護送中
周りを警察に囲まれ、為す術も無く盗賊と勘違いされたまま捕まる。扱いは酷いもんで、両腕を抑えられうつ伏せにさせられた。
顔を地面につけられた時に土が口の中に入ってくる。それが自分の唾液と混じって終始気持ち悪かった。抵抗しようとしたが警察の方が圧倒的に人数も力も強く、ならばせめて弁明をしよともがいた。
結果は聞く耳すら持ってくれなく、俺が何を言っても無視された。
警察だと分かったのは、周りの盗賊がこぞって叫んでいたからだ。一瞬でも判断が早ければ逃げられたかもしれないが、本当に運がない。
そして、そのまま護送されている。どれくらい時間が経ったかはわからないが、朝日が昇って来た。
ずっと暗かったから、太陽が目に染みる。
丁度朝日が目に入ってきたからか、ジンが気持ちよく目を覚ました。
「お・・・、おはよぅ」
「やっと起きたか、よく寝られたな」
捕まってからおよそ5時間は寝ていただろう。まあ、眠っていたというよりは
気絶していたと言った方が正しいのかもしれない。
そんなことはいいとして、いまの現状の方が大切だ。
「ここはどこなんだ?」
そう、ジンがそういう反応をするのも無理はなかった。今、俺たちがいるのは・・・
「護送船にいる」
「てことは、俺たちは捕まったのか。なんで?」
ポカンとした顔を向けてきた。
「のんきだな、もっと驚くと思った。理由は知らん。お前が吹っ飛ばされて気絶している間に警察がきてそのまま逮捕。で、今に至る」
捕まる事自体は正直何とでもなる。俺たちには行く当てもなかったわけだから、このまま、まずは人のいるとこに行けるに越したことは無い。
この船は犯罪者を運搬するために作られているので、窓には頑丈に鉄網が張ってあり脱走は出来ない。それに警察官らしき奴らが何人もいる。さっきから時々目が合うから何か気まずい。
「そういや、あの時いた光ってる剣を持った奴はどこ行った?俺はあいつを見つけ出してぶん殴りたいんだが、一緒に捕まったか知ってるか?」
「剣を持った少年?そんな奴は捕まっていないと思うぞ。少なくとも俺は見てない」
「ふざけんなよ、いきなり殴ってきて、しかも勝ち逃げじゃねえかあ、ぜってぇ見つけてボッコボコにする」
ジンが拳を強く握りしめ、思いっきり椅子を強打した。辺り一帯にドン、という音が響き渡った。警察に凄く睨まれているがそこは無視する。
確かに今言われて気づいたが、あの時の少年はどこに行った?微かにだがあの場にはいた気がする。ここにいないってことは、他の護送船にいるか、または・・・
そんな事より、ジンに話さなくてはいけない内容があることを思い出した。
これは、全員が寝ている時に警察と話した内容になる。要は、俺たちがどのように処罰されるかの話し合いをした。
「ここで、良い話と悪い話がある。どっちが聞きたい」
「今最悪の状況でさらに悪い話があんのかよ、えっと、えっと・・・いい話」
俺は精一杯の笑顔を作った。人をおちょくる顔だ。口角をあげて、目を限界まで開く。その顔をジンは凝視して来た。何やってんだこいつ?みたいな感じで見てきたが、本当に何やってんだろうとなんだが悲しくなってきた。場を少しでも和ませようとしたが、それが裏目に出るってこんな感じか。まあ、いい。
「まず、俺たちはそこまで罪にならない。よってそんなに長く刑務所には入らない」
「それはいい話なのか、てっきりこのまま初犯だから解放してくれるのかと」
「そんなことにはなんないだろう」
ジンがですよね~みたいな顔をしだした。斜め上を見ながら空返事をする。
「なら悪い話ってなんだ?」
「俺たちは無罪を証明することが出来ないので黙って判決を聞くしかない」
これが悪い話だ。俺たちはそもそも弁護人を呼ぶことが出来ない。保証人もいない。結果、よくわかんない奴らと、出会って数時間一緒にいただけで捕まり、刑務所に行くという最悪な展開になってしまった。
なんだ~不運なんてレベルじゃねえだろ。更にジンの顔が上の空に行っている。俺たち、ここまで不運なことありますかってくらい不運が続いている。
ようわからん森で遭難し、池でよく分からない妖精?精霊?みたいなやつに騙され、盗賊と和んだかと思えば逮捕。不運の主人公ならここでとびっきりの美人冒険者が助けてくれる展開だろうが。何でむさ苦しいおっさんに挟まれながら過ごさなきゃいけない。俺が何したって言うんだ。
