釈放
刑務所内の部屋にて、目を覚ました。
「あれは、・・・何だったんだ。あの最後のフラグ回収は何なんだよ」
今にも思い出したくない。そりゃあんなのが毎週くるってんだから、あんなに憂鬱にも
なるってもんだ。俺たちは罰を受ける立場だから断ったりする権利もないだろうが、
あれは酷い。ひどすぎる。聖女に夢や希望がないってのはこう言うことを言うんだろうな。
「おい、起きろ」
そういって、左で寝ているジンの頬をビンタした。
「俺は、もう死んだのか」
「寝ぼけてんじゃねえよ」
そういってもう一発ビンタした。
そこに、一人の人間がやってきた。俺たちがここで最初に出会った
変態のじいさんがいた。
「どうだった、最初の教会での祈りは」
そんなことを笑顔で聞いてきた。なんでも、ここだと最初の一回目を受ける奴には
どんな内容なのか言わないことが決まりらしい。それを看守長から言われて、守っている
だけだったと言うことを言われた。
「すまんかったな、まあ、これも人生経験じゃ」
((そんな経験したくねえよ))
言葉が重なった。
「とは言っても、この刑務所じゃ最悪なのはあの女だけで、他はいたって普通、
いや、いい方だと言える」
「あの女には同意できるが、他がいい方ってのが気になるな」
こんな生活にいい方も悪い方も存在しないんじゃないか。
第一に、俺たちの賃金が相当低いぞ。
「確かな休みがあり、することは石の運搬。太陽が拝めないのは確かに痛いが、
治安もそれなりにいいし、何より自由がある。これは他の刑務所じゃありえないことだ」
確かにそうだ、一般的な刑務所には、ドンというようなボスがいたり、派閥が
あったりする。それなのにここでは、各々がのびのびと暮らしている。
「そういえば、ここに来てもう1週間位になるけどよ、じいさん、なんで就寝時間がないんだ?」
ジンか疑問をぶつけた。確かにここでは、ある程度のことが起きても基本看守が何かを言ってくることはない。
「そりゃそうさ、ここは世界でもランクが一番したな、軽犯罪者が集まるところだからな」
「一番下だから、基本的な自由が許されると」
「そういうことじゃな」
そして、俺たちの上の方を指さしながら、
「俺たちが受けているバツがこの空じゃよ」
「空が見えないってことか」
うんうんとじいさんは頷いた。
「空が見えないってことは、今が太陽が出ているのか、星空なのか、晴れてるのか、
雨が降っているのか、そういったことが知れない。変わることのない生活がこんなに
きついとは思わなかった。」
「それが意外ときついってことか?」
「ああ、そうじゃな」
空を奪う罰。一見簡単で、なんだ楽勝じゃんと思うようなことが、長ければそれだけ
地獄に変わるということか。
「まあ、あの教会が勇逸、空が見える場所なのが希望じゃ。話は以上じゃ。
これからまたきつくなるから早めに寝ておく事をお勧めするよ」
「そうか、まあ今後ともよろしく」
「長生きしろよ」
じいさんは、ははははっと笑いながら俺たちの前から消えていった。
「ここでの最難関があの教会の歌だったら、何とかなるさ」
「そりゃそうだけどよ、地獄には変わんないぜ」
つらいだろうが、今後は椅子に固定なんてことはないから、耳を手で塞ぐことが出来る。
それで、幾分かましにはなる。
「俺たちは、あの爺さんとは違って、まだ難民扱いだったはずだ。
だからあと数か月の辛抱ってとこだな」
「そりゃそうだけどよ、嫌なものは嫌だ」
「子供か、お前いくつだよ、もう大人だろ、それに毎日じゃないから
我慢することはできる」
そういいながら眠りについた。
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
そんなこんなで、俺たちの代わり映えしない日々が続いた。
毎日石を削り、穴を掘り、石を運ぶ。そして毎週金曜日教会に足を運ぶ。
約期間にして2か月くらいだった。体感としては半年以上いた気がするくらい
精神的には疲れていた。
そしてその日に、終わりが来た。
「やっと、終わりが来たんだな」
「ここともついにおさらばってことさ」
今日、12時になったら出ていくことが決まった。
最初の週に問題行動は起こしたものの、その後はこれといった問題を
起こさなかったので、釈放が認められた。
「なんだ感だ長く感じたここでの生活も、今にして思えばあっという間だったな」
「・・・何この最終回みたいな感じは。俺たちまだ始まって、森で遭難して、
ここにきただけ。物語としては何も進んでいない」
作品として何にも始まっていない。
「いいじゃねえかよ、ここで締めくくろうとしても」
「いやいや、俺たちなにした、精々お前が若い男に殴られたくらいしか作品進んで
無いぞ」
「まあ確かに殴られたけど、安心しろ、あいつは必ず見つけてぶっ飛ばす」
「じゃあ、今後の展開はその男見つけてお前が殴るでいいんだな」
「それだと、この作品全然面白くないぞ」
この先のことは誰にも分からない。
「何をぶつぶつ言ってるんだい」
そこにはここで一番世話になったじいさんがいた。
「これからのことでちょっとな」
「若いうちは自分の進みたい道に進んでみると言い。その結果間違っていても
それもまた人生」
「なんか、失敗した経験でもあんのかい」
ジンらしく、直球ストレートに聞いた。
「昔にちょっと失敗しただけじゃ」
「そうか、・・・興味はない。それはあんたの人生だ、俺たちには俺たちの目標がある」
聞いといて興味がないって、結構失礼なこと言っている。まあ、ジンらしいが。
「またどこかで会えたらその時はよろしくな」
「こちらこそ、また」
「元気で、じいさん」
「ああ、お前たちもな」
看守の一人が腕時計を見て、
「そろそろ時間だ」
そう、言ってきた。そして、長い長い階段を上に歩いた。
「また、どこかで会えるといいな」
「ああ、そうだな」
そんな会話をしながら上までついた。
そこには大きな扉がある。この先には大きな町があるらしい。
俺たちはこの国の住人として認められた。
「もうここには来ないように心がけることだな」
そこには看守長がいた。
「言われなくても来る気はない」
「そうか、俺にはまたここに、いや、もっとランクの上な刑務所に行く気がするな」
「そうかい、そのあんたの予想が外れることを祈るよ」
「祈るな、一度罪を犯した人間が外に出ることなど俺はあまりいいように
感じないがな」
「俺たちは難民だぜ、犯罪者じゃい」
俺たちは難民扱いなはずだ。こいつ頭いかれてるんじゃねえか。
「俺が言っている罪ってのは、最近のことじゃない。ずっと昔にお前ら
何かやっているだろ」
「なんでそんなことを聞いてくる。それに、そんな事実はない」
「まあ聞き流してくれて構わない。これはただの俺の感だ」
「そうかい、なら聞かなかったことにする」
自分の感を信じているな、確証はなくても何かを肌で感じたのかもしれない。
あるいは・・・・・
「まあいい、時間だ。門を開けろ」
「「は!!!」」
そして、門が開いた。
この瞬間に俺たちは釈放された。