能力ってなんだ
意識が完全に朦朧としていやがる。
俺たちは、目の前のババアに殺されるのかもしれない。
俺たちに、もっと強い力があれば、こんな状況も打破できるのに。
世界は凄く残酷だ。
そう思いながら、俺は気を失った。
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
時間は戻ること、2月前。
自宅で、夕食を食べた後の時間
「そういえばあなた達って、どんな能力を持っているの?」
そんなことを言われた。こいつは何言ってんだと思った。
「なんの話をしてるんだ、意味が分からない」
「能力ってそもそもなんだ?」
ディーアが困った感じの顔をしている。
「生まれながらに、一人一つ何か特別な力を持って生まれてくるのよ」
「例外なく?」
「例外なんてないわよ」
俺とジンは顔を見合わせた。そんなことがあるのかと、半信半疑だからだ。
「そんなことも知らなかったのね、一体どんな田舎出身なのよ」
出身に関しては、何とも言えない。
「それって、常識なのか?」
「当たり前でしょ、まあ、使える能力の方が少ないけどね」
やべえ、めっちゃ興奮してきた。一体俺には何の能力があんだろうな。
あんなのとか、こんなのとか、やっぱ主人公だからな、いい能力なんだろう。
「ちなみに私は、嘘が分かる能力を持って生まれた。イェイ。(ダブルピース)」
嘘が分かる能力か。確かにそれは聖女としては使えそうな能力だな。
この能力とか言うものを、俺たちが使えるようになれば、戦いがもし起きても
戦える。
「おいジン、俺たちにももしかしたら秘められた何か特別な力があったってことさ。
これから、色んなことが可能になるぞ」
「確かにそうだな、手からビームが出たり、相手を遅くしたり、俺たちにだって
何かボーナスがあっていいはずだ」
がはははははは、人生が一気にバラ色になった。
・・・待って、今ディーアは何と言った?
使える能力の方が少ない?どういう意味だ。
いあ、きっと能力という特別な力を持っている物の、それが使うことに制限がかかって
という意味だ。きっとそうだ。
「あ~あの、ディーアさん。その使える能力の方が少ないって、一体どういう意味なのか
お伺いしてもいいですかね?」
「そのまんまよ、使い勝手がいい能力の方が少ないの。よくわかんなかったり、
これってどこで使うのか分かんないみたいな能力が大半よ」
バラ色の人生から、一気にどす黒い真っ黒までテンションが落ちてしまった。
「た・・・例えば、使えないってどんな能力になるんですか?」
「そうね、例えば、虫に刺されにくくなったり、寝ている時に汗をかかなかったり、
トイレが終わった後にいい匂いがするとか」
終わった。俺の能力が分かってしまった。
無言で水道に向かった。
コップを手に取り、水道から水を出した。
普段なら、そこから出てくるのは透明な水だが、俺が能力を使って違うものが
出てきた。
「なあ、まさかとは思うが、これが俺の能力じゃなかったり・・・」
「それでしょ、だって普通の人は蛇口からそんな物でないもの・・・あはははははは」
ディーアにめっちゃ笑われた。
それもそうだ。水道から出てきたものは、オレンジジュースだった。
「それが能力なのか。そういや子供の時にそんなこと出来てたな。でもそれって
確かあれだったよな」
「そうだよ、俺はオレンジジュースを蛇口から出すことが出来る能力だよ。
なんでこんなの能力なんだよ。主人公だぞ」
どんな能力だよ、前代未聞だぞ。
主人公の能力がオレンジジュースって。何が出来んだよ。
「でも、それを売ればお金だって稼げるでしょ」
「まあ、そういうなら飲んでみろ」
そういって、コップを手渡した。それをディーアが飲んだ。
一口飲んだ瞬間に、それ以上飲もうとしなかった。
「なにこれ、めっっっちゃ薄くない!!!」
「そうだよ、俺が出すオレンジジュースは1/4の濃さしかない。
だから売ろうにも失敗作とかでしか売れない」
「やっぱ使えない能力だな。久々に見たけど使い方が謎だなそれ」
「うるせえ、そういうジンはどんなん持ってんだよ」
ジンがすげえ自信満々な顔をしている。
こんな顔をするってことは、こいつもクソみたいな能力だ。
そう思った。
「俺様の能力はーーーー、何とーーーー、座っている椅子の温度を調節出来る」
俺とディーアは顔見合わせた。使えね(な)ー。
「ほらほら、なんか感想はないのかよ」
「ねえよ、いつ使うんだよ」
辛辣な回答をした。予想通り使えない。
「バッカだな~、実は今も使ってるんだぜ。触ってみろよ」
そう言われ、ジンが座っていたとこを触った。
「冷たい」
「だろ」
なんか顔がムカつく。
「だからか、汗があんま出ないのは」
「ご名答。だけど俺もさっきまでみんなこれが出来ると思っていあたからな」
俺たちが使えない能力なのではなく、ディーアが良い能力を待っているだけだった。
そう考えないとやっていけない。
この能力は、いつ使うときが来るんだ?一生来ない可能の方が高いから
考えれば考えるだけ悲しくなる。
「でも、どうして能力だって分からなかったの?普通に使い方分かっていたのにさ」
「ああ、それは俺たちの国だとこれは呪いって呼ばれてたからだな」
「呪いって、国が違えばそんな考え方もあるのね」
「だからか、普段から気にもしないかった」
国によっては能力は一般的と考えられるものもあれば、呪いと言って能力から離そうと
することもあるのか。これは大きな収穫だ。
だけど、
主人公:水を1/4のオレンジジュースに変えることが可能。
相棒:触れている物の温度を調節可能。(14度~38度まで)
ヒロイン:他人の嘘を見抜くことが出来る。(オン、オフ切り替え可)
ヒロインだけ、おかしくないですか。俺たちどんだけよくわかんない能力なんだよ。
クソが。神様なんていない。そう思ってしまった。
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時間は戻って。
何か揺れている。朦朧としているが、意識が少しずつ戻ってきた。
手にはロープがされていた。
陸船で俺たちは移送されている。
誰かが助けてくれたのか?
謎が多い。
陸船とは、陸移動に使われる船で、1mくらい浮いて移動する。