現実って、そんなに甘くないのか。悲しい。
今の置かれている状況に感傷になりながら、外に目を配る。目に入るのは微かな光。天気がいいのか小鳥の鳴き声が良く聞こえる。
「これからそうなるんだか」
口から本音がこぼれ出てしまった。
「今までいいことなかったから、楽しくなるばかりだろもしかしたら刑務官が美女だったりしてな」
などと冗談を言い合って時間をつぶした。そして護送船が止まった。流石に運転手にも休憩が必要だ。
なので自分たちもここで休憩になる。とはいっても出来ることなんて何もない。警察官が何か食べ物を食べ始めた、とてもいい匂いがする。
簡易キャンプみたい物を地面に設置し、そこに焚火の準備をしている。そして、バックの中からフライパンを取り出して調理をし始めた。
「俺たちここに来てからまともな食事してないよな」
「ああ、もしかしたら今日こそはまともな食事にありつけるかもしれないな」
そう言って、期待と胸を膨らませて待っていた。警察が作る料理とはなんだ?そんな事を考えていたら1時間も経っている。流石におかしい。完全に俺たち忘れてるんじゃないか、そんな風に思えた。
ずいぶん前から警察は食事にありついている。
「早く食事にありつきたい、いい加減に持って来て欲しいな」
食べなさすぎだった。約1週間まともに食事をしていない。そんな日が続きすぎて感覚がおかしくなった。普通に考えて果物だけで生活しているようなものだった。
生きることは可能だけど好んでそんな食事をし続ける奴なんてそうそういない。だから早く食事が欲しかった。まともな飯を食いたかった。
流石にもう限界だと思い遂にジンが言った。
「おい警察、俺たちのとこにまだ食事が届いてないぜ」
それを聞いた警察は何とも思っていない顔をした。
「おい、聞いてんのか」
ジンが若干切れていった。ジンが吹っ切れて声を荒げながら叫んだ。状況が状況なだけに仕方がない。そしたら警察が喋った。
「なんでお前たちに食事が必要なんだ」
そんなことを聞いてきた。こいつは何言っているんだ?俺の聞き間違いか、そんな風に思った。だが、ジンの反応を見るにそれは聞き間違いではなかった。
ジンもジンで、切れていたのに看守が喋ったら、怒り抑えながら唇をかみしめている。だから俺が喋るしか無かった。
「それは一体どういう意味だ?」
「あ~ん、そのまんまの意味だろ」
いやいや、意味わかんない。飯を俺たちの分も用意してほしいだけ。流石にどうなんだ、こんなんで警察が務まるのかさえ疑った。自分達だけよかったらそれでいいのか。そしたら
「意味が伝わりにくかったか、ガキはなんでも聞けば教えてくれると思うから嫌いだ、いいか、なんで犯罪者に食事が必要なんだ」
そう言われた。だから理解した。この警察が何を言っているのか。
「もういいか、俺は忙しいんだ」
そう言って警察は行ってしまった。もう俺たちに要は無いとばかりに一回も振り返ることなく、他の警察のいる所戻った。
「おい、どういうことだよ、俺たちだって食事しないと死んじまうぞ」
言いたいことは分かる。要は何かといえば、犯罪者には飯を作ることはしない。その過程で死んでしまったらそれまでとでもいう対応をしてくる。
ここにいる全員がそう言った考えなのかわわからない。だけどさっきまでいた警察はそう言った考え方をしている気がする。
「これは単に運がなかったな、俺たちはどこまで運が無いんだか」
そんなこんなで護送船はまた出発した。それからというもの、腹が減っているため、これ以上無駄に体力を使うのはきついと2人とも考えて、眠るしかなかった。正直に言って寝心地は最悪だった。布団も枕も何も無く、ただ硬い床で寝ていることしか出来なかった。こんな事になるなら、あの時に無視していればよかった。
あんなアーバンなんて野郎に出会いさえしなければ、そう後悔しながら深い眠りについた。
どれくらいの時間が経ったかはわからないが、日が暮れようとしている時に警察がが怒鳴って俺たちを叩き起こした。
「おい、着いたぞ、さっさと出ろ」
そう言われて俺とジンは護送船を降りた。
ついた先に、待ち構えていたのは。
 




