運ばれた先
「二人とも全然帰ってこないな、どこで道草食っているのか」
そんなことディーアがぼそっと言っている。作ってから時間が少したち冷め始めている
夕飯んを眺めている。
今日の夕飯は腕に寄りをかけたグラタンだった。出来立てが一番うまい。
それでも一人で食べることをしなかった。
午後8時を回っていても、一向に2人が帰ってくる気配が無かった。
夕飯は、どこかで食べてくるのなら前もって申告するのが我が家のルールとなっている。
申告しなければ、みんなで一緒に食べる。それがもう習慣となっていた。
なので、ディーアは二人が帰ってこないと夕飯を食べることが出来ない。
三人そろって食べることが習慣になっていた。
「しょうがないか。帰ってこないし先にお風呂でも入っているか」
そういって風呂に入ろうとした。
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
陸船に揺られ、気持ち悪くなる中で、目を覚ました。
「あ~ぁ、気持ち悪るいし、体がめっちゃいたい、なんだこの状況」
命の恩人が救ってくれた。そんな都合のいいことはない。
ただ、気がかりなのは、捕まったと言うより拉致されたと言うほうが正しい気がした。
この乗り物、警察の護送船と比べて抜けだそうと思えば抜けだせる。
そんなに良い作りをしていなかった。
それに窓なども鉄格子などがついていなく、何より俺たちを監視する人が誰もいなかった。
「体は痛えし、自由はきかない。なんだこの状況は」
もしかしたら俺たちは売られるのかもしれない。奴隷を買ったんだ。
奴隷にされたって文句は言えない。
「いて、いてて、なんだここは」
ジンが起きた。
「おい、起きたか」
「ああ、ここはどこだよ。なんだよこれ、俺たち捕まったのか」
「そのようだな」
なんか俺たちの人生って全然良くねえな。
よくわかんねえ森に気づいたらいて、警察に捕まって、そのまんま牢屋。
俺たちが何したって言うんですか。
「誰が俺たちを捕まえたんだ。全く見当がつかない」
「そりゃ恨みがあるやつだろ、例えばバイト先の店主とか」
「なんでだよ。あんなにやさしそうな人がするかよ」
「わかんねえぞ、人は見かけによらないって言うし」
まあ、それは無いとして、一番可能性があんのは、俺たちをボコボコに
したババアだ。それだったら納得がいく。
「もしこれがあの時のババアだったら、俺たち終わりじゃねえ?」
「この物語も終了だな」
まずババアだった場合。俺たちは勝てない。
今さっき?なのかは分からないが、ボコられた。
俺が知らない、第三者だった場合、状況によっては
何とかなるかもしれない。
可能性としては少ない(そう信じたい)恨みを持った人
だった場合、俺たちは終わる。
どの道やばい状況だな。
船が止まった。窓から見た場所は俺たちが知らない場所だと思われる。
「おい、祈っとこう。もしかしたら、出てくるのが優しい人かもしんないし、
綺麗な女性かもしれない」
「そうだよな、こういう時に神様はいるって信じてるぜ」
扉が開くときに俺たちは全力で祈った。
「おいおい、ずいぶんと怪我してんじゃねえかよ、俺たちの
楽しみってもんが無いじゃねえか」
扉から顔を出したのは、俺たちが森で出会った盗賊の頭。
「「アーバン」」
想定していなかった。もう二度と会うことは無いと思って、可能性から除外してしまった。
こんな事ってあるんだ。
会うことは無いと思っていた人に会うと、思考が止まる。
「どうした、感動の再開だろ。笑えよ。おい、こいつら外に出せ」
「「「へい」」」
そう言われ、周りの盗賊が俺たちのとこに来て、手を引っ張って、
俺たちを外に出した。
焚火を焚いていて、その近くに座る。
正座をしながら手は後ろ。まるでこれから打ち首にでもするんじゃないか
という感じだった。
アーバンが近づいてきた。
「お前らのせいで俺たちは警察に捕まった。そうだろ。覚えているよな」
俺たちのせいで捕まった?何を言ってるのか分からない。
「なんで俺たちのせいになってんだ。意味が分かない」
「お前たちがあの時、警察を呼び込んだんだろ。調べはついているぜ」
調べってなんだ。完全な言いがかりだ。
「何をどう調べたんだよ。俺たちは何にもしていないし、悪くない」
