけではないのだから余計に哀れである。
「なんでそんなに悲観的なの。そんなんじゃ無いから。勇者っていうのは武器に選ばれることを示すのよ」
「「は???」」
よくわからなかった。勇者っていうのはその国や組織、生まれた時に決まるものではないのか。なぜ武器なんだ?武器で何が決まるんだ?
「武器によって選ばれるっていうのは、ゆってしまえばその人にしか扱えない武器が存在するのよ。信じられないことに。他の人からすれば持てないくらい重い武器がその人だけは紙より軽かったりするらしいわよ」
その人にしか扱えない武器に選ばれるのか。そんなことがあっていいのか?
「その武器は一体何なんだ?何か知っているか」
「よくは知らない。製造方法も素材も何もかもが謎なのよ。でも圧倒的にどの素材で出来た武器よりも強いし耐久も凄い、何よりお手入れしなくていいらしいわよ。だからその武器が使える人をまとめて勇者と言っている感じ」
「謎めいているけど、とりあえず強いって感じか。俺たちも選ばれる可能性があるってことか」
「可能性はあるけど、今回勇者が現れたのだって数十年ぶりらしいし、そうそうないことだとは思うわ」
選ばれることはまず無いということだ。残念だ。
ただ勇者が存在すると国に活気が出る。それによって経済がよくなるのなら少なからず会うことはないかもしれないが生活に何かしら影響は出るだろう。
「まあ、まだ完全に決まったわけではないから余り期待しすぎるとよくないわね」
「勇者は武器に選ばれるんだろ、決まるって」
「勇者は武器に選ばれる。だからこそ善人にも悪人にもその選ばれる可能性がある。だから勇者に選ばれた人間は一度素行を調べられる。それをもとに生かすか殺すかが決まる」
「こえ~よ、悪いことしてたらそんな理由で殺されるのかよ」
「やべ~よ、俺悪いこと出来ね~よ」
まるで他人事のような感じで発言したら、ディーアにあきれられた顔をされた。
「そりゃな、まさか善人じゃなかったら勇者でも殺されるのかよ」
「仕方無いのよ、悪人が勇者に選ばれたことが過去にあってそれで国が滅びかけたことがあるらしいわよ。だからこそ最初が大切なの」
まあ、生きている人全員に勇者になる可能性があるなら、当然悪人に勇者の力が付くからな。国も早期発見、選別しないとならない。自分が国のトップだったとしても同じ事をする。
発見してから様子を見るわけでも無く殺そうとするのは、力をつける前の方が殺しやすいからだろう。まだ剣すら振るったことがない人が殆どだし、殺すのも簡単だな。
問題は、それを誰が判定するかだ。考えられるのは国のトップやその付近の権力を持った人だろう。
国にとって、最も戦力が増えるタイミングだからこそ大きなイベントではある。
「そうそう、私明日からお城の方に出張するから少しの間お家留守にするから家のことよろしくね」
「「え?なんで」」
今日は驚いてばかりだな。
「なんでって勇者の選別をするからよ。正しくはその見学だけどね」
「お前がすんのかよ」
「そんな責任が重いこと出来んのかよ」
「見学よ見学、私が何かをすることはないから」
ていうことはだ、俺たちは数日間は自由な時間を手に入れられるということか。最高じゃないか。
「なんかちょっと嬉しそうなのやめてくれない」
「「そんなことない、悲しいよ」」
おっと、顔に出てたか。危ない危ない。
「とりあえず食べ終わったし、そろそろ退院の手続きしないと」
そういいながら使った道具や、食器などを片付け始めた。
まあ、片付けると言っても洗い物は出来そうにないので紙で軽くふいただけだ。
その後、病院の診察室で軽く検査され、問題無かったので退院した。
病院から家までは歩いてちょっと距離がある。
まあ、よっくりと帰ろうと思う。
「明日朝早いから、このまま弁当買っていくからね」
「「はいはい」」
軽く返事をした。
今日は料理を作る気力がないらしい。
明日から何日行くかわからない合宿に行くようなものだと話していた。
本人は顔では勉強出来るぞっと意気込んでいるが、実際は行きたくないのかもしれない。
いろいろと世話になって迷惑かけたし、ここは
「弁当よりも、なんか外に食べに行こうぜ」
「行こうぜ、行こうぜ」
ジンも何かを察したのか俺の案に乗ってきた。
ディーアの顔が少し笑顔になった気がした。
だが、店についた瞬間にすごく暗くなった。
「仕方ないだろ。俺たちにはもう金がないんだから高い店に何て行けるわけないだろ」
「いやそんなんはわかってんのよ。ここは何?」
「何って、俺たちの行きつけの定食屋だ。ここが家の近くで安くてうまいんだ」
そういってドアをスライドして中に入って
「「おやっさん、この店で一番安いメニュー三つお願い」」
「送り出す気遣いはねえんかよ!なんだよ安いメニューって」
そんな冗談交じりに笑い合いながら翌朝、ディーアは城に向かった。
数日後・午前10時ちょうど
ピンポーン!
「ごめんくださ~い」
ピンポーン!
「ごめんください」
ピンポーン!
「開けてください」
なんなんだ、こんな朝早くから。
そう思って、回っていない頭で何とか目を覚ました。
「うるせえな、今何時だと思ってんだ。新聞の勧誘だったらぶっ飛ばすぞ!」
文句を言いながら玄関のドアノブに手をかけて開けようとしたときに、なぜか思いっきりドアが吹っ飛んだ。