「そうだ、そうだ。俺たちは何もしていない」
そもそも、警察だってあの時初めて会ったんだ。完全に俺たちじゃない。
「おい、お前、確かにこいつらが警察と話しているのを見たんだろ?」
そう言われ、小柄な男が近づいてきた。
「はい。こいつらが確かに警察を話しているのを見ました。そのあとに
警察が一斉に出てきたんです」
「ほら、仲間の人間がそう言ってんだ。信じなきゃダメだろ」
絶対お前の身内だよ、濡れ衣だよ。そんな言葉で俺たちは死ぬのか。最悪だ。
「まあ、そんなのはどうだっていい。俺は弱いものいじめが大好きなだけだ。
弱者を痛打っている時ほど楽しい時間はない」
「クソが、てめえの欲求を満たすために俺たちを拉致って、ボコすって言う魂胆かよ」
「最高だろ、何がいけないってお前らがあんな人気のないとこで血だらけで倒れていたからな、
これは拉致れって神様がきっと言ってくれたのさ」
そんなことを言いながら、武器の手入れを始めた。
手にもっているのは釘バットだった。手入れをすると言っても、
釘を打ち込んでいるに過ぎなかったが、あれで殴られると思うとゾッとする。
その間、アーバンの仲間が辺りを警戒している。
この場所を中心に円を作るような陣形を作っている。
人数にして20人くらいで作っている。
静かな夜だった。俺たちの近くにある焚火がバチバチっと音を立てている。
「さてと、殴る前に俺の能力を教えてやろう」
「なぜ?そんなことを言う必要なんてないはずだ」
「絶望を教えてやるだけで、俺のためだ」
そんなことかよ。とことんクソ野郎が。
「俺は、鉄の強度を少しだけ変えることが出来る。固くすることも出来れば逆に
脆くすることもできる。殴る時に脆くする必要はない。だから、今からこいつで殴るが
普通の釘よりも痛い。そのことを頭の中に入れときな。ぎゃははははは」
言い終わると思いっきり振りかぶって俺の腹に入った。
「ぐふ・・・」
やばいくらいに痛い。ババアにやられたとこでもあるから更に痛い。
「もう一発、ほらよ」
そういって、今度はジンの右肩に殴ってきた。
「ははああああああ」
ジンが項垂れた。今のも相当痛いだろう。
体がもうボロボロだ。
「ははははは、やっぱ楽ししな。それに、お前たちの目はまだ死んでいない。
やりがいがあるってもんよ」
釘バットを2,3回くらい素振りをした。
「今度はこれで、ホームランと行こうぜ。お前らの頭がどこまで飛んでいくのか
楽しみだな~~~」
気持ち悪い笑顔で近づいてきた。
その時だった。
「アーバンさん。聞いてください。大変です」
仲間の一人が急いで駆け寄ってきた。
「何だ、いまいいとこなんだ。クソみたいなことだったらお前を殺すぞ」
ひぇ、と声が聞こえてきそうだった。そして、一回間を開けてから話始めた。
「正体不明の何者かが接近しています。仲間も何人か消息を絶っています」
「敵か。数は何人だ。場合によっては場所を変えるぞ」
そう怒鳴っていた。そりゃ、これからおもちゃで遊ぶ子供がおもちゃを
取り上げられたら誰だって起こる。
要はこいつはただのガキだってことだ。
「それが、大変申し上げにくいのですが・・・・」
「だから何人なんだ」
「現在確認できるのは、たった1名です」
「なんだとーーーーー」
今日一番でかい声を出した。
たった一人に自分の楽しみを潰されそうになって、さっきまでの
顔が嘘のように、怒っていた。
「どこの方に行った。そいつをぶっ殺してやる」
「どこにも行っていないんです。ゆっくりとこっちに歩いてきています」
「そいつはちょうどいい。おもちゃが増えるぞ」
そういいながら、一人の男がある方向に指をさした。
「こっちの方からゆっくりと歩いてきています」
「そうか、わかった。後はあれがやる」
確かに、誰かが歩いてくる音がする。
一歩、また一歩と確かに近づいてくる気がする。
「ど~~~こにいると思ったら、こんなとこにいるなんて・・・・」
聞いたことがある声だった。
「悪い子には、お仕置きが必要だよね」
暗くて見えなかったが、近くよって初めてその顔が見えた。
それは希望では無かった。
アーバンの部下をボコしたのは、何を隠そう、
目が全然笑ってなく、一目でプッツンしたと分かるくらいに
切れているディーアがいた。